第48話 橋を渡る荷
橋が直ると、最初に渡ったのはエルクだった。
薬草籠を背負い、足元を確かめながら一歩ずつ進む。橋は少ししなったが、沈まなかった。
沢の水はまだ多い。茶色は薄くなったが、流れの音は強い。
リナは橋の手前で足を止めた。
「怖い?」
アルノが聞くと、リナは少しだけ頷いた。
「水、速い」
「手、出せ」
リナは手ではなく、アルノの袖を掴んだ。
二人で橋を渡る。
板の下で水が鳴る。リナの指が袖を強く握った。途中で一度、板がきしんだ。
「大丈夫だ」
「分かってる」
声は分かっていないようだった。
渡り終えると、リナは小さく息を吐いた。
「渡れた」
「見れば分かる」
「そういうことじゃない」
リナは少し怒った顔をして、それから安心したように笑った。
ガルドは橋の横で板の音を聞いていた。足で踏み、少し体重を掛け、釘の具合を見る。
「しばらくは持つ」
「ずっとは?」
カインが聞く。
「ずっとは持たん」
「だよなぁ」
カインはもう慣れたように笑った。
エルクは向こう岸から言った。
「前より音がいい」
ガルドが短く頷く。
それは、褒められているのだと少ししてから分かった。
この橋は小さい。
だが、使えないとレヴァンへの道が遠くなる。薬草も、針金も、種も、記録も、少しずつ遅れる。
人だけが渡るわけではない。
冬を越すための物が、この板の上を行き来する。
帰り道、リナは何度も橋を振り返った。
「これでレヴァン近い?」
「近くなったんじゃない、戻っただけだ」
「戻るのも大事だよ」
その言葉に、アルノは少し黙った。
確かにそうだ。
何かを良くするだけが大事なのではない。
壊れたものを戻すことも、生きるためには必要だ。
春は、進む季節であり、冬に傷んだものを直す季節でもあった。
その後、村長の家から古い縄が運ばれてきた。春の持ち寄りでレヴァンへ渡す分だ。ガルドは荷を背負った男を一人ずつ通し、橋の上で立ち止まらないよう声を掛ける。
「真ん中で止まるな」
「分かってる」
「分かってる奴ほど止まる」
カインが横で笑う。
「親父、橋相手だといつもより口多いな」
「橋が落ちたら喋る暇がなくなる」
冗談ではない声だった。
アルノは橋の支えを見る。新しい板は少ない。ほとんどは前からある木だ。傷んだ場所を直し、力の掛かる向きを変え、詰まった枝をどけただけ。
それでも、荷は渡れる。
完全に作り直さなくても、持たせることはできる。
それは家の棚や壺と同じだった。
全部を新しくできないなら、今あるものを少し直して使う。ベルクレインの春は、そういう手で進んでいく。




