第77話 水蔵からの返事
グランツ大灯院から、フィアナあてに返事が届いた。
薄い封に入っていたのは、ミレヴァールの水蔵に関する写しだった。
フィアナは灯院の机にそれを広げた。
「水蔵ってなんだ?」
カインが聞く。
「水辺の荷を一時的に置く蔵です、魚、濡れた布、舟で運ばれた壺、乾かす前の薬草などを扱うようです」
「濡れたものを置く蔵か、大変そうだな」
「はい、だから、湿りに関する記録が多いです」
アルノは身を乗り出した。
湿りの多い国。
そこには、ラーデ村とは違う困りごとがあるはずだった。
フィアナは一行を読み上げる。
「青き石を床に置くな、水を呼びすぎる、魚箱の下に風を通せ、香草は入口、塩は奥、灯りが白く曇る時は、荷を入れすぎるな」
「灯りが白く曇る」
アルノは繰り返した。
ベルクレインの記録には、灯りが濁るとあった。ミレヴァールでは白く曇ると言うらしい。
言葉は違う。
でも、見ているものは近いのかもしれない。
バルナ婆さんが紙をのぞき込む。
「香草は入口、塩は奥、分かってるじゃないか」
「ルーメリアの香草も、入口に吊るした方がよかったです」
アルノが言うと、フィアナはうなずいた。
「国が違っても、似た手順があるのですね」
リナは少し難しそうな顔をした。
「ミレヴァールの人も、悪くならないように頑張ってるの?」
「たぶん」
アルノは答えた。
「水が多いなら、もっと大変かもしれない」
フィアナは手紙の最後を読んだ。
「ミレヴァール側では、冬の火入れの記録が少ないそうです、湿りを逃がすことは知っていても、寒い時期の火の扱いはベルクレインほど細かくない、と」
ダレスが腕を組む。
「向こうには向こうの足りないものがあるってことか」
「はい」
フィアナは静かに返事をした。
アルノは、机に広げられた写しを見た。
ベルクレインには冬の記録がある。
ミレヴァールには水蔵の記録がある。
ルーメリアには香草の知恵がある。
どれか一つだけでは足りない。
けれど、合わせれば、今まで守れなかったものを守れるかもしれない。
灯院の小さな机の上で、遠い国の蔵が少しだけ近くなった。




