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腐敗は神罰ではありません 〜保存と冬支度から始める、寒村の生活改善〜  作者: 高山 墨人
蔵守りと冬の帳面

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第65話 人の手だけでは

夏に近づくにつれて、村の仕事は増えた。


畑を見る。水を運ぶ。薬草を干す。山羊乳を分ける。壺を洗う。棚を拭く。道の泥をならす。


どれも大事だった。


けれど、大事なことが増えれば増えるほど、手が足りなくなる。


リナは朝から何度もあくびをした。


「眠い?」


「眠くない」


そう言いながら、またあくびをする。


アルノは手を止めた。


「今日は薬草を減らそう」


「だめ。昨日干したの、返さなきゃ」


「でも疲れてる」


「リナ、できる」


リナはそう言ったが、指先の動きは遅かった。


アルノは少し迷ってから、薬草の束を半分に分けた。


「こっちは午後でいい」


「でも」


「悪くなりそうなものから先にする」


リナは口を閉じた。


そこへ、カインが走ってきた。


「アルノ、ガルドが呼んでる。棚のことで」


行ってみると、ガルドは村の共同棚の前にいた。


持ち寄り前の仮置き場として使っている場所だ。家ごとの棚より大きい分、奥も深い。


表側は乾いている。


けれど奥の下板に、うっすらと湿りがあった。


「またですか」


「ああ」


ガルドは短く答えた。


「溝も掘った。板も上げた。火も入れた。それでも雨が続くと奥が冷える」


アルノは棚の中を見た。


風を通す隙間はある。壺も床には直接置いていない。布も替えた。


それでも足りない。


人の手でできることは、かなりやった。


けれど、村の道具と人手だけでは限界があるのかもしれない。


フィアナが遅れてやってきた。


彼女は棚の奥を見て、古い帳面を抱きしめるように持った。


「似た記述があります」


「何がですか?」


「蔵の奥の湿りが離れぬ時、白き牙を吊るす、と」


ガルドが眉をひそめた。


「白き牙?」


「詳しくは分かりません。神具として写されています。でも、何度か出てきます」


アルノは棚の奥を見つめた。


白き牙。


湿りが離れない時に吊るすもの。


それは祈りの道具なのか。


それとも、湿りを取る何かなのか。


「それ、今もありますか?」


フィアナはすぐには答えなかった。


「灯院の祭具庫に、欠けたものならあるかもしれません。ただ、使い方は残っていません」


ガルドは低く息を吐いた。


「また古いもんか」


アルノは、湿った棚の奥から手を離した。


自分たちだけでは足りない。


けれど、昔の記録には、足りない時に使ったものが残っているかもしれない。


そう思うと、胸の奥が少し熱くなった。


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