第18話 セルマの過去
朝、タカシが目を覚ますと、ベッドにシャロンの気配も、床にセルマの気配もなかった。台所の方から楽しそうな話し声が聞こえてくる。どうやら二人は台所で談笑しているようだ。
タカシは寝たふりをしながら、二人の会話に聞き耳を立てた。セルマが「奴隷なのに首輪をしていないのは、何か特別な理由があるんですか?」とシャロンに尋ねている。シャロンは「これがあるから、奴隷紋っていう特別な印なんですよ」と答え、胸元を見せて説明しているようだった。
昨夜から思っていたことだが、セルマはコミュニケーション能力が高いようだ。
朝食を終えると、タカシはセルマを連れて武器屋へ向かった。
「悪いけど、まずは安価な中古のロングソードで我慢してくれ」
そう言って、タカシはロングソードをセルマに買い与えた。
「すまないが、他の装備はセルマのことをよく知ってから考える。不便だろうが、危険の少ない低層でゆっくり狩りをしよう」
タカシはそう言って、二人で迷宮に入った。一層と二層を軽く流してから狩りを始める。セルマはCランクの戦士というだけあって、余裕綽々だ。
「これなら九層に行っても大丈夫だな」
タカシはそう判断し、ハメポイントでモンスターを鬼のように狩りまくった。セルマはこんな狩り方もあるのかと驚いた様子だった。
しばらく狩りを続けた後、ハメポイントの奥にある安全地帯で休憩を取ることにした。
タカシはセルマに「頼めるか?」と尋ねた。
セルマは慣れた手つきでタカシを満足させてくれた。
(いつもと違う場所は新鮮でいいな)
タカシはそう考えながら、セルマに尋ねた。
「セルマは性的な奉仕に慣れているようだけど、経験が豊富なのか?」
セルマは淡々と、しかしかなり詳しく答えてくれた。
「子供の頃から背が高く、嫁の貰い手がないと考えた父が、知り合いのBクラス冒険者に頼み込んで、十二歳から荷物持ちとしてBクラスパーティーと一緒に迷宮に入っていました。一年ほど経った頃、その父の知り合いの戦士のハンスさんといい仲になって、初めて手を出されたんです」
ハメポイントの奥にある安全地帯で、タカシはセルマに話の続きを促した。
「その後は他のパーティーメンバーに隠れて、ハンスさんと行為をしていたのですが、迷宮の外でハンスさんと仲良くしているところを父に見つかってしまって……父が猛抗議をして、私の報酬を少し増やしてもらえました」
セルマは淡々と続ける。
「ハンスさんは優しかったし、冒険者として尊敬していたから、楽しかったです。その後、十五歳になってギルドに登録して、正式にパーティーに入れてもらおうとしたら、断られました」
「なぜだ?」
タカシが尋ねる。
「私を荷物持ちではなくパーティーメンバーとして入れるのはリスクがある、とのことでした。その後、ギルドでパーティーメンバーを探しても見つからず、一人で迷宮に入っていましたが、性的な虐めも含め、色々とやられました」
セルマの言葉に、タカシの顔が険しくなった。
「迷宮という暗闇の中では、生き残るために相手の言うことを聞くしかなかった。それでも負けずに潜り続けた結果、Dクラス冒険者になっていました。その頃には、多少の嫌がらせには動じなくなっていましたね」
「転機は、ギルドの依頼でAクラス冒険者の荷物持ちをして、仲良くなったあたりからです。虎の威を借りるというやつですが、嫌がらせをしてくる人が急激に減りました。ギルドとの関係が良かったのもあるかもしれません。依頼をよくこなしていましたから」
セルマはそう言って、微笑んだ。
「その中の一つに、新人の育成がありました。新人冒険者の初めての狩りについていく、あまり旨味の少ない依頼でしたが、『青田刈り』ができることに気づいたんです。有望な新人を見つけて、自分のパーティーを作りました。その後は順調で、すぐにCクラスになり、パーティーメンバーも最大の六枠全員が埋まりました」
高収入と引き換えに、リスクの高い依頼を好むようになった、とセルマは語った。
「そして違約金付きの依頼失敗で、すべてを失った感じです。他のパーティーメンバーが無事なのが救いです」
タカシはセルマに同情したが、同じ冒険者として依頼の内容が気になった。
「どんな依頼だったんだ?差し支えなければで構わないけど」
「ずっと東にある砦へ荷物を届ける依頼だったのですが、途中の橋でヒドラが出まして、荷物ごと馬車を粉砕されました。運が悪いといえばそれまでですが、めったに出るような魔物じゃないですから、違和感はありましたね。橋を塞ぐように陣取っていましたし。今さら何を言っても意味はありませんが」
セルマはそう言って、静かに目を閉じた。




