表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚余剰人員の為、魔王は任せて異世界満喫?!  作者: 倉地冬馬
第一章:やはり一人は寂しいものです

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/14

第11話 依頼受注:癒月草:ハンバーグ?!

 赤い掲示板の前には、十人ほどの人が集まっていた。


(これが、依頼が貼り出される掲示板か)


 携太(けいた)も、その輪の後ろにそっと加わる。


 掲示板には、赤い紙がびっしりと貼られていた。


 一枚一枚に、細かい文字が並んでいる。


(依頼のタイトルは読める……けど、詳細はもっと近づかないと見えないな)


「薬草採取」


(みぞ)さらい」


「見張りの補助」


「ゴブリン討伐」


「荷運び」


 種類はばらばらで、そのうえ数が多い。


(多すぎて、何が何だか……)


 もっと近くで見たいが、すぐ前には、屈強(くっきょう)な体つきの男が立ちはだかっていた。


 背も横幅もあって、掲示板の半分が、その体で隠れてしまっている。


(とりあえず、どんなのがあるのか、見てみるか)


 男の脇から掲示板をのぞこうと、携太がそっと身を乗り出そうとした――その時だった。


 男が、一枚の依頼を無造作(むぞうさ)に剥ぎ取り、くるりと後ろを振り向く。


 避ける間もなかった。


 分厚い腕が、まともに携太にぶつかる。


 体格差は歴然(れきぜん)で、携太の体は、あっけなく後ろへ泳いだ。


(あ、転ぶ――)


 そう思った瞬間、背中側から、すっと腕をつかまれた。


 後ろに回り込んだ誰かが、倒れかけた携太を支えてくれたのだ。


「――っと。大丈夫ですか?」


 振り向くと、クレアだった。


「あ……ありがとうございます。助かりました」


 ほっと息をつく携太の一方で、ぶつかった男はというと――ぎろり、と鋭い目でこちらを(にら)んでいた。


 岩のような顔に、太い眉。頭は光り輝くスキンヘッド。


 左の頬には、古い傷跡が一本、斜めに走っている。


 背には、見上げるほど大きな(おの)を背負っていた。


 睨まれただけで、思わず背筋が伸びる。


「す、すみませんっ」


 反射的に、携太は頭を下げた。


 すると。


「……いや」


 男の表情が、ふっと(ゆる)んだ。


「こっちこそ、悪かったな。振り向く時に、よく見てなかった。怪我はねえか?」


 低く、意外なほど気づかう声だった。


「あ、はい。平気です」


「そうか。ならいい」


 男は軽く手を上げると、受付のほうへ去っていった。


(……見かけによらず、いい人だな)


 強面に反して、ずいぶん律儀(りちぎ)な人だった。


 おかげで、少しだけ、このギルドの空気が柔らかく感じられる。


 男が離れると、(ふさ)がれていた掲示板が、ようやく全部見えるようになった。


 携太は、あらためて赤い紙の群れと向き合う。


(……とはいえ、見えたところで、この数だ)


(どれが自分向きなのか、さっぱり分からない)


 初めてなら、どれにしようか迷うのも無理はない。


 そんな携太の様子に気づいたのか、クレアが掲示板から一枚の依頼を剥ぎ取り、携太に見せた。


「でしたら、これなんかどうですか?」


 差し出されたのは、「癒月草(ゆげつそう)の納品依頼」と書かれた紙。


 そこには、白い小花をつけた、淡い緑の草の絵が添えられていた。


「癒月草の、納品依頼……?」


 書かれた文字を、携太はそのまま読み上げた。


「はい。まず、この隅に書かれている『F』。これが、依頼の必要ランクです」


 クレアが、紙の角を指でさす。


「下からF、E、D……と上がっていって、上のランクほど、難しくて危険な依頼になります。ケイタさんは登録したばかりなので、Fランク。この依頼は、今日から受けられますよ」


