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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 共和国潜入
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共和国探訪 side X Ⅲ

 共和国軍が首都を封鎖するよりも前に足を踏み入れた一団がいる。

「送迎ありがとう! よし、お前ら帰っていいぞ」

「相変わらず滅茶苦茶だなぁ、ヘルマさんは……。帰られるわけがないでしょう」

 ここに来るまで一切魔力も体力も使っていないがエヴァンはヘルマへのツッコミだけでぐったりしている。

「無理やり予定変更させられて、団長に報告したら目を離すなって言われているんですよ。このまま帰ったら何を言われるか……」

「ははは、ヘルマそう邪険にしてやるな。それにほら見てみろ、彼女たちはまだここに居たいようだぞ」

 アルイックがエヴァンのパーティメンバーに目を向ける。二人も視線の先を見るとリーリャ、ユン、エル、ケリンの4人は見たことがない高層ビル群やキラキラとした街並みに目を輝かせて見惚れていた。

「うわー、すごい……」

「きれい……」

 エヴァンはさらに疲れが増した気がしたが、大きな溜め息を吐くと低めの声で言葉を投げかける。

「4人とも、観光にきたんじゃないんだぞ」

「わ、分かっているわよ。着いたばかりなんだし少しぐらいは構わないでしょう」

 どんな顔をしていたか気になって恥ずかしいのか顔が赤い。

「うむ、ここ迄の道程を数日で来られたのだ、少し骨休めも必要だろう。情報収集を兼ねて観光と洒落込んではどうだろうか?」

「しゃーねぇなあ。ほな、行くか」

「え、いいの? はは、やったねみんな」

 リーシャが他のメンバーと喜びあっている横でエヴァンは頭をかかえる。

「はあ……、結局付き合わせられるのか」


  エヴァンたちがヘルマたちと合流したのは全くの偶然だった。

 アルイックが新結成したヘリオス獣騎士団は首都モルコビアを目指していた。

 前身の近衛兵団にザークとムートが加入して村から車を貰い受けるも道のりは長く時間がかかる。

 荒野か森、または草原が広がるアフティアの大地に車がまともに走れる道は少ない。ムートのナビゲートでなんとか進んでこられたがたったの三日で故障して走れなくなっていた。

「どうすんだよ、おいっ⁈ まだ全然進んでねえだろうがよ!」

「まだ半分も進んでいない。ここから先は越境して大きな湖を5つも越えないといけないのに……参ったな。どうします、殿下」

 文句をいうヘルマを無視してザークはアルイックに判断を仰ぐ。

「うむ、確か湖には水棲の魔物が多く棲息し、船で渡るにも途中で立ち寄れる島もない。まるで海のよう、だったな?」

「ええ、10年以上も前の記録ですから今は変わっているかも知れません。ですが、湖の大きさは変わらないでしょうし、それを五つも超えるのは至難の業です」

「そもそも敵地で何が起きるか分からないっすからね」

 ムートは何処からか拾ってきた枝を使い地面に簡易の地図を描く。

「今はこの辺だと思うっす。で、国境を少し超えると湖があって、超えるための距離は確か……国境線の4分の1ぐらいになるっす」

「そんなに距離があるのなら迂回はできないのか?」

 アルイックが代表して疑問を呈する。

「出来なくはないっすよ。ただ……国境を越えずに迂回する場合は山脈を超える必要があるっす。山も迂回して海岸線まで行けるっすけど、共和国軍の基地があったはずで、ちょっと面倒かも。湖を左回りに行くルートはもっと時間がかかるうえに何があるかわかんねーす。……敵の陣地ですから」

