200.幻覚
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第2プログラムはあっさり終わった。順位に変動はないものの、トップからドベまでの差は大きくはない。明日から始まる第3プログラムにより全てが決まってしまうのだろう。
現時点でのウォーチスの点数は1659点とかなりいい調子だ。続くガレオスも1623点と1位に全く届かないわけではない。ザバルタは1619点とややガレオスに届かない。セオルゴスは1605点となっており差を縮めていく形となった。
第3プログラムの個人戦では得点の動きが更に激しくなるようだ。
「なんでみんなで集まってるのか不思議だね」
ルーアンはソワソワした様子で周りを見渡す。
「余の考えだ。この第3プログラムは今までとはわけが違う。6日目の午前には聖女ソリス様のご観覧となる。この意味がわからんお前らではあるまい」
「ソリス団長も大きな戦いを前に、次の後継を自身の目で探そうとしている……私にとってはどうでもいいことだけど」
エフィレは机に伏せた。
「1位のこいつに言われたら叩き潰したくなるが、今の余は冷静そのもの。その余裕、決勝前には焦る姿へ変えてやろう」
「焦るも何も、私は……1位なんか目指してないから。そっちはそっちで……争ってよ」
机の上に寝そべり、あとは隣に立つバルトに任せたようだ。
「トップがこんなのでは、バルトの荷が重かろうな」
「そんな事はありませんよ。むしろ楽しい方ですから」
「変わってますね。バルトは」
ムートは無表情のままそういう。しかし彼女も大層な変わり者のようで、彼はムートだけには言われたくないようだ。
「本来こういう集まりはよくないんじゃないかな? いくらソリス団長を前に恥をかかないようにするためとはいえ」
「余の考えではルーアン、貴様は6日目のファイナルにすら上がってこれない可能性がある。こちらはこちらで危機感を伝えようとしているんだぞ?」
ルーアンはそれを言われてしまえば返せる言葉がない。
ベルタゴス聖人最弱の彼女は知識や戦術は素晴らしくても、その戦闘力は貴族の生徒と同等の戦闘力。並外れた力があるわけでも何かに秀でているわけでもない。
「確かにファイナルに上がれるほどの強さではないね。他の学園の生徒からしたら聖人は恐れられるけど……私と当たった生徒は拍子抜けするだろうね」
「貴族どもには周知の事実。ルーアンのいる組は当たりだと、そう言われるほどだぞ。一体どういう手でファイナルまで上がってくるのだ? 杖を振ってるだけでは成果は出んぞ?」
ファイナルに出られなければソリスにも見られる機会はない。
「わざわざそんな事を言うためにみんなを集めたなんて。私は随分と嫌われているみたいだね?」
「それもあるが……問題は貴様だセリア。なんだ、結局貴様はなにがしたいのだ?」
アエリナに睨まれるセリアの表情はどこかつまらなさそうにだった。この場から早く出たくてしょうがない様子。
「気にする必要はありません。ただ退屈なだけです。私の貴重な時間を割いてまでこんなくだらない話を聞いているんですから」
「なんだと?」
ピクリとアエリナの表情が強張る。
「その程度のこと、ルーアンなら解決しますし、全員があなたの暇つぶしに付き合っている暇はないということですよ」
それを聞いた彼女は立ち上がってセリアの方へ歩き出すが、それをムートが止める。
「殴り合いは流石に止めなくてはいけません。アエリナ様、落ち着いてください」
「これほど余を怒らせた人間はいないぞ。確かに今聖人を一箇所に集めるのはそれなりのリスクだと覚悟していたが、無用な心配だったな。余のほうが貴様らを今宵蹂躙してしまいそうだ!」
「はじめから分かっていたことですよ。どうせこの話し合いはあなたが気持ちよくなるためだけのものです。どれだけ力はあっても、考える力が皆無ならルーアンにすら勝てませんよ? あなたこそファイナルにいないのでは?」
