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実力ある異世界人を目指して〜憧れの悪役は実力隠してやりたい放題  作者: グレープファンタジーの朝井
7章 阻止任務

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197.刺激される記憶

「うらぁあ!」


 ステージでは敵が無惨な姿でどんどんと蹴散らされていた。会場にいる生徒たちはドン引き。解説も言葉がでないのか目を丸くしている。


 敵が生成された瞬間、作戦も何もないようなアエリナはゴリ押すことで討伐数を稼いでいた。


 結果は1人で96体殲滅し、もはや仲間ですらドン引きの状況である。ムートはそんな力強い戦いぶりに感動したのか拍手を送っていた。


「余の力みなに知れ渡ったようだな」


「おそらくドン引きでしょう。我々の出番はほぼなかったようなものですから」


「これでガレオス、セオルゴスとは天と地の差。それよりも下にいるウォーチスなんぞ眼中にないわ!」


 大笑いする彼女はステージから帰されるとすぐに自分の観戦席に戻る。


 アエリナの次はセリア率いる者たちの戦いのようだ。


「さてさて続いてはガレオスから聖人セリアを筆頭に精鋭たちがステージへ上がる! 聖人アエリナの時と同じく会場をドン引きにさせるのかはわかりませんが、彼女も戦闘力が高めの聖人なのでどんな戦い方を見せてくれるのか期待です!」


 セリアはガレオスの生徒らに満面の笑みで手を振って会場を沸かせる。


「セリアちゃん本当に大丈夫なのー?」


 おっとりとしたノーアの声。


「大丈夫です。元気ですから」


「無理に参加されなくてもいいんですよ。我々の力で課題は解決しますから」


 エドフィーは真顔で言う。


「いいえ、セリア様が参加することに意味があるんです。その言い方はまるでセリア様が必要ないと言っているようなものです」


 メリアは突き放すような発言をするエドフィーにそう言う。


「前回の試験で大きな功績を残してくれたそうじゃない? 前々回は使い物にならなかった駄目貴族だけどさ!」


 2人の関係値は既に地のどん底に落ちているようだ。セリアはそんな2人をなだめ試験に集中するよう言った。


「私は仲間同士で争えだなんて言ってないよ。この中で私が一番足手まといなんだから」


 エドフィーたちは黙るしかなかった。それが本音だろうと弱音だろうと事実であるからだ。実際セリアの身体はなにかに耐えるかのような震えがあった。


「さてステージが生成されて……おや、珍しいステージですね! 村を模したステージとは」


 ズキンっとセリアの頭の中で何かが這い出てきそうなそんな痛みが走った。苦悶の表情が一瞬だけ彼女を襲うが、不安定な姿をみんなに見せまいと冷静になる。


 しかしそれは長続きしない。


「この場所どこかで……」


 敵が出現した。従来は人型のみの敵であるところに彼女ら相手には魔物を生成してみせる。


 想定外のことにエドフィーらは驚くが倒す以外に方法はない。


 素早く暴力的な動きでエドフィーはこれを難なく破る。ノーアは巨大な盾を持ってセリアの前に出る。メリアは魔法剣でエドフィーの援護をしているようだ。


「魔物……」


 セリアは目を見開き、なにかに怯えるような表情で首を振った。「そんな……あり得ない」とでも言いたげな表情だ。


「セリアちゃん?」


 ノーアが心配そうに様子を見るがセリアは動けない。息が荒くなっている。2人が順調に敵を減らしていくその様子に徐々に彼女は冷静でいられなくなる。


「知らない……けど、なんで……この先の展開が読めるの……」


 セリアはついに膝をついて視線を落とす。


「セリアちゃん!?」

 