「湖を超える以外の選択肢はない、ということか」

 ザークがムードの描いた地図にルートを書き足して提案する。

「それなら海岸線ルートで良いかと。全地域が基地ってわけじゃないだろうから海からか山に沿って行けば……」

「アホか! これ以上時間潰してられるか! 湖なんか飛び越えて行けばええやろ。できへん奴は俺様がぶん投げたる」

「無茶いうなよ……」

「ここを通るのは分かってたんちゃうんか? どないするつもりやってん」

 ヘルマの言う事はもっともである。少なくとも首都を目指すはずだったアルイックたちには計画があるはずだ。

「そんな大きな湖があるとは知らなかった。我たちだけでは立ち往生しているところだった、お前たちが居てくれて助かったぞ」

「いや、ノープランかよ。絶賛立ち往生中なんやけど」

 この場に居ても埒が明かないからと壊れた車を放棄して近くの集落を目指すことなった。


 集落に近づくと魔物が倒れている。一匹、二匹ではなく複数が点在し、中には大型の魔物もいる。激しい戦闘の後も見られるから誰かが討伐したのだろう。

「これは……獣人の倒し方ではないな」

 アルイックは倒れている魔物がどのようにして倒されたのかを検分する。

「爪や牙の傷跡がない。切創、刺創いずれもなく、これは殴打と魔法によるものだ。こんな戦い方はニンゲン族でも……」

「この魔物の数は異常ですよ、集落に何かあったのかも⁈ 急ぎましょう!」

 獣騎士団は全速で集落を目指す。

「ヘルマの兄貴、どうかしたんです?」

 ムートだけは一団の後を追わずにヘルマとその場に留まる。

「いや、なんか見た覚えが……。強力なクセに破壊力がなくて魔法攻撃も正確に弱点をつくクセに別に大したことなくて…………」

「えらく具体的にディスるんすね……もしかしてお仲間ですか?」 

 しばらく考え込んでいたヘルマはムート言葉で何かを思い出す。

「おお、そうやったわ! てことは、あいつらがおるんか! ムート、行くぞ! 急げ!」

「あっ、ちょっと、兄貴―!」

 ヘルマの背中はあっという間に消えてしまう。

 獣騎士団が集落につくと獣人たちがニンゲン族の男女を囲んでいた。

「やはり何かあったのか……? おい、少し聞きたいことがあるのだが良いだろうか?」

 アルイックが声をかけると一斉に獣騎士団に視線が集まる。

 獣騎士団を見る目は実に冷ややかだった。

「ん? あんたたち誰だ?」

「我らはヘリオス獣騎士団、道中で魔物が倒れているのを見つけて駆けつけた。怪我をしているものは居ないか?」

「獣騎士団? 今更何をしに来たんだ、魔物に襲われて困っていたがこちらの騎士様たちが討伐してくださった。あんたらに用はないから帰ってくれ」

 思わぬ冷遇に面食らってしまったがアルイックは冷静に答える。

「そうか……助けを求めていたのに我らは一足遅かったのだな、済まなかった。助けてくれた騎士に我からも礼を言いたい。会わせてくれないだろうか」

 魔物を倒したという騎士がどういう人物か気になる。何かのきっかけで近づいて村人から搾取するやり口に痛い目にあったばかりだからだ。

 ちょうどそこにヘルマが追いついてくる。

「おいゴラァ、出てこいエヴァン!」

 笑いながら怒鳴りつけるから村人たちも驚いて萎縮してしまう。

「その声……ヘルマさん?」

 村人の輪をかき分けて顔を見せたのはゼピュロス騎士団の遊撃隊エルーゾン隊のエヴァンとリーシャだった。

「おお、奇遇やな。ちょっとお前ら俺らを共和国の首都まで連れて行ってくれ」

「……は? 首都?」

「ああ、またヘルマさんの無茶振り……」

 エヴァンとリーシャは深いため息と共に乾いた笑いが喉から漏れる。


 場所を変えて話をすることになる。

 共通項がヘルマだけであるためアルイックとエヴァンは互いの自己紹介を始める。もちろんヘルマに任せておけないからエヴァンとザークが始めたことだ。

「初めまして、ゼピュロス騎士団エルーゾン隊隊長のエヴァンです」

 続いてリーシャたちも挨拶を行う。

「俺たちは王国内で住んでいるところを追われた獣人たちを保護していて、アフティアへの帰還を希望する人たちを送り届ける任務の最中でした」

「おお、君たちが! 話は聞いているぞ、同胞のために尽力いただき次期王として感謝する」

「えっ、次期……王?」

「うむ、我はアフティア前王の嫡男にして次期王、アルイック・フェータだ。よろしく頼む、エヴァン」

「ウソ……なんで次期王様がこんなところでヘルマさんと?」

 リーシャの正直な独り言にエヴァンは慌てるがアルイックは笑い飛ばす。

「はっはっは、君の言うことももっともだ。次期王を名乗っているが、決まりではない。まずはこの国の現状を変えるために共和国へ行って関係改善を図る。集落の助けを求める声に応じられないほど我はまだまだ未熟だ。見聞を広めるとともに王に相応しくあるための修行も兼ねている」

 身体が大きく威圧的だがそれを快活さで和らいでいる。やや豪胆な面を感じるが、エヴァンたちが知る王族のイメージからは少し違って見えた。

「ところであの魔物たちは君たちが倒したのか?」

「はい、この村に立ち寄った際に相談を受けまして。なんでも共和国側から魔物が大量に押し寄せてくるとかで、見てのとおり大したレベルの魔物ではないのですが数が多く村人だけでは対処できずに困っていたそうです。国公認の傭兵団に討伐依頼を出していたのに全く動きがなくて……」

 アルイックたちは傭兵団と聞いて嫌な予感がする。

「その傭兵団の名はわかるか?」

「えっと確か……」

 すぐに答えられないエヴァンをリーシャがフォローする。

「スウィド傭兵団、でしょう。近々近衛傭兵団と合流するって話があるそうで、ちょっと怪しいけど頼れる先がなくて仕方なく、だったみたいです」

 やはりそうかとザークたちは肩を落とす。エヴァンとリーシャは何かあったのかと顔を見合わせる。

 ザークはスウィドが傭兵団を金儲けのために利用していた事を手短に説明する。アルイックも騙されていた事は伏せていたのにアルイック自身がバラしてしまう。

「我の不徳故だ、この村にも迷惑をかけてしまった」

 幼少期は貴族社会で育ったエヴァンとリーシャは身分の差で理不尽を強いる傲慢な人物ばかりを見てきた。だから身分の差を感じさせず謙虚な姿勢を持つ人物には尊敬や憧れを抱く傾向がある。自分たちもそうありたいと強く願い努力してきたのだ。

