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第53話 革靴職人


革靴の製作に必要な材料は、迷宮の低層で手に入るものばかりだったが、特殊な道具は職人が手作りで用意するらしい。シャロンの亡くなった夫が使っていた道具が、以前住んでいた家に放置されているため、それを持ってきて靴を作ることにした。


タカシは、シャロンの以前住んでいた家をそのまま作業場として使いたかったが、シャロンが言うには職人ギルドに入っていないと借りる権利がないらしい。シャロンが奴隷落ちしてから借り手がなく、暴動の時にすがる気持ちで逃げ込んだそうだ。家の中の道具や材料は放置状態で、使えるものは全て持って帰ることにした。シャロン夫婦の私物なので犯罪にはならないはずだ。


シャロンは少しずつ記憶を呼び覚ましながら道具を並べ始めた。作業場に残っていたなめし済みの革を使い、靴を試作し始めた。タカシは途中まで横から見ていたが、シャロンに任せて九層での狩りをすることにした。シャロンの革靴作りがうまくいけば、もっと大量の獣の皮が必要になるはずだ。


タカシが迷宮から戻ると、疲れた顔のシャロンが出迎えてくれた。「靴はどうだった?」と聞くと、シャロンは申し訳なさそうに試作した靴を見せた。それはとても使用できそうにない、不揃いで歪んだ形をしていた。縫い目もバラバラで、途中で挫折したとわかるほど大半が縫われていない状態だ。


タカシは落ち込んでいるシャロンを励ました。「誰でも作れれば職人はいらない。気にすることはないさ」


タカシは試作された靴をしばらく眺め、革同士を繋げていた糸をほどき、それぞれの革のパーツを並べた。そして思い立ったように出かけ、中古の靴を二足買って戻った。シャロンにそれぞれの靴の履き心地を聞き、元から履いていたシャロンの靴を含めた三足の中で、一番履き心地がよくて丈夫そうなものを選ばせた。


タカシはその靴を分解し、部品ごとに並べた。なめした革にそれぞれの部品を当て、ナイフで切りそろえていく。シャロンはタカシの手際の良さに驚いた。Cクラス冒険者であるタカシと一般人のシャロンでは、力の強さや器用さに大きな違いがあるのは当然だった。


見る見るうちに靴ができあがった。シャロンは自分との違いに自己嫌悪に陥る。タカシはシャロンに履いてもらい、履き心地を聞いた。さらに獣人奴隷を数人呼んで同じように履き心地を聞いてみた。見た感じでは問題なさそうで、特に文句が出ることもなく、表情からも好評のようだった。


手応えを感じたタカシは、木でそれぞれの部品の型を作り、効率的に同じ靴を作れるようシャロンに助言を求めながら細かく手順を決めていった。そしてタカシは獣人奴隷を呼び、作り方を説明しながら実際に作ってみせた。


木で作った型に沿って革を切断し、全く同じ部品を作る。次に穴開け用の木型を使い、切りそろえた部品に釘で等間隔に糸を通す穴を開ける。最後に、靴の型に合わせながらそれぞれの革を縫い合わせる。


タカシは靴一つを初めから一人で作るのではなく、それぞれの作業を分担させた。切る者は切るのみ、穴を開ける者は穴開けのみ、縫い合わせる者は縫うのみの作業をするようにしたのだ。そしてシャロンは技術指導に専念する。これなら早く作れるだけでなく、型を使うことで個体差が少なく、同じ作業を繰り返すことで上達も早いはずだ。


タカシはシャロンに、獣人グループを六人一組にして順番に作らせてくれと指示を出した。


「そうだ、獣人という労働力が多くいるんだ。中古を買うだけでなく、必要なもので作れるものは作ろう!」


タカシは市場調査を行ったが、服は材料費が高く自作しても中古を買うのと大差ない。フード付きマントは価格と供給が安定しておらず、作った方が安い可能性はあったが微妙なところだ。ショートソードなどの武器は、それなりの設備が必要なため素人では手が出せないし、迷宮でのドロップ品でもあるようだ。作るよりも買った方が安い。市場に出ている物の中には迷宮のドロップ品も多くあるらしく、詳しくはセルマに聞けばわかると思った。


とりあえず靴を人数分作ってから考えようと決めた。タカシは中古のフード付きマントとショートソードを六人分だけ購入した。


そして、二十四名の獣人たちを購入してから四日目。タカシは獣人奴隷たちを六人一組にして迷宮へ連れていった。奴隷たちはフード付きマントを羽織り、腰にはショートソード、そして作りたての靴を履いていた。


獣人奴隷たちも狭い部屋にずっといるのはストレスだったらしく、迷宮での狩りを楽しんでいるようだ。衰弱が激しくベッドで寝ていた五人の獣人も、動けるようになっていた。


タカシは迷宮で、獣人奴隷に声をかけながら、一人ずつ安全地帯の部屋に呼び出して抱いた。狭い部屋からの開放感か、戦闘の高揚か、単純に気持ちいいのか、拒否する者はいなかった。


四時間程度狩りをして家に連れて戻り、また新たなグループを連れて迷宮に入る。タカシは休憩なく迷宮に入るため大変だったが、基本的に狩りは獣人奴隷に任せているため、腰以外にはほとんど疲労は残らなかった。


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