 ノーアが盾を捨て彼女の元に駆け寄るが、彼女は尋常じゃないほどの汗をかき、震えが止まらない。


「セリアちゃん聞こえる!?」


 ノーアの大きな声にハッとしたのか彼女は顔を上げる。何分経ったのだろう。しかしセリアのデジャブ通りなら、あの魔物を倒した当たりから様子が変わることを予知できる。


「はっ……!」


 彼女は勢いよく立ち上がり剣を抜いた。


 ノーアはその様子を見て驚き後ろに転がる。


 試験開始から6分と少し、メリアが魔法剣で魔物を倒した辺りからだ。オリジンは次に魔物ではなく人間を生成してみせた。


 華奢で装飾が目立つ人物だ。彼は周囲の状況を把握すると場を掌握した。すぐに攻撃を仕掛けていたエドフィーを捕らえ地面に叩きつける。


「ぐうっ!?」


 メリアのサポートがすぐに入るが彼は腕を宙に掻くだけで防御してみせた。明らかに強さの次元が変わった瞬間だった。


「久し振りの空気……すぅぅぅぅうはぁぁあ」


 深めの呼吸をし、彼は懐から黒い手帳のようなものを取り出す。


「導きとは如何に人生を示すのか。やはりあちら側と違った生き生きとした空気を感じる」


 彼はエドフィーを投げ捨て宙へ陣地を構える。


「こいつ喋る……!」


「エドフィーさん、自我の強い相手です。セリア様と協力して打倒しましょう!」


 彼は腕を天に広げとんでもない衝撃波を放った。


 この一撃で建物の殆どは崩れ吹き飛ぶ。


「見世物か……。やはり一時的な楽しみと言うわけだ」


 観客席へ視線を向ける。


「私はね、ヒュッセン・ボルグと言ってね。水の女神の右腕だよ。今はアクンベスという出来損ないに代わっている……いや、あの具合じゃ彼ではないか」


 意味不明な話をする彼はヒュッセンと言うらしい。


「女神の側近……それに水の女神はこの地にはいないってことは……!」


「そう、亜神教会幹部さ! そこのハーフヴァンパイアの子は察しが良いねぇ。だけど察しがよくてもこの世界では生き抜けないよ」


 風がエドフィーの横を切った。


「敵の動きも予測しないと死んじゃうよ?」


 ヒュッセンは笑いながら彼女の肩に手を置く。


 その瞬間エドフィーの身体の自由が効かなくなった。


「か……身体が!」


 いきなり駆け出し、メリアに斬りかかる。


「エドフィーさん、何しているんですか!」


「ちがっ……身体が勝手に動くの!」


 それを見ていたヒュッセンは高らかに笑った。


「やっぱり身内同士での争いは見ていて楽しいなあ。今度は相手を殺すように本気で操って上げるよ」


 エドフィーの刃先に魔力が宿った。


「彼、あなたの身体を操れるみたいですね」


「私とは限らないでしょっ!」


 全力の斬り込みにメリアも身動きが取れない。


「ハッハッハ! やっぱり殺し合いのほうが見ていて面白いなぁ。だけどそれよりも面白いものを見つけたよ」


 彼はギロリと視線をセリアに向けて歩みだす。


「私という人物はどうしてこうも恵まれてしまうのだろう」


 ゆっくりと距離を詰める彼にセリアは首を横に振る。


「その恐怖の仕方……昔と変わっていない。だが不思議と私のことを覚えていない。なぜだろう? あれだけ恐怖を叩きつけたのに未だ覚えていないとは……」


「セリアちゃんには近づけさせないよ!」


 ノーアが立ち塞がる。


「ノーア、だめ!」


 それでは彼の歩みは止まらない。


「盾か……今時珍しい代物だね。だが私には意味を成さない。このように──」


 彼は魔法を手の内に忍ばせ、ある程度の距離に近づくと放った。


 見えない魔法は目の前のものを切り裂きながら進む。ビュンっと勢いよく放たれた魔法はノーアの盾を貫通し、彼女の腹を貫いた。


 びしゃっとノーアの血が地面やセリアに跳ねる。


「え……」


 彼女自身何が起きたのか理解できずその場に倒れる。


「お前の母親には随分と世話になってしまった。お陰様で私はこの世界で生きていられなくなってしまったよ。さあ、娘であるお前にどんな責任を取れる?」