「連絡手段がありませんから仕方ないと思います。周辺の情報も乏しいですから。幸い村に被害は出ていませんでしたから、その……あまりお気を落とされなくても」

「うむ、心遣い痛み入る」

 優しい笑顔にエヴァンたちはこの人は王に相応しいと直感する。

「いや、しかし相変わらずお前ら戦闘はショボいな」

 折角の良い雰囲気にヘルマの言葉が水を差す。

「おい、ヘルマ! 自分、ホンマに空気読めへんな」

 ザークはわざと方言で空気を和ませようとするがヘルマは止まらない。

「いや一撃で仕留められてないのがようさんあるし、魔法の威力もまだまだやぞ。他も支援できてるか?」

 突然のダメ出しにエヴァンたちは表情を暗くする。

「それにやなあ、まだまだ凡人の域出てへんぞお前ら。そんなんで俺様らと肩並べられると思ってんのか?」

「いや、もうやめとけって!」

 ザークの制止も聞かずにヘルマは続ける。

「天才の領域は遠いぞ」

 空気が張り詰めて遂にザークがヘルマを連れ出そうとする。

「何を考えているんだ⁈ 村を救ってくれた仲間に言うことか?」

 黙って聞いていたアルイックがエヴァンを見つめる。それに気がついたエヴァンが顔を上げると落ち込んだ様子が見られずアルイックは思わず目を見開き口角を上げる。

「ザークさん、良いんです。これは俺たちにとって大事な事ですから」

「いや、良くないだろう。このバカの言う事なんか聞かなくて良い」

「おい、この天才にむかってバカつったか? おっ⁈」

 睨み合うヘルマとザークの間にエヴァンが割って入る。

「違うんです、これは俺たちがヘルマさんにお願いしていたことなんです。戦闘後の評価をしてほしいと」

「評価?」

「ゼピュロスには天才が多い。俺たちみたいな凡人とは大きな隔たりがあって、本当に大きな危機に直面した時に何も出来ないことがあって……」

 天才や凡人なら関わらず危機的状況を打破するのは容易ではない。それはアルイックやザークにも身に覚えがある。

「俺様は何とか出来るけどな」

 ヘルマの言葉にザークの片眉がぴくりと動くが、実際に何度も救ってもらった事を思い出す。

「多くの人がそうだろう。我には天才と凡人を分ける必要性を感じないのだが?」

 エヴァンはアルイックの言葉を肯定しつつ言葉を返す。

「天才は何でもできる人のことではないと思います。人格が破綻してようとも何かに特化した人も天才と呼ばれる」

「こいつの事やな」

 ザークとヘルマがまた睨み合いを始めるからエルとケリンが二人を止める。女の子二人が間に入ると流石に大人しくなり、それを見ていたアルイックが吹き出している。

「ただ何かに特化した人はただの秀才、才能がある人はただの才人だと思うのです。では天才とは何か……、それは他人と自分を明確に知る人のことだと思うのです」

 アルイックは興味津々に耳を傾けている。

「自分がどのぐらいのレベルにいるのかは競ってみれば明確になるかも知れない、でも総合的な判断は難しい。けど天才はそれを見抜く力がある。天才にはなれなくてもいつか俺たちが秀才たちの域にたどり着くように、その指標を見失わないようにヘルマさんにお願いしていたんです」

 沈黙が流れるとアルイックが口を開く。

「よく分かった。だがヘルマ、良かったところも教えてあげないと成長が鈍化する。あそこまで正確に急所を狙うには間合いを詰める必要がある。それを無傷で成し遂げるには相応の体捌きに勇気も必要だ。仲間との連携もよく取れている証拠だろう。凡人という言葉は役不足だと我は思うぞ」

 今まで感謝されても褒められることがなかったから少しむず痒く感じてしまうが、明らかにメンバーは喜んでいた。

 ザークはヘルマを肘で小突きながらどうだと言わんばかりだ。

「そうだぞ、たった5人で同胞を送ってくれるなんて凄いじゃないか。しかしどうやってここまで? あまり人数も連れていけないだろう?」

「ああ、ケリンは短い距離なら転移魔法が使えて、エルは魔力譲渡ができるので二人で連携しながら3日もあればゼピュロスから王都まで数百人ぐらいは移送できます。俺とリーシャがメインで護衛、ユンは回復の他に防御もできますし、料理や雑用もこなしてくれるので助かってます」

 照れるケリンとエルの後ろにユンは隠れてしまい見えなくなる。

 パーティの能力を聞いて流石のアルイックも驚きヘルマに笑顔を向ける。

「連れて行ってくれとは、そういうことか。彼らの評価が厳し過ぎるのではないか?」

 ここからたったの二日で首都モルコビアに到着する。

 次の任務のため帰還予定であったが団長のファウオーに相談したところ『ヘルマをひとりにする訳にはいかない。監視役として目を離すな』と指令をくだされて意図せずに首都陥落作戦に参加することになった。


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