第44話 針金の輪
ガルドは曲がった針金をまっすぐにしていた。
作業小屋の台に針金を置き、小さな槌で少しずつ叩く。強く打ちすぎると折れる。弱いと曲がりが戻る。
見ているだけなら簡単そうだった。
実際にアルノがやると、すぐ曲がった。
「力を入れすぎだ」
ガルドが言う。
「入れないと曲がらないです」
「入れ方が違う」
説明は短い。
カインが横で笑う。
「アルノ、不器用だな」
「お前もやれ」
「俺は見て覚える派」
「逃げるな」
結局カインもやって、同じように曲げた。
リナはその様子を見て、少し得意そうにしている。
「二人とも下手」
「言うなぁ」
アルノとカインの声が重なった。
作っているのは、壺に布を掛けるための輪だった。春市で手に入れた短い針金を曲げ、布の上から押さえる。木の蓋ほど立派ではないが、虫や埃は入りにくくなる。
「これ、水桶にも使える?」
アルノが聞くと、ガルドは首を振った。
「水には向かん、錆びる」
「乾いた物だけか」
「そうだ、道具は場所を間違えると先に悪くなる」
それも保存の話だった。
便利そうに見える物でも、使う場所が違えばかえって駄目になる。
ガルドは針金の端を内側へ折り込んだ。
「切った端を外へ出すな、布も手も裂く」
リナが真剣に覗き込む。
「手も?」
「切れる」
「じゃあちゃんと内側」
リナは慎重に輪を持ち、乾いた壺へ布を掛けた。
少し緩い。
「落ちる」
「最初はそうなる」
ガルドが輪を少し締める。今度は布が落ちなかった。
リナは満足そうに頷く。
「加護、逃げにくそう」
「加護は分からんが、虫は入りにくい」
ガルドが言う。
それで十分だった。
壺に布を掛け、針金の輪で押さえる。
小さな工夫だ。だが、それだけで中の種や薬草は少し守られる。
アルノは歪んだ輪を見た。
完璧ではない。
でも、この家には完璧な道具より、今使える物が必要なのだ。
輪が一つできると、リナはすぐに別の布も持ってきた。
「蜜の器にも?」
アルノが聞くと、リナは真剣に首を振った。
「蜜はいつもの布でいい、匂い変わったら嫌だから」
「こだわるな」
「宝物だから」
カインがまた笑う。
けれど、リナの言うことも少し分かった。何でも同じ布で包めばいいわけではない。薬草の匂いが付いた布で蜜を包めば、蜜まで薬草の匂いになるかもしれない。
ガルドも短く言った。
「入れる物で布を分けろ」
「布、足りないです」
「だから全部はできん」
また全部は無理だった。
アルノは輪を二つだけ作ることにした。一つは種の壺。もう一つは乾いた薬草用。蜜はリナの言う通り、今までの布のままにする。
便利に見える工夫も、増やしすぎると管理できない。それも少しずつ覚えていくしかなかった。




