第71話 木枠の牙
オルドが作った木枠は、思ったより小さかった。
白き牙をそのまま吊るすのではなく、欠けた部分から取った小さな欠片を、薄い木の板で挟む。外からは触れないようにし、下には布を入れる隙間を作る。吊るす紐は牙に直接かけず、木枠につけた金具に通す。
アルノは作業台の端に立ち、その形をじっと見ていた。
「これなら割れにくいですか?」
「割れないとは言ってねえ」
オルドは短く答えた。
「ただ、牙に穴を開けるよりはましだ、紐で締めるよりもましだ、火に近づけすぎなきゃ、少しは持つ」
「少し」
「道具ってのは、だいたい少しだ」
その言い方が、アルノには妙にしっくり来た。
少し乾く。少し長く持つ。少し見落としが減る。少し腹を空かせる日が減る。
村を変えてきたのは、いつもその少しだった。
フィアナは作業台の横で、木枠の形を帳面に写していた。
「牙には触れない、木枠を吊るす、火に近づけすぎない、濡れた手で扱わない、食べ物の上に置かない」
「最後のは大事だ」
オルドが言った。
「削り粉が落ちるかもしれん、何か分かるまでは、食い物から離せ」
リナは両手を後ろに回して、木枠を見ていた。
「リナ、触ってないよ」
「偉い」
アルノが言うと、リナは少し得意そうに胸を張った。
カインは木枠の下をのぞき込む。
「これ、共同棚に吊るすのか?」
「まだ吊るさない」
「また試すのか」
「うん、湿った布と、空の木箱で」
すぐに保存食の近くで使いたい気持ちはあった。
けれど、分からないものを急に食べ物のそばへ置くのは怖い。良いものでも、使い方を間違えれば悪く働くかもしれない。
フィアナが顔を上げた。
「神具として残されていたものを、試しながら使うのは、少し怖いですね」
「怖いです」
アルノは正直に答えた。
「でも、分からないまましまっておくのも怖いです」
フィアナは帳面の上に手を置いた。
「はい、灯院も、怖がってしまい込みすぎたのかもしれません」
木枠の中の小さな牙は、何も言わずに白く沈んでいた。
それは奇跡の道具ではなかった。
でも、冬の棚を守るための、最初の形には見えた。




