第48話 王都脱出
タカシは獣人奴隷たちの脱出準備に忙しく動いていた。まずは新たに購入した獣人奴隷たちの靴と動きやすい服、そしてフード付きマントの調達だ。しかし、フード付きマントは人数分買うには高すぎるため諦めることにした。八人分だけならまだ買えるが、今回の目的は三十人の獣人奴隷を購入してディオス領まで届けることだ。それを考えると予算は厳しかった。安全を考慮すれば全員にショートソードくらいは持たせてやりたかったが、それも我慢してもらうことにした。残り約二十人の獣人奴隷の購入を控え、予算に余裕を持たせたかったのだ。
タカシは家に帰り、新たに購入した獣人奴隷たちに奴隷服から動きやすい一般的な服への着替えを指示した。そして不慣れな手つきで料理を作った。料理といっても、塩スープに野菜と魚を細かく切って入れただけのものだ。新たに買った八人の奴隷たちは床に座り、大人しくしている。タカシは奴隷たちにパンとスープを渡し、食べるよう勧めた。椅子に座り、奴隷たちが食事をするのを眺めながら、ディオス領への脱出計画を話した。奴隷たちは黙って聞いていたが、おそらく意味はわかっていないだろうと感じた。
翌日、タカシは陽が昇る前の薄暗い時間にシャロンたちを迎えに行った。シャロンと獣人たち、カリン、キーシャ、コリンはすでに準備を終えて待っていた。四人を連れて家に戻る。カリンは、家で新たに仲間になった同族の犬人奴隷八人を見て、ディオス領への脱出計画に改めて覚悟を決めたようだ。タカシはシャロンとカリンたちに、新たに購入した奴隷たちへ計画の重要性を説明するよう言った。そしてシャロンにはパンとスープを皆に食べさせるよう指示を出す。シャロンはスープを見て「タカシ様が作ったのですか?」と目を丸くして驚いていた。タカシは「味は保証しないが、食べやすいように作った」と照れながら言った。
タカシは、新たに購入した獣人奴隷たちにカリンが説明している様子を見て、順調そうだと安心した。食事が終わると、シャロンに矢継ぎ早に指示を出す。
「奴隷服を切って、バンダナや腰布風にして獣人の耳と尻尾を隠してくれ。それが終わったら、カリンとキーシャ、コリンにはフード付きのマントを着させ、それぞれショートソードを帯剣させてくれ。八人の奴隷には買い溜めした食糧を持たせ、全員で慎重に貧民街から大通りに出てくれ」
「絶対に喋るな、静かにだ。大通りに幌付きの馬車を待機させているから、その荷台に乗って待機していてくれ」
指示を出し終えると、タカシはディオス邸に行き幌付きの馬車を手配した。大通りの貧民街に近い場所で待機するよう御者に言った。御者はディオス領からの付き合いだ。今回の計画を知っているため改めて詳しく説明する必要もなく、質問もなく頷くだけだった。そしてタカシは冒険者ギルドへ向かった。しかし、冒険者ギルドは閉まっていた。馬を借りる予定だったが、早すぎたようだ。早朝出発の依頼もあるだろうに、と不満を漏らしながらも、自分の詰めの甘さを反省した。
待ち合わせ場所に戻り、獣人たちが幌付きの馬車に乗っているのを確認してから、もう一度ディオス邸に向かい、貴族用の馬車を出してもらうよう頼んだ。貴族用の馬車の御者は、王都に来た時と同じメイドのアンだった。アンに待ち合わせ場所に停めている幌付きの馬車の前につけるよう指示をする。そして幌付きの馬車で息をひそめている獣人奴隷たちに、貴族用の馬車に乗り換えるよう指示を出した。貴族用の馬車に詰めて獣人たち十一人が乗り込んだ。
「窮屈だろうがしばらく我慢してくれ。それと絶対に喋らないように。馬車の窓のカーテンは絶対に開けないように!」
タカシは念を押した。シャロンはタカシの隣に立ち、「私は残ります」と言った。タカシが「いいのか?」と尋ねると、シャロンは優しくタカシの手を握り、「はい」と静かに答えた。
タカシは貴族用の馬車の御者席に座り、シャロンに見送られながら幌付きの馬車と共に城門を目指した。城門はすでに開いており、衛兵が警備している。本来、獣人奴隷は一度に二人までしか王都を出ることができない。これは明らかな違法行為だ。タカシと御者をしているメイドのアンに緊張が走る。タカシはディオス男爵の紋章が入ったメダルを手に握りしめた。
貴族用の馬車はゆっくりと城門を抜けた。城門が小さく見える距離まで離れ、二人は安堵のため息をついた。後ろからついてきていた幌付きの馬車は、衛兵に少し止められていたようだ。しかし、中を少し見られただけで、すぐに通された。
人目がなく、木々で隠れた場所に馬車を止め、獣人奴隷たちを貴族用の馬車から幌付きの馬車へ移動させた。無理な体勢で乗っていたのか、腰や首を押さえる者、腕を回して体の違和感をほぐしながら移動する者など、それぞれ辛そうだった。タカシはカリン、キーシャ、コリンに今後の指示を出した。
「目立たずにディオス領に向かうこと。三人は絶対にフードを取らないこと。新たに購入した獣人奴隷たちも、馬車の中でも耳や尻尾は隠した状態でいるよう徹底してくれ」
「三人のうち一人は御者と一緒に御者席に座り、残りの二人は新しい獣人奴隷たちが勝手な行動を取らないよう目を光らせていてくれ」
「ディオス領は御者に任せておけば着くが、五日から七日はかかる。途中は野宿になるが、その時は外に出ていい。ただし、耳と尻尾は出さないことだ。ディオス領に着いたら、領主邸にいるセルマたちの指示に従ってくれ」
「これから大変だと思うが、王都にいるよりは絶対安全だ。もう少しの辛抱だ、頑張ってくれ」
そう言って、タカシは三人を抱きしめた。獣人奴隷たちが乗った馬車が見えなくなるまで見送った。
タカシはすぐに戻ると不審に思われると考え、メイドのアンと時間を過ごすことにした。当然、アンを抱いた。アンは人懐っこい性格で、距離が近い。タカシとしては、抱き心地の良さ以上に、癒されるものがあった。キャロの死はタカシの心に深く刺さり、まだ受け入れることができていなかった。
昼前にはアンと共に王都に戻った。その時も衛兵に止められることはなかった。アンの乗った貴族用の馬車はディオス邸へ、タカシは自分の家へ帰った。家ではシャロンの笑顔が待っていてくれた。




