196.セオルゴスの戦い
第1プログラムも終盤戦。次はいよいよ聖人を含むパーティがステージに立つ。
先行はセオルゴス学園からルーアンとその後仲間たちがステージへと上がった。現在セオルゴスの討伐数が523体とトップより20体ほどの差を許している。それでいて3位。
「いよいよ聖人様の含まれる組が出て参りましたー。第1プログラムは終盤も終盤! ウォーチス学園からの聖人ルーアン率いるパーティの登場です〜!」
会場は大いに盛り上がる。
『ルーアン様素敵〜!』
『かわいいし綺麗〜!』
ルーアンはみなの期待に応え手を振り返す。聖人の中で他学園からもファンの多い彼女。アエリナとは真逆で人気も高い。
「やはりルーアン様の人気はかなり高いようです」
「聖人の中では最弱で頼りないけどね。みんなみたいに強くなりたいけどわたしの加護は戦闘向けじゃないし……」
「そんな事はありませんよ。指揮官としてこれ以上ない人材ですから」
「……ありがとう。じゃあ、みんなの期待に応えられるようにがんばるねっ!」
ステージが生成される。個人個人がそこまで強くないのか、今まで通りのステージに中堅程度の強さの敵が現れた。
「さてさて始まりました〜! 聖人ルーアンは他の学園よりも戦術に特化した戦い方を見せてくれます。強さだけの脳筋相手にどこまで通用するのか楽しみです!」
大きめのモーニングスターを持った敵が現れた。
「筋肉量はさほどない……加護や魔力で強化して武器を扱っているということですか」
「広範囲攻撃が厄介ですね。既に仲間の2人が先制を仕掛けていますが」
「──魔法効果ダウン」
敵の動きが一気に遅くなった。巨大なモーニングスターを回せる力がなくなったのか武器は地面を抉りながら止まった。
隙だらけになった敵の急所を女子生徒が斬り刻むと次の敵が現れた。
「物事は見極めが重要だというのがわかるね。この戦いは聖人の加護を使うまでもないかも」
弱点を見つけ出し、バフデバフをかけるのがルーアンの役割。それを仲間たちが利用して敵を殲滅させる。
ルーアン単体では大きな力を出せないが仲間となら話はまた違ってくる。
「5体目、6体目……順調ですね。試験時間はまだ8分もあります。ここから徐々にスピードを上げていきましょう」
敵が思うように動けず、味方はやりたい以上の力を発揮することができ、みな気持ちよさそうに戦っている。
しかし、次の敵で彼女らの手足が止まってしまうことに。それは彼女らが試験に挑んでから8分が経過した頃だった。
「魔法剣持ちの敵かぁ……」
ルーアンの表情が曇る。圧倒的な魔力を保有している魔法剣持ちに魔法効果では影響を与えにくい。かと言って味方を強化しても手数の差で押し切られる。
「ここに来て聖人ルーアンの手が止まったー!」
彼女はルーアンが最も苦手とする相手だ。
弾丸のように着弾地点を吹き飛ばす魔法剣。砂煙で前が見えないはずが正確に狙いを定めて攻撃を放ってくる。
「鷹の目を持っているようだね。遠投武器とは相性がいいみたい」
最適な組み合わせ、異色な組み合わせなどオリジンからしてみればお手の物だろう。複数の加護持ちも呼び出せるようで、ルーアンは更に苦戦を強いられる。
それは懐に潜り込んだサデスの一撃から始まった。彼の剣は正確に急所を狙ったが……。
「なんだと……」
剣はしならず薄氷のように砕け、彼女にはダメージが全く入らない。続いて魔法を撃ち込むがすべて時が止まったかのように砕ける。
「この加護はまさか時空防御!?」
時空防御は自身の周囲の時間を止め、物体を極端に脆くする加護。例えば拳で殴れば時間が止まり、止まっていない腕が拳を押し出すことで物体が砕ける仕組みだ。
「あの加護の前じゃわたしたちは何も出来ないね」