「なるほど……このアルファベットが、ランクだったのか」


 意味が分かると、掲示板の見え方が、少しだけ変わった。


 すべての依頼を見なくてもいいのだ。


 今の自分が受けられるのは、Fランクの依頼だけ。


 そこだけに目を向ければ、あの多さも、ずいぶんと見やすくなる。


「そして、この癒月草というのは、薬の材料になる薬草なんです。常設依頼なので、いつでも受けられますよ」


 クレアは、紙の文面を指でなぞりながら続けた。


「報酬は一本につき50イエン。納品数は五十本で、納期は二週間です」


 一本50イエン。


 五十本で、2,500イエン。


「討伐ではないので、危険は少ないですよ。街道沿いや、そこから少し外れた草地に生えていますから」


 なるほど、と携太は思う。


 戦闘力は要らず、ただ草を集めて持ってくればいい。


 それなら、自分にもできそうな気がした。


「あの、これって……買って納めるのは、だめなんですか?」


「もちろん構いませんよ。でも――」


 クレアは、少しだけ声を落とした。


「癒月草、お店で買うと一本100イエンくらいするんです。それを50イエンで納品したら、赤字ですよね」


「……あ」


 言われて、ようやく気づく。


 買って納めれば、集める手間はないが、買って済むなら依頼が出るはずもない。


 やはり、自分で採りに行くしかないのか。


 そこで、携太の顔が少し曇る。


 街道沿いとはいえ、街の外は街の外だ。


 言葉にすれば簡単だが、この街の外は未知だ。


 魔物が少ないと言われても、一人で城壁の外へ出るのは、正直こわい。


 その迷いを見透かしたように、クレアが「あ、そうだ」と手を打った。


「特別に、いいこと教えちゃいますね」


 そう言って、携太を手招きする。


 向かったのは、右手側――金色の掲示板が並ぶ、商人ギルドの一角だった。


「本来、他のギルドの依頼をこうやって案内することはないんですけど」


 クレアは声をひそめ、金色の紙を一枚指さした。


 そこにも、あの白い小花をつけた草が描かれている。


「今、商人ギルドでも癒月草を買い取っているんです。それも、一本75イエンで」


「75イエン……さっきより高い」


「はい。ちょうど需要が重なっているみたいで。こちらも、必要数は五十本です」


「ケイタさんは商人ギルドにも登録されていますから、こちらの依頼も受けられます」


 クレアは、いたずらっぽく笑った。


「もし両方受けたら、二週間で百本。集められれば、なかなかの稼ぎになりますよ」


 百本。


 携太は、頭の中で計算する。


 冒険者ギルドに五十本で、2,500イエン。


 商人ギルドに五十本で、3,750イエン。


 合わせて、6,250イエン。


(群生地が見つかるといいけど……仮に五十本だけでも見つかれば、片方は納品できるわけだしな)


 納期は二週間ある。


 とりあえず、受注してみよう。


 べつに、クレアの言葉を疑っているわけじゃない。


 こんなに親切に案内してくれた人を、信じていないなんてことはない。


 ただ――「一人でも平気だよ」と、そう言って背中を押してくれる誰かが、もう少しだけほしかった。


 安眠亭に戻ったら、エレナやバルトにも聞いてみよう。


 街道沿いの様子は、あの二人も知っているだろうし、背中を押してもらえれば、その時こそ思いきって行けばいい。


「……分かりました。両方、お願いします」


「はい、ありがとうございます。お一人でも、Fランクの依頼なら十分こなせる範囲ですから、安心してくださいね」


 にこやかに言われて、携太は「そうですよね」と(うなず)く。


 頷きながら、内心は少しも安心していなかった。


(いや、こわいものは、こわいんだって……)


     ◆


 受注の手続きは、あっという間だった。


 クレアが二枚の紙と、携太が差し出したギルドカードを受付へ持っていくと、カードに依頼の内容が記録された。


 返されたカードを裏返してみると、受注中の依頼名と納期が、はっきりと魔法文字で浮かび上がっていた。


(へえ……受けている依頼が、ここで確かめられるのか)


