第42話 真相
アンの故郷の村で一泊することにした。村人たちはサーベルボアの肉を豪快に食べ、バーベキューパーティーを楽しんだ。やはり村には大人の男はほとんどおらず、女、老人、子供ばかりだった。
ミオとメグが肉を頬張っていると、子供たちがやってきて二人になつき、じゃれあった。二人も子供が好きなようで、一緒に遊んでやっていた。そのうちの一人がミオに抱きついた時、フードがずれて獣の耳が出てしまった。子供たちは「獣耳がついてるー!」と不思議そうに叫び、村人たちも興味深そうに集まってきた。
タカシたちは一瞬焦ったが、村人たちの表情に恐怖や怒りは見て取れず、緊張を解いた。戦争で獣人と戦っているという事実を知らないのだろうか。それとも、人間同士の戦争と同じように、別の種の獣人と考えているのかもしれない。タカシは余計なことを言って墓穴を掘らないよう、あえて何も聞かず、サーベルボアの肉を楽しみ、ノリの良い村娘をこっそり抱いた。
タカシが村娘と過ごしている間、セルマ、ミオ、メグは村の周りを大きく巡回し、モンスターを探した。小型で危険度の低いホーンラビットやビッグラットなどはいたが、危険度が高いモンスターはいなかった。
翌朝、タカシたちはアンを連れて領主の館へ帰った。
男爵夫人は、タカシたちの行動をすでに知っていたようだ。「土地勘がない場所で大変だったでしょう。村人を救ってくださり、ありがとうございます」とねぎらいの言葉をかけてくれた。
タカシは、この領地が抱える問題と実情について詳しく聞くことにした。男爵夫人は細い眉を寄せて困った顔をしたが、観念したのか地図をテーブルに広げ説明を始めた。男爵夫人は胸元が開いた黒いドレスを着ており、その谷間の奥が見えそうだった。さらに体を前かがみにして説明するため、あと少しでこぼれ落ちそうになり、タカシは生唾を飲み込んだ。メイドの鋭い咳払いで我に返り、説明に集中した。
ディオス男爵は戦争に行くにあたって、三人の騎士と約三十名の兵士を残し、防衛に当たらせていた。
男爵夫人は涙ぐみながら、タカシに真相を話し始めた。
「私は用心のため、それとは別に冒険者ギルドに依頼をしました。ギルドからはBクラス冒険者が二人来てくれました。彼らは残っていた男衆を集めて訓練し、自警団を組織してくれました。おかげで、その期間は被害を出さずに済んでいました」
しかし、第一王子の敗退の知らせで事態は一変した。
「第一王子は獣人の氏族長と密約があったようで、獣人領地の深くに小規模の部隊で入っていたそうです。そこで奇襲されました。公爵はその時戦死し、王子と伯爵は大怪我を負って敗走しました」
夫人は言葉を詰まらせ、涙を拭った。
「王子と伯爵、二人の撤退を手助けするために、夫の……ディオス男爵軍が無理やり獣人軍と第一王子軍の間に入り、壁となって獣人軍を抑え、王子の撤退時間を稼ぎましたが、善戦むなしく壊滅したとのことです」
「その報を聞いて失意のどん底に突き落とされ、狼狽するばかりでしたが、娘のティアーナが励ましてくれました」
「娘のティアーナは父のディオス軍が壊滅したことを信じず、領地を守る騎士三人と三十名の兵士、そしてBクラス冒険者が訓練してくれた自警団百名、新たに徴用した者も合わせて合計五百名の民兵を引き連れて戦地に向かいました」
「夫人は止めなかったのですか?」
タカシの問いに、夫人は苦しそうに答えた。
「悩みました。しかし、壊滅といっても生き残りが全くいないわけではありません。生き延びている者が必ずいます。その者たちは怪我をしているかもしれませんし、獣人たちに追われているかもしれません……正確な情報を得るためにも兵を送るべきだと判断しました」
夫人は続けた。
「Bクラス冒険者は残ってくれましたが、村が一つ壊滅した時に依頼を破棄して帰っていきました。その後すぐに二つ、三つと村が壊滅していき、兄が冒険者ギルドのグランドマスターをしているので、兄に無理を言って十一人の冒険者を送ってもらいました。しかし一ヶ月も経たずに一つのパーティーが巡回に出て帰ってこなくなり、探しに出たパーティーも帰ってこなかったため、残った三名の冒険者は依頼を棄権して帰ってしまいました」
「ディオス領には百二十一の村がありましたが、魔の森付近の村はすでに十七の村がモンスターによって滅ぼされました」
タカシは予想以上に状況が悪いことを悟った。
「無理に領地を守ってほしいとは言いません。撤退してくれてもいいのです。ただ、倒せそうなモンスターだけでいいので倒してほしいのです」
タカシは美人に懇願されると断りにくく、思わず「できる範囲でいいなら」と受けそうになった。しかし、安易に承諾してはいけないと心を落ち着かせ、部屋を出た。
「仲間と相談してみます」
男爵夫人の悲痛な表情を見ていると快諾してしまいそうになったため、逃げるようにして部屋を出たのだった。
タカシたちは壊滅したという村を回ってみることにした。道中、タカシは男爵夫人から聞いた話を皆に伝えた。




