第49話 思いがけない来客
タカシは久しぶりのシャロンとの二人だけの時間を過ごし、彼女の体を堪能した。
日中は主に情報収集と、残りの獣人奴隷二十人を買うための手段について話し合っていた。タカシは、シャロンや他の人間が主人になれば問題が解決することはわかっていたが、それは最後の手段にしようと決めていた。予算の問題も重要だった。余裕はない。今後何があるかわからない以上、ショートソードやフード付きマントを買わない決断は正しかった。
今回のディオス領での依頼を受けて一ヶ月後に正規報酬の金貨十枚とギルド報酬の金貨十枚、合わせて金貨二十枚が手に入るはずだ。それで奴隷を二十名購入し、王都を脱出するのが大まかな計画だ。予算的には今すぐ二十人購入することはできるが、服や靴、ディオス領までの食料などを揃えると足りなくなる。そのため、報酬が入るまでは情報収集に徹することにした。
情報収集のために奴隷商や冒険者ギルドを行き来するが、ふとした瞬間にキャロの笑顔が脳裏をよぎり、思わずキャロを探してしまう。タカシとシャロンは、キャロのことを話すのをお互いに避けていたが、気づけば話が出てしまう。そして二人は涙し、しんみりとした時間を過ごすのだった。
カリンたちが王都を出てから約二週間後、思いがけない来客があった。フードを深くかぶったミオとメグだ。タカシはなぜ二人が王都にいるのか理解できず、驚いた。
二人は家に入るなり、タカシの前にひざまずき「お願いがあります」と言った。タカシはこの流れをどこかで知っていた。想像通りの言葉がミオとメグから出た。
「私たちに奴隷紋を刻む代わりに、奴隷を買って欲しいのです」
残り二十人分の購入はすでに伝えていたが、前回購入した奴隷が犬人族ばかりだったため、猫人族も買ってほしいと言うのだ。タカシが犬人族ばかりを購入していたのは、亡くなったキャロへの思いが強くあったからだ。今後、猫人族を買っていたかと問われれば、わからなかった。
しかし、タカシにはまだ奴隷紋に対するわだかまりがあった。許可を躊躇っていると、ミオが話を続けた。
「実は、他にも理由があるのです。私の本名はミオーネ、猫人の族長です。いえ、元族長というのが正しいですね」
タカシは衝撃的な告白に言葉を失った。
「今回の戦争の発端は、獣人族十六氏族の氏族長が亡くなり、次の氏族長を決める話し合いが行われていたことにあります。氏族長候補は最終的に二人。亡くなった氏族長の息子である虎人族長のガリウス、そして私、猫人族長のミオーネでした。そこで今回の戦争が起きたのです」
ミオーネは淡々と続けた。
「氏族長候補の猫人族と、その推薦人である犬人族の村々は、なぜか敵側に位置がばれており、私たち二つの氏族ばかりが被害を受ける状態でした。他の氏族たちに救援を求めても援軍はもらえず、他の氏族の村に逃げ込んだ者が追い出されることもあり、今回の戦争が虎族長ガリウスによって仕組まれたものだと確信しました」
「私は、ガリウスに対して許しを請い、仲間たちの命乞いをしました。ガリウスから出された条件は、メグと共に人間族の奴隷になることでした。だから、私が奴隷でいるのは義務でもあるのです」
ミオーネはタカシをまっすぐ見つめた。
「しかし、同族の奴隷になっている者たちと比べ、私の生活は良すぎます。族長として何もしてやれない。それをキャロやカリンの姿を見て、目が覚めました。タカシ殿、私に奴隷紋を入れる許可をお願いします」
タカシは驚きで頭が回らなかった。メグをちらりと見ると、メグははっきりと言い切った。
「私はミオーネ様についていくと決めていますが、それだけではありません。タカシ様が初めての相手で、尊敬できる相手だと判断したからです」
タカシはミオとメグの思いを受け入れ、二人に奴隷紋を刻むことを承諾した。
「二人の気持ちはわかった。ただし、キャロやカリンに出した条件と同じことを約束してもらう。奴隷の躾を責任を持ってすること。そして、二人にとってどれだけ大切な人だろうと、俺は抱く。これは譲れない」
「もちろんです!理解しています」
二人は力強く同意した。
タカシは、シャロンと考えていた規定数六人以上の奴隷を買う方法について話した。
「王都には二人を買った奴隷商以外に、二つの奴隷商がある。別の奴隷商で購入する」
タカシはミオとメグを連れて、商業区の倉庫街外れにある城壁近くの奴隷商へ向かった。そこは倉庫を利用した奴隷商で、大きな部屋にいくつも牢屋が並んでいた。ここも獣人奴隷が余っているようで、すし詰め状態だ。
タカシは対応してくれた中年の男に、ミオとメグに奴隷紋を入れ、猫人族奴隷を六人買うことを伝えた。六人以上購入できないか交渉しようとしたが、交渉の余地なく断られた。タカシは交渉が苦手なようで、テーブルにつくことすら難しかった。
ミオとメグに奴隷紋が刻まれ、二人に獣人奴隷を六人選んでいいと伝えたが、二人は同族だからこそ選べないと言い、フードを深くかぶった。タカシは二人の意思を尊重して先に帰らせ、自分の好みで猫族奴隷六人を選んだ。
奴隷紋と獣人奴隷の料金は、サイロンがいる奴隷商と変わらなかった。
タカシは新たな猫人奴隷六人を連れて家に帰った。ミオとメグを見た猫人奴隷たちは、歓喜の声を上げる者や嬉し泣きする者もいた。ミオは同族たちをねぎらい、謝罪し、現状を説明した。
その間、メグはセルマからの伝言をタカシに伝えた。ディオス領では武器や防具が不足しているため、馬車に積んだモンスターの素材や魔石を売って、武器や防具を購入してほしいとのことだった。特に弓と大盾があれば嬉しいらしい。
タカシはディオス邸に行き、素材や魔石が積まれた馬車で冒険者ギルドへ向かい、それらを売却した。合計で金貨五枚になった。多いのか少ないのかわからなかったが、タカシは全財産と合わせて、奴隷六人分の服、靴、食糧、そしてセルマから依頼された弓と大盾を購入した。
戦争中ということもあり、中古でも武器や防具は高騰していた。買えたのは弓七張と大盾四枚だけだった。大盾は在庫が四枚しかなく、残りの金をすべて弓に充てた形だ。これでタカシの皮袋は空っぽになった。
タカシはディオス邸の執事に、明日、前回と同じように奴隷たちをディオス領に送ることを伝えた。
翌日の早朝、前回と同じように一旦幌付きの馬車にミオとメグを含めた奴隷たちを待機させ、貴族用の馬車に移動させて王都を脱出した。前回と違うのは、冒険者ギルドに馬を借りに行かなかったことだ。開いていないのを知っていたこともあるが、金がなかった。貴族用の馬車は、前回と同じようにアンとタカシが御者席に乗っていた。
タカシは奴隷たちを見送り、王都に戻った。ディオス領の依頼報酬が入るまで残り四日。タカシは迷宮の十二層で、騎士一人分の働きをするための鍛錬をメインに、狩りを行うのであった。