「どうしますか」
「発動条件を調べるしかないかな。魔法剣も厄介だけど防御系の加護を持っているならそっちのほうが厄介だから」
物陰に隠れ相手の出方を伺う。敵は位置を把握しているはずだが攻撃に移らない。何かを警戒しているのかその場で動こうともしない。
「奇襲に警戒しているようにも思えますが、あんな加護を持っているのならてっきり、もっと詰め込んでくるかと」
「その考えはあまり良くないかもね」
「なぜですか?」
「サデスの攻撃時、わたしたちへの攻撃が止まった。加護の性質上防御中は攻撃できないんだよね」
「自身の魔力を時間停止で邪魔してしまうからですね。となるとやはり攻撃中に仕掛けるのがいいのでしょうか?」
ルーアンは首を横に振った。
「こうして様子見をしている時点で、わたしたちがなにをしようとしているのか勘づいているみたい。攻撃を仕掛けてこなかったらタイムアウトだよ」
「それは避けなければなりませんね。何か手はありますか?」
「あるにはあるけど……」
ルーアンは何かを躊躇っているようだ。
「わたしの加護を使えばうまい具合に相殺できるんだ。けどこれを使うとみんなにも影響を与えちゃう」
サデスは察したようで首を縦に振る。
「我々の心配をする必要はありません。例え今加護がなかろうと聖騎士であることには変わりないんですから」
「……そう言ってくれるなら嬉しいけど。みんなは──」
他の2人の生徒に視線を送るが親指を立てており、作戦に賛成のようだ。
「ありがとう。加護は聖騎士の栄誉ある称号。なるべく一回でこの作戦を成功させるよ」
3人は頷いて敵の前に姿を表す。ルーアンはみなの背後から隠れるようにして出てくる。
彼女は場にいる全員を見つけると魔法剣を構えた。
「1人でも見つからないと一生防御体制に入るだろうからね。堂々と戦ってあげるよ!」
ルーアン以外の3人は散開し、魔法剣の攻撃を分散させる。ルーアンは3人と遅れて動き始め、迫りくる魔法剣を弾きながら距離を詰めていく。
「はっ、やあっ!」
左に大きく剣を流し、軽やかな動きで最小限に動いていく。避けきれない魔法剣は返しつつ更に加速する。
左右に揺れ動きながら徐々に距離を詰めていくと、敵の表情が硬くなる。散開した3人の誘導がなければここまで接近できなかっただろう。
ルーアンの間合いに捉えると、彼女は即座に防御姿勢に入り、魔法剣は動かなくなる。
「あまりきれいな作戦じゃないけど、連携は必須だったよ」
時空防御が発動しない。それを彼女はルーアンの刃先が胸の皮を裂いたときに気づく。
グリンと身体が衝撃を受け止めきれずに後方に吹き飛ぶ。ルーアンが白目を剥いた彼女の身体を更に更に押し込んで完全に決着をつけるつもりのようだ。
「なっ……!?」
しかし突然敵の眼がルーアンを睨むと、魔法剣が彼女の腹や腕を目掛けて飛んできた。
「ぐうっ!?」
二の腕や脇腹に魔法剣が突き刺さり、更に襲う魔法剣にルーアンは対処しきれずそのまま剣を手放して距離を取った。
敵は完全に事切れたのか崩れ、討伐数に1加算された。それと同時に試験は終了する。
「ルーアン様!」
敵が消えたことで突き刺さっていた魔法剣は消滅するとルーアンの傷も塞がる。
「このぐらい平気ですよ。わたしたちには加護がありますから」
しかし討伐数は平均よりわずか上という、平凡な記録に終わった。それだけがルーアンの心残りであり、最終結果は3位で終わってしまうと悔しがる。
「もっと効率の良い戦い方をするべきだった。みんなごめんね」
「そんな事はありませんよ。次に託しましょう。まだ我々の学園は2組もあるんですから」
「ふふ、そうだね」
ルーアンはなるべくポジティブに保とうと強く歩み始めた。




