第5話 シャロン
その時、タカシの視線は、ひとりの奴隷に釘付けになった。
彼女は牢屋の隅に座り込んでいたが、それでもわかるほどの整った顔立ち。そして、服の上からでもわかる豊満な胸。こんな美人でスタイルのいい子が、なぜ金貨一枚で売られているのだろうか。
タカシが首を傾げていると、サイロンがにやりと笑い、彼女に視線を向けた。
「そいつは、訳ありの中の訳ありってやつよ。いい女だろ?レアの価値はあるように見えるだろ?こいつの訳ありは二つあって、一つが年齢だ。二十八歳と、ちょいと年がいっている。そしてもう一つ、こっちの方が大きい。この可愛い顔して、手癖の悪い犯罪奴隷なんだぜ。メイドとして働いていた家の金を盗もうとしたところを捕まった。救いようのないバカな女さ」
サイロンはそう言いながら、手に持っていた短い鉄棒で牢屋の格子をカンカンと叩く。
「おい、シャロン!お客さんだ。前に出な!」
サイロンの命令に、シャロンと呼ばれた女はゆっくりと立ち上がり、タカシの前に姿を現した。その表情には、何か悲痛な感情が滲んでいた。
「違うんです!」
彼女は一息に訴えた。
「給料日なのに給金がもらえなくて……旦那様から『給料日に私がいなかった場合は、勝手に取っていい』と言われていた給金の小袋を取った時に、奥様に見られてしまったんです。誤解されてしまっただけで、旦那様さえ戻ってくれれば、きっとわかってもらえるはずなんです!」
シャロンは必死に訴える。するとサイロンは大声で笑い出した。
「ガハハ!だからお前はバカなんだ!お前は奥様にはめられたのさ。そろそろ気づかないとな。三ヶ月も経つのに、なぜ旦那様は迎えに来ない?おかしいじゃないか」
サイロンの言葉に、シャロンの顔から血の気が引いていく。その動揺した表情も、タカシの目には美しく映った。
「なあ、お客さん」
サイロンはタカシに話しかけた。
「どうだ?この動揺した顔も色っぽいだろう?そして、そのいやらしい体……」
タカシはサイロンの言葉に何も答えず、ただシャロンを見つめていた。するとサイロンは再びシャロンに向き直った。
「旦那様は凄く優しかったんじゃないか?だからお前は、助けに来ると信じている。でもな、それはお前の体が目当てで優しくしていたんだ。そんな旦那の様子を見て、奥様は浮気を警戒し、お前を罠にはめたのさ」
サイロンはさらに残酷な言葉を続ける。
「お前は旦那様の優しさに甘えるんじゃなく、奥様に気を遣うべきだったんだ。それに気づけなかったお前が罪を背負うのは、当然の報いってわけよ」
シャロンはサイロンの言葉に打ちのめされ、その場にへたり込んでしまった。タカシは、そんな彼女の姿から目が離せなかった。
「こいつはな、自分の境遇に納得できなくて、いい買い手が現れても買われないようにしていたんだぜ。旦那様が迎えに来ると信じていたからなあ」
サイロンは嘲笑うように続ける。
「そして、諦めた時には心労で体を壊して、見切り品に落ちたって流れよ。ったく、手間のかかる女だ」
タカシはシャロンのこれまでの経緯を聞き、強く同情を抱いた。
「で!シャロン、どうする?このままだと見切り品が行きつく先、何回も説明したよな?」
サイロンは顔を近づけ、シャロンに言った。
「このまま売れずに二ヶ月後に送られる場所は、軍隊か、鉱山か、農園か、最近は少ないが開拓村か……まあ、どこも朝から夜まで働いて、寝る時は毎晩違う男に抱かれる。他の奴隷も、厳しい主人に買われれば大差ないかもしれないがな」
サイロンはどこか寂しそうに言った。
「ただな、見切り品が売れずに行きつく場所には、一つだけ大きな違いがある。いくら奴隷を送っても、『もっと送れ、もっと送れ』と催促がくる。どうしてだと思う?今まで送った奴隷は、誰一人生きて戻っていない。そんな場所よ」
サイロンの言葉に、シャロンの顔は絶望に染まった。震える体で、彼女はタカシを見上げた。
「お、お願いです。私を買ってください!」
シャロンはすがるようにタカシに懇願する。その声はか細く、今にも消え入りそうだった。
タカシに迷いはなかった。
「買います」
タカシは金貨一枚をサイロンに差し出した。