「殺してやる! あの時念入りに頭と心臓を潰しておくべきだった! 何を今更強気になっているのかわからんが、この怒りは貴様の死を持って収めなくてはならんようだ!」
アエリナの魔力が爆発する。
抑えていたムートも身の危険を感じたのかぱっと離れる。
解放されたアエリナはズカズカとセリアの横に立ち目線を合わせた。
「こっちを向くがいい。その目玉、今に破壊してやる」
セリアは聞こえないふりをする。傍らに立っていたエドフィーはビビり散らかしていて止めようにも止められないようだ。
「誰か止めたほうがいいよー」
机に潰れていたエフィレがそんな警告をする。バルトが止めに行こうとするがそれをムートが止める。
「ちょっと何してるんですか!」
「あなた程度では止められません。死人をこれ以上増やすつもりもないので静止させていただきました」
「静止させていただきましたじゃないですよ。セリア様が危険です」
するとアエリナから怒号が飛ぶ。
「無視とはいい度胸だな。余は既に貴様を害虫と見なした。死を体験するまで余の力で叩き潰してやる。お前の大切な者たちも破壊しながら決勝で会おうな?」
「……大切な者たち?」
セリアは先程まで視線を前に向けていたが、今はアエリナへ向けている。顔は動かさず彼女だけを見る。
「それは、生徒たちのことですか?」
「なんだ? 生徒たち以外にもお前の隣りにいる遣いも、友人も……既に決めている許婚がいるならそいつも。そいつだけは念入りに破壊してやるよ──」
空気が重くなった。
彼女は顔をアエリナに向かせると光のない瞳を震わせる。
その瞬間アエリナは防御魔法を展開して後ろに下がろうとした。彼女の本能がまずいと悟ったのだ。
予想通りセリアは拳を振り上げており途中で拳を止めていた。
「っ……!?」
しかし一番驚いていたのはセリア本人。本気で殴ろうとしていたようで、なにかに阻まれたよう。
「ちょっとレイン! 何のつもり!?」
するとセリアは動かない腕を見て誰かに話しかける。
「貴様……ふざけているのか? 自分で寸止しておいてまだ余をコケにするつもりか?」
前に出たいがセリアが危険すぎて距離を詰められない。近くにいたエドフィーは既に距離を取っており緊張した様子で震えていた。
「あいつはレインを壊そうとしたんだよ! だったらその前に私がっ……!」
まだ動く左腕を使って右腕を解放しようとする。
「お願い離して! これはレインのためを思ってっ……!」
すると今度はなにか身体の自由を奪われるかのようにセリアは椅子に座らされた。
「まって! どこに行くのレイン!」
扉の方を見るが誰かが出入りしている様子はない。しかしセリアはアエリナに見向きもせずに扉へ走っていくと、そのまま飛び出していってしまった。
呆然としていたエドフィーはハッとすると後を追いかける。
「あいつは何を考えているっ。レインだと?」
アエリナだけが知らない人物なのか他の聖人は理解したとでも言うような表情で頷いていた。
「アエリナちゃん、恋人に手を出すなんて言うから」
「アエリナは分かってない。セリアは今は精神ズタボロで、頼る人が恋人しかいないんだよ。それを壊すなんて言うから更におかしくなっちゃった」
「これ余が悪いのか? 確かに挑発に乗ったところもあるが、やられたことを返しただけだぞ?」
アエリナは怒りよりも混乱の方が今は勝っているようでセリアのいた席に座る。
「アエリナ様、今はセリア様を刺激する場合ではないということです。情報はお耳に入っているはずです」
「……? 人が精神的に壊れるというのはああいうことを言うのか?」
「左様でございます。アエリナ様には縁のないものではありますが……」
「……? 全く理解ができん。どういうことだ?」
その他の聖人と、この場含めた側近たちは呆れたような表情を見せるのだった。