「これで、二件とも受注済みです。期限は今日から二週間ですね」


「わかりました。頑張ってみます。色々とありがとうございました」


 ギルドカードを適当にポケットにしまおうとしたところで思い出した。


 他人が持てばただの薄い金属の板でも、今の携太にとっては大事な身分証だ。


 落としたり、盗まれたりしたら、面倒なことになる。


(……そうだ)


 携太は、腰の巾着袋(きんちゃくぶくろ)の口を開けた。


 カードをその中へ入れる――ふりをして、頭の中でアイテムボックスへしまうよう念じる。


 傍から見れば、ただ巾着袋にしまっただけ。


 クレアを見ても、何も不思議がってはいなさそうだった。


 これなら、落とすことも、盗まれることもない。


 必要な時に、また取り出せばいい。


 大事なものだから、慎重すぎるぐらいがちょうどいい。


 クレアに軽く会釈(えしゃく)をして、携太はギルド会館を後にした。


     ◆


「……美味しいっ」


 串に刺さった肉を頬張(ほおば)った瞬間、思わず声が漏れた。


 甘辛いたれの絡んだ肉は、ほろりと柔らかく、噛むほどに旨みがあふれてくる。


 外に出た時、日はまだ高く、ちょうど昼を少し過ぎたころだった。


 帰り道の市場には、香ばしい匂いが漂っていた。我慢できるはずもなく、携太は買ったばかりの串肉に、勢いよくかじりついていた。


「うまいだろ~?」


 露店のおばちゃんが、腰に手を当てて、誇らしげに笑った。


「はい、すごく! ……あの、こっちのは何ですか?」


 携太が指さしたのは、隣の鉄板でじゅうじゅうと焼かれている、丸い肉だった。


「そっちはねえ、うちの一番人気。ひき肉をこねて焼いたやつだよ」


「……ハンバーグみたいだ」


 思わず、口の中でつぶやく。


「そう、ハンバーグさ!」


「え……?」


 まさか、その名前がそのまま返ってくるとは思わなかった。


(……そうか。言葉が通じるのと同じで、料理の名前まで、俺の知ってる呼び方に翻訳されてるのかもしれない)


 そう考えれば、なんとなく()に落ちる。


(これなら……夜、三人で食べてもよさそうだな)


 安眠亭は宿だが、本来、食事は出していない。


 それを今朝は、特別に朝食をごちそうになった。


 そのお礼も兼ねて、今夜はこのハンバーグをみんなで食べよう。


 そう、携太は考えた。


「じゃあ、これを三つください」


「あいよ!」


 おばちゃんは、焼きたての肉を三つ、一つの紙皿にまとめてのせて渡してくれた。


 ずしりと、手のひらに温かい。


(……いや、待てよ。これ、どうやって持って帰るんだ)


 受け取ってから、はたと気づく。


 宿までは、それなりに距離がある。


 このまま持ち歩けば冷めてしまうし、たれもこぼれそうだ。


(……アイテムボックスだな)


 携太は、通りから一本、細い裏路地へと折れた。


 きょろきょろと左右を確かめ、誰も見ていないのを確認してから――紙皿ごと、そっとアイテムボックスへ収めた。


 容器ごと、すっと消える。


(よし。これなら冷めないし、こぼれもしない)


 誰にも見られずに済んだ。


 ……はずだった。


 ふと、足元に気配を感じて見下ろすと。


 一匹の猫が、こちらをじっと見上げていた。


 料理の消えた携太の手と、その顔とを、不思議そうに見比べている。


「…………」


 携太は、思わずフリーズした。


 猫も、動かない。


 数秒の、奇妙なにらみ合い。


 やがて猫は、ふいと興味を失ったように、何事もなかった顔で、てくてくと去っていった。


「……はぁ」


 携太は、詰めていた息をそっと吐く。


(この世界、獣人とかもいそうだしな……もし今のがそういうやつだったら、まずかったぞ)


 背筋が、ひやりとする。


 とはいえ、あの去り方だ。


(うん。今のは……たぶん、ただの猫だ)


