193.対策はしたはずだ!
今日の試験も、そろそろ終わりそうかなー。総力戦前半、やはりザバルタが討伐数トップだ。続いてガレオス、次いでセオルゴス。最後にウォーチスだ。
トップが283体倒しているのに対してドベが34体。ここまで学園に差が出るとは思っていなかった。
「そして1日目最後のグループはガレオス学園からです! 初日最後ということもあって盛り上がりも落ち着いている頃ですが……最後まで大いに盛り上がっていきましょう!」
ということで記念すべき80組目の僕たちだ。12時間も待たされてようやく出番が回ってきたよ。みんなも既にクタクタ。これで何体記録を伸ばせるかで僕たちの運命が決まるな。
「さて試験開始……あれっ……どうしたんでしょう?」
ステージが殺風景のまま変わらない。試験官たちも首を傾げて何度も装置を起動させているようだが不発に終わっているみたいだ。
オリジンとかいう装置も起動音こそするけれど反応はない。こうしている間にも試験時間は過ぎているのだろうか。このまま何も起こらず0体でもいい気がしてきた。
「どうしたんでしょうか。装置は正しく動いているようにも見えますが……あっ、動きましたね」
どうやら生成に時間が掛かっていたのかステージが読み込まれていく。
「何かのトラブルのようだ。今のうちにお互いの能力を確認しておこう。僕は剣での近接と防御だよ。主に耐久型だから盾にしてもらって構わない。そこにいるレインくんはこのパーティでは唯一の矛だ。ワルフくんが魔法でサポートしつつ、リンカちゃんのバフで矛と盾を強化する戦い方だ」
そこにいるってなんだよ。
「クルスくんの言うとおりです。あなたなら矛にでも盾にもなってください。何があろうとも私がサポートしてみせます」
「わ、私も……」
どうやらおさらいする時間はまだまだあるようだ。地形の生成こそされ始めたがタイマーが動いていない。加えて敵が出てくる気配がまったくない。
「タイマーは動いてませんね。それに地形の生成が遅いと言うか……」
するとビリビリという音とともに地形が完全に生成された。どうやらこの時代の神殿ではない昔の神殿が地形で生成されたようだ。
「あっと……これは神殿でしょうか。なかなか神々しいステージですね」
たしかに神々しい。こんなモブたちのステージには似合わない。こんなモブたち……モブたち……。
「ぁぁぁあ!?」
大事なことに今気づいてしまった。僕がバカだった。
「どうしたのレインくん。顔がブサイクすぎるよ」
「そうですよ。初めて女の子の裸を見た男の子みたいな表情になってますよ」
「それはワルフだけだろ」
そんな冗談を言っている暇はない。
おそらくあの装置はみんなの強さを足したぐらいのある程度強い敵が出てくる。魔力で判断しているのか成績で判断しているのかはわからないけど、もし仮にこの4人の潜在魔力総数を元に敵を生成しているのだとしたら……。
「敵の生成もようやくされ始めましたね。タイマーも動き出しました。しかし……なんか様子がおかしくないですか?」
僕に合わせたうえでの強敵が生成されるってことだね。
「あ……がががががが……あれは……!」
「どうしたんだいワルフくん!?」
「な、なんだか私も震えが止まりません」
「な、なんで僕たちの1発目の相手が……」
ワルフは指を震わせながらその敵を指さした。
「風の女神、ニンリルなんですか……」
布1枚の絶世の美女。色白な肌はまさにワルフくんの大好きなグラビアに似合う……はどうでもいいか。
「風のめがっ──」
とてつもない風で僕たち4人はステージの中央から吹き飛ばされる。幸い神殿の構造物にぶつかり場外とはならなかったが、今のでクルスくんは……。
「クルスくーん!」
半ケツ出して気絶してしまった。耐久力にはよほど自身があったのだろう。僕たちを庇ってこんな醜態を晒してしまった。
僕は今後のクルスくんの学園生活の影響も考えて、申し訳程度に葉っぱを置いた。
「なんだか強そうな敵が出現してしまいました! その影響か既に1人ダウンしてしまったー」
ファリファ解説には試験中止の合図を送ってもらいたいものだ。なんでノリノリで解説を続けているんだろう。
「──終焉の呼び声」
彼女が宙を浮きその周りを竜巻が回転する。かなり広範囲に回転しているからこの狭いステージではもろに攻撃を受けてしまう。
──終焉の呼び声はフルリエルも使っていた女神が最初に出す技の1つでもある。自分のフィールドを作るための儀式でもあるし、女神によって効果も違う。
風魔法の威力が極端に上がるぶっちゃけイカサマな禁忌魔法だ。
「ち、近づけません!」
「なぜこんなことに……!」
ごめんワルフ。多分僕のせいだ。ウォーチスと同じく討伐数0を記録に刻もうではないか。
「レインくん何諦めているんですか! ニンリルに一撃与えられれば私たち英雄ですよ!」
「倒さなきゃ意味ないでしょ」
「いいえ。今までの戦いから見て学びました。この試験で呼び出される敵の防御力はオリジンのつけられる最大値なんです。今までの敵は全て一撃で消滅したんです。もしかするとニンリルに相当なダメージを一回で与えると消えてくれるのではないかと……」
天才かこいつ……!
どんな敵でも相当なダメージを1発目当てればそりゃ気絶もするだろう。彼は混乱しているようだ。
まあでも確かに一撃でも与えられれば大抵の敵は消えていた。だがそれは致命傷に限る。
フルリエルのときと同様に脆い耐久なら斬撃を浴びせるだけで破壊することは可能だ。復活の能力を持たれてたら無理ゲーだけど。
「わわっ……押し返されますっ!」
立っていられるのもやっとだな。試験官は異常に気づいて止めに入ろうとしているけれど、あまりにもニンリルの魔法が強力で立ち入れないのだろう。
「お二人とも……私に考えがあります」
メガネくいっ……。そうか、あるんだな、こんなモブどもでも戦況を打破する解決策が!
