第49話 春の持ち寄り
春の持ち寄りは、冬前より小さかった。
村の中央に集まった荷も少ない。炭や燻製ではなく、修理した道具、春に採れた薬草、山羊の毛、泥で傷んだ縄、余った種が並んでいる。
どれも立派な物ではない。
けれど、今必要な物だった。
巡灯の男は一つずつ確認していく。
「バルナの家、棘草、春草、乾き良し」
「当たり前だよ」
婆さんが鼻を鳴らす。
「下段を上げた棚の具合は?」
「前よりましだね、一段だけだから、まだ大きくは言わないよ」
「記録します」
婆さんは嫌そうにしていたが、止めはしなかった。
ガルドの家からは、伸ばした釘と端板が出された。レヴァンで買った曲がり釘のうち、短くて村用に回せる分らしい。
「短い釘でも使えるんだね」
リナが言う。
ガルドは頷いた。
「短い場所にはな」
何でも大きければ良いわけではない。
アルノ家から出せる物は、まだ少なかった。
乾かした薬草の小袋。棘草を手伝った分として婆さんが分けてくれた端の草。それから、小かぶの種をほんの少しだけ。
リナは袋を大事そうに差し出した。
「少しです」
巡灯は静かに頷く。
「少しでも、残したなら記録します」
「残したって書くの?」
「はい、次へ回した分です」
その言い方が良かったのか、リナは少し誇らしそうにした。
食べなかった分、ではない。
次へ回した分。
同じことでも、言葉が違うだけで気持ちが変わる。
分配も少しあった。
灰色がかった粗塩はほんのわずか。短い針金が数本。古布が少し。それでも村人たちは真剣に受け取る。
リナは古布を一枚もらい、すぐに壺へ使えるか考えている顔をした。
「蜜の器には使わないぞ」
アルノが言うと、リナは真顔で返した。
「蜜は別」
「分かってる」
カインが笑う。
「リナの蜜だけ扱い違うよな」
「宝物だから」
春の持ち寄りは、静かに終わった。
大きな荷はない。
でも、小さいものを次へ回せる家は、少しだけ強くなる。
アルノは記録板に書かれる文字を見ながら、そう思った。
春の持ち寄りでは、誰も大きな声で喜ばなかった。
けれど、短い針金を受け取った家の女がほっと息を吐き、古布をもらった老人が何度も布の厚みを確かめていた。小さい物でも、欲しい家には大事な物だ。
リナは古布を胸に抱えたまま、アルノへ小声で言う。
「これ、壺に使う?」
「一度洗って乾かしてからな」
「また乾かす」
「また乾かす」
二人で同じ言葉を繰り返し、少し笑った。
カインがその横で短い釘を見ている。
「これ、俺でも伸ばせるかな」
「曲げるだけならできるんじゃないか」
「伸ばすんだよ」
「じゃあガルドさんに聞け」
カインは不満そうだったが、釘を大事に袋へ戻した。
春の小さな荷は、誰かの手でまた別の形になる。古布は壺の布に、短い釘は棚に、種は畑に、薬草はレヴァンの棚に。
持ち寄りは、物を渡して終わりではない。次に使える場所へ動かすことなのだと思った。




