194.ダンジョンをやりたい
1日目も無事(?)に終え、僕らは帰宅することになる。各学園今回の反省点や情報を元に後半戦に挑むようだ。後半戦では聖人たちの熱いバトルが展開されると思うからじっくり観戦しておきたいかな。
さて、怪我もそろそろ治りそうだし、僕も帰るとするかなー。
「まあ、もともと自分でつけた傷だから即座に再生するんだけど」
残りの僕の出番と言ったら第3プログラムの個人戦だ。トーナメントは既に出ているから相手の対策はするべきだ。しかし僕は勝ちに行くのが目的ではなく、講義のない時間を謳歌することが目的だから基本的に楽に行ける。
空いた時間は筋トレとか、魔道具製作なんかに使おうかな。魔力をいじる技術も完成形に近づいてきた。
これが完成すれば亜神殺しにも役に立てるだろう。
「マリアたちは何してるのかな」
医務室を抜けて長い廊下に誰も居ないことを確認して僕は歩き出すことにした。
「第3プログラムは個人戦……」
一回戦目の相手は一般生徒みたいだから変に気を遣わずにやられられる。ちなみに第3プログラムは試験数が多すぎるから前半は4箇所の会場に分かれて行うらしい。地味な戦いを見る人もあとの3箇所に分散できる。
目立つ可能性は限りなくゼロに近い。
「ちょんちょん……」
背後からそう聞こえるとつつかれた感覚に襲われる。振り返るとそこにはまっさらな銀髪をした生徒が居た。
「戦い見てたよ」
エフィレがどうやら僕の後をつけていたみたいだ。足音がなかったのは宙を浮いていたからか。
「僕の戦い方なんて見ている人はいなかったでしょ。それに厄介な魔法使いだったみたいだし、結果1体しか倒せなかった」
「仕方がないよ。本来ならゼロでもいいから」
「まあ敵がどんなに強くても全力でやらないと試験にならないからね」
「うそ。あれは普通の生徒が勝てる相手じゃない」
……司会進行役が気づいていなかったからわんちゃん誰も知らないかと思ってたんだけど、魔法に精通しているエフィレは知っているのか。
「そうなの? じゃあたまたま勝てたのかも」
「4人が呼び出した敵は風の女神、ニンリル。名前の通り、風の属性を司る神様だよ」
「へー知らなかった。そんなに凄い敵だったんだね」
ステージに上る前に魔力は制御しておいたはずだがオリジンは騙せなかったようだ。僕の魔力に反応してしまったのを悟られるのも時間の問題だ。
「あの4人で女神を敵に生み出す魔力量はなかった。けど呼び出したのが女神……なにか隠してる?」
「オリジンが誤作動でも起こしたんじゃない?」
「ない。絶対にない。4人の内誰かの魔力量……もしくは全員がとんでもない実力者だった可能性もあるから。けど……ニンリルを倒したあなたに聞くのが早いよね? レイン・フォルネル」
言い訳していいわけ? と、頭の中でよぎったが、こんなところで実力バレは回避したい。
「何度も言うけど僕はあれが女神だなんてこと知らなかったし、倒せたのもたまたまだよ」
「そう……。それならそういうことにしておく」
彼女はぴたっと地面に足をつけると僕を見上げた。
「嘘は言ってない目をしてる……。私、見る目だけはあるから」
節穴やんけ。
「魔力量も見た目通りな量しかない。じゃあやっぱりあの子……ううん、なんでもない」
「どうかしたの?」
「あなたのパーティ……あの女だけには気をつけて。うまく隠したって私の目は誤魔化せない」
リンカちゃんのことかな? 確かにオドオドしてて何かを隠してそうな感じはするし。
「ま、聖人様の忠告なら真面目に聞いてあげるよ」
「……」
なんで拗ねるんだ。
「ところで今ウォーチス学園は絶体絶命の危機に瀕しているけど、勝ち筋はあるの?」
ウォーチスは3位とは絶望的なまでの数値差がある。ほぼ倒せていないに等しい。1試合に1体ちょっとだ。
「あるよ。もともとウォーチス学園は私がいないと何もできないから」
「あの差どうやって縮められるか考えがあるの?」
「うん。私が全部倒しちゃえばいいんだよ」
うん、ウォーチス学園は最下位で終わりそうだ。オリジンの敵の生成には5秒と、かなり遅い。敵が強ければ強いほど生成が遅くなるみたいだし。理論上120体が限界だろう。これじゃあ今までの差は覆らない。
「そっか。ま、頑張ってね」
いつまでもこんな廊下でエフィレと話している余裕はない。
「待って……」
するとなぜか止められる。今日はやけに饒舌なエフィレだ。いいことでもあったのかな。
「最後に確認だけさせて」
「確認?」
「そう、確認──」
エフィレが素早く動く。氷の粒で僕の目を突くつもりなのだろう。いや……寸止めかな。
「っ……!?」
「うわぁあ!?」
僕は目の前に氷の粒を認識するとその場で尻餅をつく。
「……嘘つき」
そう言うとエフィレは飛んでどこかに行ってしまった。
何が嘘つきなんだろう──。
────
静かな試験会場だ。既に全員出払っているようで、警備員がパラパラといるだけのよう。
今の目的はオリジンの実体を調査すること。第1前半試験終了時にステージ中央の地下にオリジンは格納されていったのを覚えている。この試験会場には地下があり、そこの警備を突破すればオリジンに到達できる。
「もう終わってるけど」
あまり待遇がよくない警備員たちなんだろう。ほとんどサボってて楽に突破できたよ。
目の前にはオリジンがぐるぐると魔力を巡らせている状態で待機している。この時は紫色をしていて何だか不気味だ。
「見たことない物質でできてる。ニンリルを呼び出せたってことは少なくとも相当昔のものなんだろう」
やろうと思えば過去に存在した英雄すらも呼び出せてしまうということ。平凡な農民でも、捨てられた赤子でさえもこのオリジンは記録しているのだろう。
いうなれば世界誕生の歴史書みたいなものだ。
「これは作り出せないな。元となっているオリジンそのものが何かしらの生物である可能性があるし……」
杖にこれ仕込んで簡易召喚魔法とかできたらよかったのに。ダンジョン系支配者にはならせてくれないのか……。
魔王の次にやろうと思ってたのに。
「取れる情報は取ってみるのもありか」
僕はオリジンの魔力を少しだけ抜き取り手中に収める。あとはもうここから離れるだけだ。
にしてもこの装置どうやって作ったんだろう。全ての事象、人物を記録しているのならダンジョンの生み出し方とかありそうだし、今は利用させてもらうだけだけど。
「ふむ」
誰かに見られているけど、敵意はなさそうだしそのままとんずらでもするか。