「かの7属性には相性があります。火には土が強く、土には水が強い、水には風属性が強く風属性には生属性が強いように。風は生たる属性には弱いんです。そこで私が生属性の結界魔法でレインくんを防御します。その次にリンカさんにはレインくんにヘビー魔法と筋力増強系の魔法をかけていただいて、荒れ狂う風に抵抗するんです」
なるほど、鉄壁の防御かつ飛ばされないようにして一気に叩くということか。
「それってあの高さまでジャンプしろってこと?」
「……いけます」
ヘビー魔法を使っている時点でジャンプ力は皆無なのに……。
「時間はありません。今すぐ試しましょう!」
「待ってください。確かにヘビー魔法はあの風になら有効ですが、あの高さまで飛び上がるにはオークと胴体と同じくらいの足の太さがないと難しいですよ」
「……」
ワルフは真顔になり、その場で頭を抱える。
「そうだったそうだったー! これじゃあ近づくことすら叶わないじゃないですか! 私たちは討伐数0で終わり……? そんな……」
「諦めよう……」
僕は清々しく諦めるよ。リンカちゃんも諦めてるみたいだし後は君だけだよ。
「私たちは前回の試験だって乗り越えたじゃないですか。レインくん、なんとかならないんですかー」
「女神相手に僕たちモブが出し抜けるわけ無いだろ」
「確かに……」
おい、そこ肯定したら諦めるしかないぞ。
「時間制限が来るまで物陰に隠れていようよ。そしたら怪我なく先に進め──」
「3万……」
「え?」
ワルフの声は震えていた。そして僕も思わず喉を鳴らす。
「3万マニーでレインくんが無茶をしてきてくれないか」
と、まるで今月のグラビアは諦めるかのような壮絶な表情になっていた。
「ふっ……3万だと? 片腹痛し。僕が3万マニーで動く人間に見えるのか?」
「……5万っ!」
「なっ……どうしてそこまでっ!?」
「私は決めたんです。0体だけは絶対に嫌だと」
「そうか。なら最善を尽くすよ。その代わりだけど何が起きても7万マニーもらうからね」
「なんでちょっと増えてるんですか!?」
「リンカは僕に筋力増強魔法をかけてよ。ワルフは魔法で僕の援護をしてほしいかな」
「わ、わわわかりましたぁ……」
「本当にいけるんですよね!?」
ふっ……どうせ無理だろうからここで派手に散るのさ。0体でも見栄えとしては立派なことだ。
さて、リンカちゃんのバフも受け取ったことだし行くか。
「おりゃー」
翌々考えてみれば暴走した女神にこんな勇気を持って挑める人間は早々にいないのでは。いや、漫画とかでもよくある、最初のモブたちが命を賭して特攻する謎の展開があるじゃないか。
今の僕はまさにそれだ。
「──女神の波動」
波状に広がる何でもありな状態異常攻撃。これにより僕のバフは全部剥がれ落ちることになるけど、バフがある体で動く。
「──横切り!」
なんともダサい技名を叫んで風を切る。
「風の女神を前にして挑むなんて……勇気のあるお方。そんなあなたには細切れになる風を与えましょう」
張り裂けるほどのプレッシャーだ。
「──旋風斬鉄」
「ん!?」
気づけば僕の身体にはひび割れが生じていた。その刹那、斬り刻まれる感覚に襲われるが大したことじゃない。
血だるまになった一般生徒がニンリルに刃を振るうだけ。
「これでもなお止まらないなんて……」
風に乗り身体は急上昇する。
「しかし、身体は既にボロボロ……。刃を振るう力すらないでしょう」
そのとおりだ。ただの一般生徒がこの風に入るだけでもミンチになるのに、僕は形を成してここまで来たんだ。褒めてほしい。
「力尽きましたね。私に一撃与えようなど考えた愚かな結果、私にすり潰されることに──」
女神よりも高い位置に打ち上がってしまったが僕のやるべきことはもう終わっている。
「これで1体目だよ」
「いつの間に……」
僕の剣はニンリルの胸を深く貫いている。急上昇する風に剣を投げ背面から剣を突き刺した。
致命傷を受けた彼女は元の魔力の姿に戻っていく。そして吹き荒れる嵐も収まり僕はそのまま自由落下。
「あぶない!」
べちょっと嫌な音がしたけど、僕を誰かが受け止めてくれたようだ。
「レインくん、僕との決着がまだだよ」
こいつ……なんでこんなにイケメンなんだよ。
あとズボン穿け。
「先程の敵の攻撃か僕のズボンが裂けちゃってね」
「そうなんだ……。1体目でこんな満身創痍なら、2体目は難しいだろうね」
「でもタイマーはまだ動いてるよ。残り1分のようだけど、敵が生成されている。今度はあれより強い敵──」
クルスくんの声が止まった。どうやら想像を絶する敵でも現れたんだろう……。
「なんっ……あのおぞましい魔力はなんだ」
身長はセリアより少し高いぐらいだろうか。黒いローブを身に纏ってとてつもないぐらいのネガティブな魔力を放出している。
「動く気配はない。制限時間まで何もしてくれないとありがたいけど。そんな甘くは──」
「やっと……見つけました」
姿がぶれた。そう、思った時には遅かったようだ。
僕の顔に接近した彼女の声はどこか懐かしげのあるような声のような気がした。顔ははっきりと見えない。
「しゅうりょ〜う!」
タイマーがゼロになった。同時に彼女の姿も消え、僕らは1体だけの討伐に終わった。




