共和国探訪 side X Ⅳ
「さて、情報収集といってもどこに行けば良いのだろう」
アルイックは周囲を見渡すが壁のような建物の列に視界を遮られて遠くを見るのを諦める。
「うむ、ここは空が狭い」
空を見上げるアルイックの横をヘルマは通り過ぎて歩いて行く。
「んなもん、考えることか? 適当に歩いてたら何かあるやろ」
「いや、犬じゃないんだから」
「やめておけリーシャ、聞こえているから」
「確かにここに留まっていても時間が過ぎるのみ。我らも行こうか」
アルイックがヘルマの後に続くからエヴァンも仕方なくついて行くことにする。女子たちはすっかり観光モードだからエヴァンはひとりで気合を入れていた。
「俺がしっかりしなくては」
首都モルコビアはラウェストと同じく高層ビルが集中する中心街とそれを取り巻く住宅街で構成され北西は海にも面している。
舗装された道路は東西南北の方角を寸分違わず敷かれ、人と車が通る道は明確に分けられている。
光る看板を掲げる店には見たこともない服や装飾品が並びリーシャたちの目を奪って行く。
エヴァンも街の巨大さに圧倒され、異世界のような風景に飲み込まれてしまいそうな感覚に眩暈がする。
「うむ、大樹の森は昼間でも薄暗いが、ここは夜でも明るそうだな。夜行性の者たちが喜びそうだ」
気後れすることもなくアルイックとヘルマは悠々と歩いて行く。
「本当に怖いもの知らずだな……」
考えなしなのか豪胆なのか、いずれも持ち合わせていないエヴァンは二人が少し羨ましくもあり、憧れに似た感情を覚える。
不意にヘルマが足を止めて人差し指を目線より上の前方に向ける
「あの一番高いところへ行くぞ」
ヘルマが指差す先は一際背の高いビルの頂上だった。
「登るのですか? 中に入られるのか……」
「俺の勘やけどな、あそこに居る」
「居るって、誰が?」
「この国でいっちゃん偉い奴、……それかいっちゃん、悪い奴」
ヘルマの目を見てエヴァンは背筋が凍る。
その目は狩人ではなく破壊者のそれだった。
ヘルマの目的は始めから破壊だったのだろう。ようやく目標を捉えることができ、はやる気持ちを抑えきれずに闘気が漏れ出ている。
流石にリーシャたちも気がつき身を固くする。
「早まらないでください、ヘルマさん」
ヘルマの肩に手を置いて止めたのはエヴァンだった。
「まだ情報が足りない。それにシエルたちプロトルードはどうしたんですか? 彼女たちも来ているなら連絡をとった方が良い」
ヘルマはエヴァンの手を払いのけると正面にたち睨みつける。
「連絡? そんなもんどうやってすんねん、ああっ⁈」
「よせ、ヘルマ! 仲間に手を上げることはこの我が許さんぞ!」
割って入ろうとするアルイックをエヴァンが制止する。
「ヘルマさん……」
一触即発の緊張が走る。
「通信魔道具なくしましたね?」
「何のことかな~、ぴゅーぴゅー」
「ああ、それで一人なんだ。テコさんに迎えに来てもらえば良いのに、おかしいと思ってた」
さっきまでの緊張が嘘のように解けてしまいヘルマは女子たちから冷たい視線を浴びせられることになる。
「数々の大冒険で危険とも渡り合ってきてやなあ……」
「団長に報告しておきますね」
告げ口をするな、などと文句を垂れていたがアルイックが強引にヘルマを引きずっていく。
「取り敢えずはあの……塔? みたいな所へ行ってみましょう。あの高さなら中枢と言われても不思議はないし、道すがらこの不思議な街並みもよく観察しておこう」
高速で走り抜ける車にはすぐに慣れたが、忙しなく歩く人の流れには戸惑う。しばらく歩き続けるが一向に目的につく気配がない。
「これは幻術か? 全然近づけられへんやんけ‼」
「いや、見たらわかるけど普通に遠いでしょ? 高さがあるからだけど……、まさかすぐ近くに見えたとか言わないでしょうね?」
ヘルマとアルイックは下手な口笛を吹こうとしてエヴァンは口をつぐんだまま歩き続けた。




