第68話 灯守という人たち
灯守の話を聞くために、ガルドは灯院へ昔の知り合いを呼んだ。
来たのは、片足を少し引きずる中年の男だった。
名をダレスという。
灰色の外套は古く、裾には何度も縫い直した跡がある。腰には短い鉈と、火打ち道具、小さな灯入れを下げていた。
「灯守だったのは昔の話だ」
ダレスはそう言って、椅子に腰を下ろした。
カインは目を輝かせた。
「魔獣と戦ったことある?」
「逃げたことなら何度もある」
「倒してないのかよ」
「倒す前に帰れるなら、その方がいい」
ダレスの声は淡々としていた。
アルノは、その言葉に少し安心した。
強さを誇る人ではない。
生きて帰ることを知っている人だ。
フィアナが白き牙の写しを見せると、ダレスは目を細めた。
「凍牙猪だな」
「やはり」
「ただし、今のラーデ村の近くに出るかは分からん。昔は北の湿った谷にいた。橋を壊す厄介なやつだ」
「牙は湿りを取るんですか?」
アルノが聞くと、ダレスは少し考えた。
「取る、というより寄せる。濡れた布のそばに置くと、布の乾きが早いことがある。ただ、牙の方が重くなる。放っておくと割れる」
「乾かせばまた使えますか?」
「火に近づけすぎると割れる。弱い熱でゆっくり戻す」
古い記録と同じだった。
火に寄せるな。割れた牙は土へ返す。
それは神具の扱いではなく、素材の扱い方でもあった。
ダレスは続けた。
「だが、牙を取るために凍牙猪を追うのはやめろ。あれは人の都合で追える相手じゃない」
ガルドがうなずく。
「分かってる」
「分かってねえ顔の子供が二人いる」
ダレスがカインとリナを見る。
カインは口を閉じ、リナは慌ててアルノの後ろに隠れた。
「リナ行かない」
「俺も行かねえよ」
「今、ちょっと行きたそうだった」
「言うなよ」
ダレスは小さく笑った。
「灯守は魔獣を倒す者じゃない。灯りが消えそうな場所を見る者だ。橋、道、倉、森の入口。魔獣の跡があれば知らせる。行ってはいけない場所を決める。それも仕事だ」
アルノはその言葉を聞き逃さなかった。
倒すことではなく、近づかないこと。
それは保存と似ていた。
悪くなってから戻すのではなく、悪くなる前に離す。
フィアナは帳面に、丁寧に書いた。
「灯守は、灯りが届かない場所を見る者」
ダレスは少し照れたように顔をそらした。
「大げさに書くな」
「大事なことです」
フィアナの声は、はっきりしていた。




