第9話 持ち寄りの日
巡灯がラーデ村へやって来た。
灰色の外套。雪を被った荷ソリ。灯院の印。ソリを引く男の肩には、凍った息が白くまとわりついている。
村人達は、少しずつ荷を持って集まってくる。
炭。燻製。木材。毛皮。干し茸。縄で縛った薪。
この国では、皆が持ち寄らなければ冬を越せない。
「今年は炭少ないな」
巡灯の男が言う。
「雪が早かったからな」
ガルドが答えた。
皆、淡々としている。でも、その空気の奥には緊張があった。炭が少ないということは、どこかで火が細くなるということだ。
アルノ家の袋は小さい。
ローグが居なくなってから、森仕事が減ったのだ。
リナは小さな袋を抱えていた。両手で抱えられるくらいの袋。中身は干し茸と毛皮が一枚だけ。
列が近づくにつれ、リナの指が袋の口を強く握る。布が皺になる。
「大丈夫だ」
アルノが小さく言う。
「……うん」
リナは頷いたが、顔は少し硬い。
巡灯は責めなかった。
「ローグの家。干し茸一袋。毛皮一枚」
静かに記録を付ける。
リナは少しだけ肩の力を抜いた。周囲の村人も何も言わない。この国では、誰もが冬の重さを知っている。だから簡単に責めたりはしない。
ミレナが少し離れた場所からリナを見ていた。目が合うと、何も言わずに頷く。リナも小さく頷き返した。
帰り際、エルクが黙って袋を一つ差し出した。
「これ、婆ちゃんから」
中には乾燥薬草が少し入っていた。
「……いいのか」
「余りだ」
エルクはそれだけ言って背を向ける。
でも、その背中はどこかローグへ返しきれないものを抱えているように見えた。
リナは袋を抱えたまま、小さく頭を下げる。
「……ありがとう」
エルクは振り返らなかった。ただ片手を軽く上げて、そのまま雪の向こうへ消えていった。
アルノはその背中を見送る。
聞きたい事はあった。
ローグのこと。あの日のこと。
でも、まだ聞けなかった。
雪の上に残った足跡だけが、しばらく白い道へ続いていた。




