共和国探訪 side X Ⅵ
共和国軍が大量の魔物を引き連れ、帝国領内に侵攻したのと時を同じくしてゼピュロス領内の都市ベルブラント近郊にも魔物の軍団は迫っていた。
それを迎撃せんとゼピュロス騎士団は布陣する。
最前線では炎剣の二つ名と副団長の肩書を持つフラムが迫り来る魔物の群れを睨む。
「皇帝の慧眼、なかなかのものじゃないか。いいかお前ら、一匹たりとも通すなよ」
「ええ、アイツらが居なくても俺たちだってゼピュロスの騎士ですからね!」
「そう何度もやらせはしねぇ!」
フラムの檄に各々が応えて士気が高まっていく。
「よし、俺が“合図”したら続け。……街を、護るぞ」
団員の雄叫びに背を押されてフラムは単騎で飛び出して行く。
そこは何もない荒野、かつてベルブラントという街が存在し滅んだ。
フラムにとってそこは護れなかった悔恨を抱き続ける場所でもある。
それは他の団員たちも同じだった。騎士になりたてで慕っていた先輩騎士や顔馴染みだった人々が目の前から消える。子供の頃、憧れだった騎士の姿はもう何処にもいない、騎士団に入った後も。
「これで終わりにしよう、頼んだぞ……お前たち‼︎」
魔物の大群が砂煙を巻き上げて迫ってくる。視認してもフラムはスピードを緩めることなく一直線に突撃して行く。
魔物たちもフラムを見つけると腹を空かした獣の様に我先にと群がってくる。
フラムは剣を抜いて飛び上がる。掲げた剣は太陽の様に輝きを放ち熱の雨を降らす。
「終わりの始まりだ」
炎を纏った剣を魔物の群れの中に叩き込むと巨大な火柱が立ち、周囲の数百の魔物が一瞬で焼き払われる。爆発に巻き込まれずとも発生した衝撃波に吹き飛ばされて動けなくなる個体も相当数あって大群の進撃は一瞬で止まってしまった。
「今だ、かかれ‼︎」
フラムを追いかけていた騎士団も直ぐに追いつき魔物たちを次々と討ち取っていく。フラムも突進を続けて群れを引き裂いて行く。
一振りごとに魔物を燃やしていくから迂闊に近づけずにフラムから逃げようとする魔物もいて大群は混乱に陥る。
瓦解する群れを制圧するのは容易く、次第に群れの前線は後退して行く。
「おかしいな、指揮する者が居るはず。もっと遠くか? ならばそろそろか……」
フラムが空を見上げると遠くから何かが飛来するのが見える。
「来たぞ、魔導弾‼︎」
魔力を腹にたっぷりと詰め込んだ鋼鉄の鳥が群れをなし、あっという間に戦場へとたどり着く。
もう一度空高く飛び上がったフラムは炎の剣を振るい迎撃する。数発は落とすことができたが2、3発を撃ち漏らし、後方のベルブラントへ向かって飛んでいく。
「頼んだぞ!」
高速で飛び去る鉄鳥を目で追うと全て空中で爆発するのが見えた。
今まで苦しめられてきた兵器が後方で空高く散る姿を見ると団員たちからも自然と歓喜の雄叫びがあがる。
「よし、上手く行った! 総員、地上部隊だけに集中しろ!」
「おおー‼︎」
さらに勢いを増した騎士団は魔物の群れを押し返していく。
「迎撃確認! みんなようやったよ、この調子やで!」
ベルブラントの砦からルクソリアがスキル【鷹の目】で飛来する鉄の鳥を監視している。監視しているのはルクソリアだけではなく同じように視力強化や接近してくる物体を感知できる者が警戒を続けている。
救護や魔法攻撃を得意とする後方支援部隊に、アルドーレ仕込みの弓使いたちが集まり迎撃部隊を結成した。
もちろん飛翔してくる魔導弾対策のためだ。
