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腐敗は神罰ではありません 〜保存と冬支度から始める、寒村の生活改善〜  作者: 高山 墨人
第一章 ラーデ村の冬越し

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第9話 持ち寄りの日

巡灯がラーデ村へやって来た。


灰色の外套。雪を被った荷ソリ。灯院の印。ソリを引く男の肩には、凍った息が白くまとわりついている。


村人達は、少しずつ荷を持って集まってくる。


炭。燻製。木材。毛皮。干し茸。縄で縛った薪。


この国では、皆が持ち寄らなければ冬を越せない。


「今年は炭少ないな」


巡灯の男が言う。


「雪が早かったからな」


ガルドが答えた。


皆、淡々としている。でも、その空気の奥には緊張があった。炭が少ないということは、どこかで火が細くなるということだ。


アルノ家の袋は小さい。


ローグが居なくなってから、森仕事が減ったのだ。


リナは小さな袋を抱えていた。両手で抱えられるくらいの袋。中身は干し茸と毛皮が一枚だけ。


列が近づくにつれ、リナの指が袋の口を強く握る。布が皺になる。


「大丈夫だ」


アルノが小さく言う。


「……うん」


リナは頷いたが、顔は少し硬い。


巡灯は責めなかった。


「ローグの家。干し茸一袋。毛皮一枚」


静かに記録を付ける。


リナは少しだけ肩の力を抜いた。周囲の村人も何も言わない。この国では、誰もが冬の重さを知っている。だから簡単に責めたりはしない。


ミレナが少し離れた場所からリナを見ていた。目が合うと、何も言わずに頷く。リナも小さく頷き返した。


帰り際、エルクが黙って袋を一つ差し出した。


「これ、婆ちゃんから」


中には乾燥薬草が少し入っていた。


「……いいのか」


「余りだ」


エルクはそれだけ言って背を向ける。


でも、その背中はどこかローグへ返しきれないものを抱えているように見えた。


リナは袋を抱えたまま、小さく頭を下げる。


「……ありがとう」


エルクは振り返らなかった。ただ片手を軽く上げて、そのまま雪の向こうへ消えていった。


アルノはその背中を見送る。


聞きたい事はあった。


ローグのこと。あの日のこと。


でも、まだ聞けなかった。


雪の上に残った足跡だけが、しばらく白い道へ続いていた。


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