第41話 ディオス領の状況
タカシたちは街を散策した。セルマが「男が極端に少ないですね」とつぶやく。言われてみれば、すれ違う男性は子供か老人ばかりだ。
冒険者ギルドに寄ってみたが、やはり鍵がかかっていて入れない。情報収集にはギルドが一番手っ取り早いが、仕方なく開いている店に入って話を聞くことにした。しかし、ぽつぽつと店が閉まっていることに気づく。
セルマが開いている雑貨屋で買い物をしながら話を聞くと、驚くべき理由がわかった。男たちは男爵と一緒に戦争へ行ったというのだ。
「それにしては男が少なすぎないか?これだと、ほとんどの成人男性が戦争に行ったことになる……」
タカシが思わず口を挟むと、雑貨屋の女は吐き捨てるように「ああ、そうさ。男爵は全員連れて行ったのさ」と肯定した。タカシたちは信じられず否定したかったが、女があまりにもはっきりと言うので言葉を失った。
そんな様子を見て、雑貨屋の女は説明を始めた。
「ここディオスは、第一王子派閥として王子の援助で急激に発展したから、公爵や伯爵の命令には逆らえないのさ。騎士団の後ろで安全に待機していればいいからって、男たちを全員連れて行った……」
女は悲しそうな顔で「でも、嫌な噂が聞こえてきてね。亭主が心配だよ」と続けた。
タカシたちは雑貨屋を出て、他の店でも聞いてみたが、どうやらディオス軍の役割は派閥の大きさをアピールすることだったようだ。そのため、領内の男をほぼ全員連れての参戦になったらしい。
初日はゆっくり休んで、翌日から領内を回る予定だった。モンスターの遭遇頻度や強さを確認するつもりだった。しかし、極端に男性が少ない状況が気になり、馬に乗って近くの村々を回ることにした。
村人たちからも話を聞いたが、街と同様に男たちは戦争に取られていた。王都に近い村ではもともとモンスターがほとんど出ないので何とかやっていけているが、魔の森に近い村はモンスターによって全滅したらしい。
日が沈みかけたところで情報収集を終えて帰ったが、予想以上に緊迫した状況に怒りさえ覚えた。
「依頼書にしっかり書いてほしいな。これでは間引きなどという悠長な話じゃない」
セルマは、ギルドの受付嬢が「お勧めしない」と言った理由がこれだったのかとつぶやいた。タカシは、なぜ教えてくれなかったのかと疑問に思った。男爵夫人に詳しい話を聞き、リスクが高いなら依頼はキャンセルすると決めた。
タカシたちが領主の屋敷に入ろうとした時、一人のメイドが走ってきてタカシの足にしがみついた。
「助けてください!故郷の村がイノシシ型のモンスターに襲われて……お願いします、何でもしますから助けて!妹たちが……」
タカシは「案内しろ」と言ってメイドを馬に乗せ、村へ向かった。メイドの名前はアンといい、馬上で状況を説明し始めた。大きなイノシシ型のモンスターが村に入り込んで暴れ回り、村人を襲っているという。アンの妹は近くの小屋に逃げ込んで動けない状態だ。村まで何時間かと聞くと、三時間だという。意外と遠い。間に合うだろうか。
陽はすっかり沈み、月明かりの中、馬を走らせて村まで急いだ。村に着くと、物を破壊する音と大きな獣の影で、すぐに場所がわかった。二階建ての小屋にイノシシが何度も攻撃を繰り返し、小屋はボロボロになっていた。妹と思われる人影が、二階の柱にしがみついている。
「サーベルボアです」
セルマはモンスターの名前を告げ、抜刀してタカシの前に出た。そのまま先行し、サーベルボアの足に斬りかかって通り過ぎる。サーベルボアは痛みと怒りで大きな唸り声を上げ、通り過ぎたセルマを睨みつけた。その隙にタカシは、セルマが傷つけた逆側の足を斬りつける。ミオとメグは馬から降りてサーベルボアに攻撃を仕掛け、奇襲が成功した。
タカシの馬に乗っているアンは、タカシにしがみつき、振り落とされないように必死だ。セルマは馬を巧みに操り、サーベルボアを牽制する。サーベルボアは奇襲で受けた傷で突進攻撃ができず、セルマに翻弄された。その隙にミオとメグがサーベルボアの体力を削っていき、最後にタカシが心臓を貫いて倒した。
アンは大喜びし、タカシに何度もキスをした。かなり興奮しているのか、熱い抱擁つきだ。タカシは馬を茂みまで進め、アンを美味しくいただいた。
タカシとアンが戻ると、セルマたちがサーベルボアを解体していた。その横では、アンの妹や村人たちが興味深そうに眺めている。さっきまでの恐怖はどこへやら、逞しいものだ。
セルマが、サーベルボアの素材や肉で持ち帰れないものは村人に分け与えてもいいかと聞いてきたので、タカシは許可を出した。メイドを抱いて大満足のタカシは、アンが妹に「モンスターには気をつけなさい」と怒っているのを黙って眺めるのであった。




