第41話 レヴァンの春市
レヴァンの春市は、冬の持ち寄りの日とは匂いが違った。
雪はまだ道端に残っている。泥も多い。けれど灯院街の広場には、周りの村から来た人たちが小さな荷を並べていた。
曲がった釘。古い布。短い針金。種の袋。欠けた壺。取っ手を直した桶。山羊の毛をまとめた袋。
豊かな市ではない。
でも、冬の間じっと家の奥に置かれていた物が、春になって少しずつ外へ出てきたような賑わいがあった。
「王都の市場とは全然違うな」
アルノが言うと、エルクが頷いた。
「春市は、直すための市だ」
「直すため?」
「冬で壊れた物を直す、足りない物を探す、余った物を少し替える」
食べるためだけではない。
次に動くための市なのだ。
カインはすぐに釘の袋を覗き込んだ。
「これ、安い?」
店番の男が笑う。
「曲がってるからな、まっすぐな釘よりは安い」
「曲がってるのに使えるの?」
リナが聞く。
ガルドは釘を一本手に取り、曲がりを見た。
「伸ばせば使える、短い場所ならな」
アルノはその横で、小さな壺を見つけた。
口の端が少し欠けている。中は空で、底に土の色が残っている。綺麗ではない。けれど、薬草や種を入れるには使えそうだった。
「欠けてるのに高いんだな」
思わず呟くと、店番の女が肩をすくめた。
「欠けてても壺は壺だよ、春はみんな入れ物を探すからね」
入れ物は貴重なのだ。
冬の間に割れた器は戻らない。新しい壺を作るには手間がかかる。なら、少し欠けていても使える物には値が付く。
リナは種を売る台の前で足を止めた。
「これ、何?」
「小かぶの種だよ」
老婆が答える。
「畑の端でも育つ、大きくはならないが、葉も食べられる」
「葉も?」
リナの目が少し輝いた。
アルノはその顔を見る。
余裕はない。けれど、畑の端で育つなら試す価値はある。
エルクが何も言わず、薬草の小袋を出した。老婆と短く話す。やがて、小さな種袋がリナの手へ渡った。
「ありがとう」
リナは両手で包むように受け取った。
エルクは頷くだけだった。
春市は派手ではない。
曲がった釘。欠けた壺。小さな種袋。
どれも大きな物ではない。
でも、次の季節を少し動かすには、こういう物が要るのだと思った。
広場の端では、割れた桶を直している男もいた。木の板を締め直し、隙間へ布を噛ませ、針金で押さえている。
「新しい桶じゃないんだ」
リナが言う。
「新しい桶を買える家ばかりじゃないからね」
店番の女はそう答えた。
アルノは桶の内側を見た。完全には綺麗にならない傷がある。それでも水を少し運ぶには使える。春の市は、綺麗な物を買う場所ではなく、もう一度使える物を探す場所なのだ。
「うちの水桶も、底を見直した方がいいな」
「また見るの?」
リナが呆れた声を出す。
「春は見るものが多い」
「アルノ兄は年中見てるよ」
その言い方があまりに自然で、エルクが少しだけ笑った。




