第9話 全部抱きしめて
荒宿高級宝石店。
ギシ…ギシ…。
【アイシテル…シバタ…サン…】
動くマネキンは、柴田店長に手を伸ばす。
「貴女に、意思は無いわ」
「待ってください」
ほうかさんが、アンを止める。
「ほうかさん…?」
アンは、ムチを振り上げたまま、静止した。
「どうしたのよ。幻身狩りを止めないで」
「アンさんのお仕事なのは、わかっていますが、止めさせてください」
ほうかさんは、十字架を手に持つ。
「あなたを救いたいです。全てを救いたいです」
「このマネキン。柴田店長のことを好きなんじゃないのか」
「アイシテルって言ったぞ」
警察が戸惑っている。
「事情があるはずです。それを調べましょう」
ほうかさんの意見で、最後の一体を、一時的に残すことになった。
第9話 全部抱きしめて
警察官が、宝石店の柴田店長に、話を聞いた。
室内に置かれた植木鉢は、柴田店長が、置いたものらしい。
植物には、語りかけることがあるらしい。
「元気でいてほしい」
語りかける。
そして、判明したこと。
柴田店長は、1000年前の人形使いの子孫。
幻身=動くマネキンの呪いがはじまった時代。
その時代の人形使いの子孫だった。
「1000年前の人形使いのウワサは、あったか?」
「御神木じゃないのか」
「でも、動く人形は、実際に柴田店長に反応してるよな」
警察官たちが、混乱している。
「呪いは本当よ。幻身は、樹の霊力の暴走なんだもの」
アンは、樹の霊力の暴走のことを警戒している。
人形使いの子孫の情報なんて考えない。
「僕が、考えますよ」
「ほうかさんが?何を?」
「魂についてです」
ほうかさんは、考え込む。
1000年前の人形使い。
幻身=動くマネキン。
樹の霊力の暴走。
荒宿シティに出現。
高級宝石店に、人形使いの子孫。
柴田さん。
愛情が隠れているように思える。
物言わぬマネキンが、動いて“柴田さん”を求めているような気がしてしまう。
今まで、“彼女たち”は、人形使いを求めていたのではないだろうか。
柴田さんに、会いたかったのではないだろうか。
「柴田店長…」
「ワタシに会いに来たのか?求めていたのか?」
涙が流れる。
宝石店の柴田店長は、最後の一体の動くマネキンを抱きしめた。
ギュッ。
「ううう」
「女の娘だったんだな。幻身は」
警察官たちが、もらい泣きをしている。
「ちょっと。幻身に意思なんか無いわ。勝手に盛り上がっても、出現は続くわよ」
アンは、不平不満を口にする。
確かに幻身騒ぎは続くだろう。
でも、今は…。
「アンさんは、僕が救いますからね」
「え」
ギュッ。
ほうかさんが、アンを優しく抱きしめる。
少し、強めに。
「ほうかさん…」
「アンさん。僕は、あなたを一番に救いたいんです」
良いも悪いも無く。
男の人たちは、全部抱きしめていた。




