192.他の聖人にはないもの
3戦目、4戦目と続き、ようやくセオルゴス学園の組が登場。警備の厳重なVIPルームにて聖人たちは各々のパーティを警護としてそばに仕えさせていた。
「ようやく出番が回ってきたって感じだね」
ルーアン・レンツはステージに注視しながらそう言う。
「我々の生徒たちはあまり力を持っていないので連携が試されます。ザバルタのように豪快な戦いはできませんが、知恵と狡猾な作戦でどうにかポイントを稼いでいきたいですね」
キリッとした顔立ちの男子生徒はルーアンの真横に立ちそう応答する。
「あの子たちはバフによる連携が強いと、そう感じたからこそのパーティだもんね。持続する戦いには対応できないけど、今回みたいな時間制限ありの戦いにおいてはそんな短所も霞むね」
「私の指示では様子見からの行動は避けるように伝えています。なるべく討伐のタイムを縮めるようリスクを取っての作戦です」
「今回ばかりは仕方ないからねー。怪我だけには注意してほしいかな。わたしたちの山場はここじゃないし。そうでしょ、サデス」
ルーアンは周囲の聖人にも聞こえる声量で反応を見る。サデスは固まったまま視線は動かさない。
「3番目が挑発してるぞ。余の力を前にはひれ伏すだけだと言うのにな」
アエリナはルーアンの挑発だと捉えあしらった。他の聖人からは何の反応も得られなかった。
「それにしても珍しいですね」
「なにが?」
「この場にエフィレ様がいらっしゃるなんて……」
エフィレはまっすぐな視線をどこかに向けていた。
「真面目な顔。あんなエフィレちゃん初めて見たよ。今回の試験ではアエリナちゃんより警戒しないと行けないかもね。今言えることはこれだけ」
彼女の情報が少ないのかルーアンはそれ以上は考察しないようにした。
「……どうやら苦戦しているようですね」
セオルゴスの戦闘が開始してからおよそ3分が経過した。未だに討伐数は0のようで4人の生徒たちは苦悶の表情を浮かべているようだった。
「最初の壁すら突破できないとなると後続の緊張が高まります。どうしますか?」
「どうもできないって言うのがもどかしいよね。でも私には出来ることがある」
ルーアンは戦況をしっかりと理解し、4人の位置と敵の位置を把握した。敵は魔法で結界と逃走を繰り返す厄介な敵のようだ。
「……もう大丈夫だよ。1体目はこれで攻略できるね」
ルーアンがそう言うと、先程まで動きが硬かった4人組がまるで水を得た魚のように滑らかに動き、逃げる敵の隙をついて撃破した。
「あの敵には明確な弱点がある。あの結界は攻撃を防ぐものではなく、注意を引くもの。敵はその隙に魔力をためて距離を置く準備をする。それだったら1人に攻撃させて、あとの3人は逃げる敵を集中的に狙えばいい。焦ってるとこんな簡単な考えが思い浮かばないからね」
いきなり動きが変わったのを目撃したアエリナはルーアンを睨みつけ、無言の圧力を送る。
「アエリナちゃんにはバレてる……。けどこれがわたしの強みだからね」
「司令塔はやはり必要ですからね」
「この調子でわたしの力を使えばポイントは確実に拾えるかな」
「2体目も呆気なく行けましたね」
ルーアンは微笑みながら戦況を見守る。
「バフで戦うということは準備に時間が掛かっちゃうよね。けど一度かけてしまえば時間内であればかけ直す必要もない。生成された無強化の敵を一方的に倒し続ければいい」
3体、4体と倒すスピードは増していく。
そのたびにアエリナの顔が強張りイライラしているのがわかる。
「アエリナちゃんは本当にわかりやすいよね。何かあるなら言えばいいのに。けど、確信はないから言えないのはわかってるもんね。怒っても意外と冷静なんだから」
しばらくして5戦目が終了した。結果は7体撃破でザバルタの初陣よりも上回る結果だった。
「次はウォーチス学園からですね。先ほどのウォーチスは最悪でしたから……」
「0体討伐……やっぱり理解できないよ。エフィレちゃんは何考えてるんだろうね」
パーティも適当に組んだように見えており、連携の「れ」の字もない最低な戦い方を見せた。
「エフィレ、適当なパーティに許可出したからまた0になりますよ! 約束守らなかったら連れていきませんからね」
「い〜や〜だ〜」
のんびりしているエフィレと慌てるバルトの会話。彼はだらんと脱力する彼女のほっぺたをつねってなんとかしようとするがどうにもならない。エフィレはとろけた表情のままぐてっと眠ってしまう。
「わたしたちの出番まで何事もなければいいけどね。それまでに圧倒的な差がついていればエフィレちゃんがどれだけ追い上げようとも、最下位は避けられないよ」
「個人戦ではどうなるかはわからないですね。しかしこの戦いで差を広げておけば不安要素はなくなりますね」
「セリアちゃんもどう出てくるか気になるね。今の彼女を読める力はわたしにはないから」
「司令塔はほとんど機能していないとの噂ですが……ガレオスもウォーチスのような無法状態のようですし……」
「けど初陣は6体、いい感じのペースだよ。彼女たちの生徒はバランスがいいからね。それに気になる生徒がガレオスにいる……。彼がどうでるかが私にとっての唯一の楽しみ。他の聖人たちがどうするかよりも」
穏やかな表情をするルーアンにサデスは少し緊張する。これは警戒と言っていいのかわからない上に、他の聖人すら興味を失うほどの難敵なのかと彼の頭の中で良くない考えが何度もよぎる。
「今回もガレオスがトップを取るなどということはありませんよね?」
「それはまだわからないよ。前回での追い上げで今までのザバルタとの差を埋められたようなものだからね。倒すべき相手に強戦力がいるとなると……奪いたくなっちゃう」
ニマっと微笑む。
「聞かなかったことにします」
「……そうだね」
ウォーチスの生徒たちは最初の敵相手に全滅。全滅により試験は強制終了。彼らの討伐数はまたもや0に終わった。
「あああ……」
バルトが膝から崩れて悲しむがエフィレはお菓子を頬張りながらニコニコとその様子を見ていた。
「みんな弱いね」
「僕のせいだ……。みんなごめんなさい……」
「バルトは悪くないよ」
「どうするつもりなんですか」
「知らない。みんなが弱いのが悪い」
拗ねる子どものようにムッと逆ギレをする。
「あー……みんなからは詰められる予感しかしないです」
バルトは完全にその場に崩れてしまった。
一方でザバルタの聖人の様子は……。
「アエリナ様。どこへいかれるのですか」
「余は戦の時に向けて修練に励む。余の強さを五臓六腑に染み渡るまで、無双させてもらうからな」
「ムートもお供いたします」
「いらぬ。ルーアンの挑発に乗るのは余だけで良い」
と、凄んでその場を後にした。
「相当効いてますね」
「単純だし、アエリナちゃんは相手を決して舐めないからね。それぐらいの危機感を持ったってことだよ」
「それに比べてセリア様はやけに落ち着いていますね。体調不良で寝込んでいたとの噂がありますが……」
真剣な表情。彼はあまりの凛々しさに見惚れそうだったがルーアンが手を引くと正気に戻る。
「さーて、引き続き情報収集をつづけようね。第3プログラムでは個人の強さを理解しておくのが最も有力だからね。今のうちに戦い方を把握して、共有しないと」
「承知しました」
サデスはガタイに見合わぬ可愛らしいメモ用紙を取り出して情報収集に励むことにした。