 そう信じたい。


 気を取り直して、携太はふたたび宿への道を歩き出した。


 歩きながら、ふと、さっきの肉のことが頭をよぎる。


 一人一つずつで、ちょうど三つ。


 だが、量が読めない。


(あの二人、見た目より食べるかもしれないしな……)


 携太は、周りに聞こえないよう、心の中でオラクルに呼びかけた。


(なあ、オラクル。こんなこと聞いていいのか分からないんだけど……あの二人って、けっこう食べると思うか? 一人一つで、足りるかな)


 しばしの間があって、頭の中に、落ち着いた声が返ってきた。


『申し訳ありません。個人の食事量までは、判断しかねます』


(……だよな。変なこと聞いた)


 さすがに、そこまでは分からないらしい。


 携太が苦笑した、その時だった。


『ただ、もし足りない場合は、複製機能をお使いになってはいかがでしょう』


(……複製?)


 聞き慣れない言葉を、携太は思わず心の中で繰り返した。


『はい。アイテムボックスに収納した物は、魔力を消費して複製できます』


(増やせるってことか? この、買ったハンバーグも?)


『はい。収納中の物であれば、同じ物を増やせます』


 初耳だった。


 アイテムボックスに、そんな機能まであるとは。


(それならもっと早く教えてくれてもよかったのに……)


 そこまで思って、いや、と思い直す。


 オラクルは、自発的には話しかけないということを忘れていた。


 今だって、携太が食事のことを尋ねたから、ついでのように答えてくれただけだ。


 そういえばさっき、ギルドで依頼に頭を抱えていた時も、オラクルに相談してみたら良かったのかもしれない。


『ただし、複製には最低一つ、現物が必要です。中身がゼロになると複製できません。無くなる前に複製しておくのが基本とお考えください』


(逆を言えば、一つでもあれば魔力がある限り無限に生み出せるのでは……)


 理屈は分かった。


 分かったのだが――


(……いや、待て。これ、けっこうとんでもなくないか?)


 携太の足が、思わず止まる。


 一つあれば、そこから同じ物を増やせる。


 食べ物も、道具も、たぶん――薬草も。


(なあ、オラクル。たとえば、だけど)


『はい』


(一本でも癒月草が手に入れば、それを複製して、どんどん増やせるってことか?)


『魔力が続く限りは、可能です』


 携太は、しばらく言葉が出なかった。


 採りに行かなくていい。


 危ない外へ、一人で出なくていい。


 一本さえ手に入れば、あとは部屋の中で、いくらでも。


(……これ、稼ぎ放題じゃないか)


 胸の奥が、じわりと熱くなる。


 と同時に、ほんの少しだけ、うしろめたさもよぎった。


(買った物を増やして売るって、ちょっとズルいような気も……)


 でも、と思い直す。


 盗んだわけじゃない。


 ちゃんと、自分の金で買っている。


 危険な採取を、能力で肩代わりしているだけだ。


 そう考えれば、悪いことでもないだろう。


 問題は、その“最初の一本”を、どこで手に入れるかだ。


(オラクル。癒月草って、どこで売ってる? やっぱり薬屋か?)


『薬師の店でも扱っていますが、鑑賞用として、花屋に並ぶこともあります。ただし薬草として使える品質かどうかは個体差があります』


(花屋?)


『はい。観賞用の草花として、比較的安く並んでいることがあります』


 花屋、か。


 薬屋よりは、入りやすそうだ。


 携太は、空を見上げた。


 日は、まだ高い。


 昼を過ぎたばかりで、時間はまだある。


 今から花屋へ行って、癒月草を一本、手に入れる。


 宿に帰ったら、この肉を三人で食べて――そのあと、部屋でこっそり複製を試してみればいい。


 そうと決まれば、じっとしてはいられなかった。


(よし。今から、花屋に行こう)


 携太は、軽くなった足取りで、通りの先へと歩き出した。


 胸の中には、久しぶりに、前向きな算段があった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


携太は初めての依頼として、癒月草の納品依頼を受けることになりました。

さらに、アイテムボックスの複製機能についても知ることになります。


次回は、癒月草を探して花屋へ向かいます。

続きも読んでいただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