「フィリアが傭兵団の武器をヒントにして考え、テコが急造した対魔導兵器! ……名前はまだないし、目の良い人と遠くを狙える人がおらんと使えんけど、ウチらにはそれができる人がようさん居る!」
傭兵団が騎士団本部を襲った時のカノン砲のように直線的に弾を射出できれば高速飛行する物体を撃ち落とせるのではとして考案したが、射撃の精度まで考えが及ばなかった。
目が良くて射撃の技能が高い人物などそう簡単にはみつからない。普段から銃を扱うセレナでも数キロ先は難しいのだから当然だろう。
「ウチは射撃なんてでけへんけど目は良い。狙いは定めるから代わりに誰か撃ってくれたらええんちゃうの?」
ルクソリアの一言で急遽後方射撃部隊が結成されたのだ。
「どうせまた飛んでくるはずや、みんな気張りや‼︎」
ゼピュロス騎士団の戦いは被害がほぼない優勢のまま終わる。
一方で王国の東側ではデシテリア率いるノトス騎士団が戦っていた。
その中に【風神】ことイルヴィアも参加している。
「ねえ、デシくん……あれってさあ、アスペリオだよね?」
「うん、間違いない。しかもあの旗印は教会の神殿騎士団だ。王国は教会との繋がりを隠さなくなってきたね。それと左に展開しているのは以前のアンデッド部隊だ。……兄さん」
実質的な宰相となった兄のトリニアスを想いデシテリアは肩を落とす。
「デシテリア副団長、あまりお気を落とさずに」
側近のアリスが心配して声をかける。
「大丈夫だよ、アリス。心配かけてごめん」
「デシくんはさ、お兄さんをどう裁くか考えているのでしょ? 本人の意思に関係なく結果だけ見れば国を大混乱に陥れた渦中の人なんだから。兵を出したって事は、今頃王国は火の海かもしれない、って」
「イルヴィアさん! もう少し言葉に気を——」
「良いんだ、アリス」
「ま、先の事ばかり考えても仕方ないよ。今は目の前の敵を倒さなくちゃ」
広大な草原が広がるノトスに神殿騎士団とアンデッドという一見相容れない組み合わせが並び立っている。
「あの状況で平気で兵を出せるってことはないよ。王国を見張っていた黒竜は何処かに行ってしまったのだろうね。これってタイミングが良い? 悪い?」
イルヴィアなりに心配しなくていいと言ってくれているのだろう。デシテリアも少し肩が軽くなり戦局に集中しようとする。
「意図的に感じるけどアンデッドは以前から忍び込んでいたのかもしれない。前回の戦いで行方不明のままの団員が多くいる。残念だけどあのアンデッドの中にいるのかもしれない」
「あの中に同志たちが……」
今度はアリスがかつての仲間を想い表情を暗くする。
「じゃあさ、ちゃんと討って眠らせてあげよう。アリスもできるよね?」
アリスは溢れ出しそうな涙を腕で雑に拭ってからイルヴィアの目をみて首を縦に振る。
「それじゃあ、そろそろ始めようか」
イルヴィアは軽やかに歩き出す。
「総員イルヴィア副団長の後に続く。アリスは神殿騎士団、バウトはアンデッド部隊へ。私は……」
「デシくんはそこで待ってて。怪我、まだ治ってないでしょ?」
立ち上がったデシテリアの肩を抑えて座らせる。
「王都はまだ燃えていない。何故だか黒竜は何処かに行ってテコも何もしていない。きっと共和国でなにかあったんだろうね」
イルヴィアはもう一度戦場に目を向ける。
「やれる事、やるだけだよ。全部がいい方向に向かって行く。アタシがそれを、望んでいるから」
一陣の風が舞うとイルヴィアは戦場へと飛翔していった。
——君はいつも僕の計算を狂わせていく
小さくなって行くイルヴィアの背を追うためデシテリアは立ち上がる。
「私たちも続くぞ! ノトス騎士団、進め‼︎」