「私に……お母さんなんか……」


「全てを忘れて何者かに成り代わろうとしているのか? やはり愚かな女の娘は愚かだ。今この場で頭を爆発させても誰も文句は言わないだろう」


 ピタッとヒュッセンはセリアの額に指を当てる。


「これがお前の恐怖を思い出させるだろう……」


 しかし彼女の表情に変化はない。それ以外のなにかに怯えているようだ。


「本当に覚えてもなく、思い出せないのか。残念だよ」


 ヒュッセンはノーアに放った魔法よりも強力な一撃をセリアの額に放った。


 会場は悲鳴で響き渡る。


 下顎から全てが吹き飛んだセリアをみな見ることができない。もはや試験を出来る状態ではない。普通に考えれば聖人を1人失ったことになる。


「セリア……ちゃん……?」


 力なく倒れた彼女の身体にノーアは駆け寄る。そこに彼の無慈悲な魔法が飛び彼女の太ももを撃ち抜く。


 メリアもと奥で様子を見ていたようでエドフィーを蹴り飛ばしてからヒュッセンを斬り刻もうとする。


「トラウマものだろう。それで母親の罪を許してあげよう。それとここにいる全員の命で……」


 彼はニヤリと表情を浮かべてからメリアの身体を木の根で串刺しにした。


「があっ……」


「冷静さを欠いた人間ほど楽な獲物はいないよ。さて、私はここにいる人間たちを殺しきることにしよう」


 舌を啜りどの獲物を嬲り殺すかを見定める。


「やはり一番は強そうな者から──」


 獲物を見つけると同時にヒュッセンの身体から剣が飛び出してきた。


「ごっ……この剣はまさか……」


 恐る恐る振り返るとそこには頭を吹き飛ばしたはずのセリアが力強く立っていた。


「なぜ生きている!? 頭を吹き飛ばしても死なない人間など聞いたことがない!」


 彼女を吹き飛ばそうと、最初に放った衝撃波と同様の一撃を繰り出す。それでもセリアがその場から吹き飛ばされることはなかった。


「ば、化け物かこいつっ……!」


 むしろ頭を再生し始め片目までを一気に再生させた。


「私はあなたのことを知らないし、わからない。なんで身体が動揺していたのか理解できないけど……今ここで倒さなきゃいけない敵だってのは理解した」


 剣がこれ以上動かないようにヒュッセンは全力の肉体強化魔法を施し、剣を握る。しかし徐々に斜めに斬り進んでしまう。


「このパワー……母親譲りかっ……。やはりお前はあそこで殺しておくのが正解──」


 ズルっと自身の地で手が滑り、ヒュッセンの身体は斜めに斬り裂かれた。それと同時にセリアの頭は完全に再生しきった。


「また……これかっ……。先程までの恐怖は一体どこに……」


 身体が崩れる前に彼が見たセリアの表情はまるで乙女。なにかに夢中になって周りが見えなくなってしまった乙女の表情だった。


「この一瞬で何が起きた……」


 ヒュッセンはそう言い残し消えていった。


「ふふっ……なんでだろっ」


 次の敵が出現する。


 ヒュッセンがいなくなったことで操り人形化が解けたエドフィーは急いでノーアやメリアのもとに駆け寄る。


「セリア様! 急いで聖人の魔法で回復を!」


「どうして?」


 意識がない2人を見てセリアは何も思っていないようだ。


「どうしても何も死にかけ──」


「この試験が終われば傷の手当はあの装置がしてくれるよ。私が頭を吹き飛ばされたことよりも大した怪我じゃないでしょ」


「セリア様……その話し方……」


「あっ……なんでもないですよ?」


 ふふっと微笑んだ後、セリアは生成された敵を圧倒的な暴力でねじ伏せ始めた。斬ったり、殴ったりする衝撃音が会場全体に響き渡る。


 セリアはアエリナとは違った別の意味で生徒たちをドン引きさせてしまった。


 結果はチームで88体と、アエリナの時と同じようにはいかなかったが、残り時間で倒した敵の数はセリアの方が僅かに上だった。

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