第15話 前衛ができる若くて美人の奴隷を求め
シャロンに奴隷紋を入れてから、早くも二週間が経った。
タカシは、奴隷紋を入れた前後でシャロンに変化が見られないことに安堵していた。関係性もいつも通りで、奴隷紋の影響はタカシが命令を使わない限り、何一つ変わらないのかもしれない。それでも、タカシの胸には罪悪感が残り続けていた。
ある日の夕食後、タカシは意を決してシャロンに尋ねた。
「シャロン……。そろそろ新しい奴隷を買おうと思うんだけど、大丈夫かい?」
シャロンはタカシの目を見て、簡潔に「はい」と答えた。
「奴隷が増えると、食事の準備とか、新しい奴隷の世話とか、仕事量は増えるけど、それも大丈夫?無理はしてないか?」
タカシが重ねて確認すると、シャロンは力強く頷いた。
「任せてください」
その言葉に、タカシは安心した。
「ありがとう。新しく迎える奴隷のこと、いろいろと面倒をかけることもあると思うけど、支えてあげてほしい」
タカシはそう言って、シャロンを抱き寄せ、優しくキスをした。
翌日、タカシは迷宮に潜った後、奴隷商へと向かった。予算は貯えのすべて、金貨二十二枚。スーパーレアの奴隷を手に入れるためだ。
奴隷商に着くと、タカシは受付に金貨二十枚ほどで買える若い女奴隷を見せてくれと告げた。タカシはレア奴隷の部屋へ案内される。
「スーパーレアは無理か……」
素直に聞くと、案内役の男は「一番安いものであれば買えなくもないですが、選べるほど数がございませんので」と答えた。ノーマルと違い、レア奴隷以上は個体によって値段が異なるらしい。男には少しでも高いものを売りつけようという気がないらしく、タカシは思わず苦笑した。
レア奴隷の部屋には、十五名ほどの若い女性が椅子やソファーに座っていた。
「それで、どのような娘をご要望で?」
案内役の男に聞かれ、タカシは素直に「冒険者をしているので、前衛になれる奴隷を探している」と告げた。
「それでしたら男性奴隷ですね」
男はそう言って、男性奴隷の部屋へ案内しようとした。
「待ってくれ、男は嫌だ。女性がいい。若くて綺麗な女性だ」
タカシの言葉に、男は戸惑ったように聞き返した。
「冒険者の戦士ですよね?」
「ああ、そうだ。いや、戦士でなくても、前衛ができそうな娘ならいい」
「……体格や性格的に、女性の冒険者は少ないです。女性の冒険者に多いのはレンジャー、僧侶、あとは稀に魔法使いですかね。お客様も冒険者でしたら、ご存じかと思いますが、冒険者ギルドで女性の戦士をよく見かけますか?」
言われてみれば、あまり見かけなかったような……気がしなくもない。
「今なら男性で、大変お買い得なベテランの戦士がおりますよ」
案内の男は、男性の戦士を強く勧めてきた。
「いや、俺は女がいい」
タカシは女性への強いこだわりを見せた。
「冒険者としての生存戦略としては、間違っているような気がしますが……」
男はため息混じりにそう言ったが、タカシの強い意志を感じ、レア女奴隷の説明を始めた。
「現在、元冒険者の奴隷は一人だけおります。職業はレンジャー、ランクはDクラス、年齢は十八歳。弓が得意だと言っておりました。セラス、お客様の前に出なさい」
セラスと呼ばれた女性は、真っ直ぐタカシの前まで歩いてきた。顔は悪くないが、少し眼光が鋭い。
「彼女は借金奴隷で、親の借金を肩代わりするために奴隷になった優しい子です。十八歳でDランク、なかなか有能と言えますね。金貨十五枚になります」
タカシは予想外の高さに驚いた。相場がわからないので何とも言えないが、金額の衝撃はセラスを見た印象よりも大きく、割高に感じてしまった。
「レンジャーかあ……」
タカシはわざと職業に不満があるような素振りを見せたが、心の中では割高感を拭えずにいた。
案内役がセラスを下がらせると、タカシは改めて「前衛タイプの戦士か僧侶はいないのか?」と尋ねた。
案内役の男は、心底びっくりしたように強い口調で言った。
「僧侶の奴隷がいるわけありません!そんな商品はどこの奴隷商でも扱っておりません!奴隷商が僧侶を扱っていたら、教会に目をつけられます。恐ろしいことをおっしゃらないでください」
「そうなのか……知らなかった。じゃあ、魔法使いはどうだ?」
「魔法使いの多くは貴族です。貴族が奴隷になることはございませんので……」
案内役は途中で言葉を切り、タカシをレア奴隷の部屋から追い出した。
「ノーマルの奴隷を購入して、育ててみてはいかがでしょうか?」
タカシは一階のノーマル奴隷を眺めていた。若くて比較的美人の子や、胸の大きな子もいる。しかしシャロンを見たときのような衝撃的な感動はなかった。
(よく考えたら、シャロンがお買い得すぎたんだ……)
彼女はレア奴隷として売られていてもおかしくないと言われていたし、実際に素晴らしい女性だ。それが金貨一枚で手に入ったのだから、他の奴隷が高く感じるのは当然だった。自分の価値観が狂っていることに納得したタカシは、ぶつぶつ言いながらサイロンのいる地下へと向かった。
サイロンはいつもの笑顔でタカシを迎えた。
「よう、兄ちゃん。今日はどうしたんだ?」
タカシはレア奴隷の部屋での出来事を正直に話した。サイロンはそれを聞くと大笑いした。
「ハハハ!それは兄ちゃん、勉強不足すぎるぜ」
サイロンはタカシに丁寧に説明を始めた。
「奴隷に僧侶がいないのはな、教会の教えで僧侶は『神の僕』とされているからだ。神の関係者を奴隷にしたら、そりゃあまずいだろう?回復魔法や解毒魔法、俺たちの商売は教会を頼りにすることも多い。それを抜きにしても、教会の不評を買ったら商売はできねえぜ」
そして、サイロンは驚くべき事実を明かした。
「ちなみに、兄ちゃんの奴隷に奴隷紋を入れてくれた魔法士の正体は僧侶だ。奴隷紋ってのは俗称で、本当の魔法の名前は『ギアス』っていうらしい。ギアスを使うことは教えに反していないみたいだがな、頭のいい奴らの価値観はわからんよ」
「それと、魔法使いか?魔法使いの大半は貴族で、貴族は奴隷にならない。お貴族様を奴隷にするのは不敬だろう?だから、どんな理由があれ貴族を奴隷にしたとわかると、役人が来て捕まり、殺されるか、よくて奴隷よ」
サイロンはそう言って大笑いした。
「じゃあ、貴族や僧侶が負債を抱えた場合はどうなるんだ?」
タカシが尋ねると、サイロンは顎に手を当てて考えた。
「うーん、僧侶の場合はぼったくりさえしなければ教会が払ってくれる。何らかの奴隷落ちになる犯罪を犯した場合は、教会の施設から出られなくなるらしいぜ。詳しくはわからないが……」




