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第10話 優しい人の住む街

荒宿マンション。三階。

早朝。

ガチャッ。

同時に、隣同士の玄関のドアが開いた。

「あ、ほうかさん」

「おはようございます。アンさん」

アンとほうかさんは、マンションの隣同士に住んでいる。

「お出かけですか?」

「え…と」

アンは、コンビニに、コーヒーを買いに行くつもりだった。

「朝早いですが、僕の部屋で紅茶でも飲みませんか」

「…飲む」

「では、どうぞ」


城之内ほうかさんの部屋。

すっきりしたお部屋。紅茶の香りがする。

「紅茶をどうぞ」

「ありがとう」

紅茶を飲む。美味しい。

「この前は、お仕事の邪魔をして申し訳ありませんでした」

「え、いいのよ。変わらず幻身狩りが続くだけよ」

アンの言う通り、幻身出現は、変わらず続いている。

「意思のない幻身に同情するなんて無意味だわ」

「すみません」

「ほうかさんは、私にだけ優しくしてくれればいいのよ」

「優しくしますよ」

「本当かしら」

「本当ですよ。僕は、アンさんだけを愛しています」

「私も、よ」

二人は、見つめ合う。


第10話 優しい人の住む街


黒木霊力探偵事務所。

ピコン。

アンのスマホにメールが届く。


[指名だ。レディ。

 交番に幻身出現。

 解決を期待する]


「交番なの?」

「交番ですか。大変ですね」

アンのスマホをのぞき込むほうかさん。

「仕事ね」

「行きましょうか」


荒宿シティ交番。

交番の警察官は、動くマネキンに抱きついていた。

「これが、愛の抱擁ほうようだぞ」

「人に迷惑かけないようにしろよな」

「世界は、愛でできてるからな」

警察官の様子がおかしい。

愛、愛、言っている。


「霊力探偵か。ビシバシ頼む」

「幻身、反省するんだぞ」

警察官が、アンをうながす。


「行くわよ」

アンは、ムチを振り上げる。

ビシッと。

バシッと。

動くマネキンが壊れる。

「さよなら。名無しのゴンベエさん」


数分後。

壊れたマネキンの残骸を回収する中で、警察官が聞いた。

「この動くマネキンは、樹を大事にしない呪いで動いているんだよな」

「そうよ」

アンは、答えた。

「1000年前に切り倒された御神木って、何処にあったんだろうか」

「どこでしょうね」

ほうかさんが、考える。


荒宿シティでは、現在、緑あふれる駅前を建設中である。

今さら、緑を増やしても、過去の呪いは続くだけ。


「いつか、話し合えるといいな。幻身とも」

「対話できるといいな」

甘いことを言い合う警察官たち。


「幻身に意思なんか無いって、わからないのよね。霊力の低い人たちって」

「わかるんですよ」

ほうかさんは、アンの肩を抱く。


警察官たちから歓声が上がる。

「人に優しく。ものに優しくしませんか」

「私が、優しくしてほしいわ」

「これが、あなたのお仕事なんですよね」

「そうよ」

「アンさんのお仕事を手伝いますよ」

「ほうかさん、ありがとう。仕事を頑張るわ」

御神木の呪いによる幻身狩りがアンの仕事だ。


帝都。荒宿シティ。

ここは、1000年前に、御神木の呪いがかけられた都市。

幻身=動くマネキンが出現する、架空都市。

この街には、働き続ける美人霊力探偵アンがいる。

助手は、聖職者を目指す、ほうかさんだ。

いつか、言いたい。自然よ、聞け。

この街には、優しい人たちが住んでいるのだ、と。

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