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腐敗は神罰ではありません 〜保存と冬支度から始める、寒村の生活改善〜  作者: 高山 墨人
第一章 ラーデ村の冬越し

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第4話 灯の匂い

バルナ婆さんの小屋は、外から見るより暖かかった。


壁際には薬草棚。天井から吊られた草束。中央には小さな炉。火は大きくないのに、部屋の空気は柔らかい。


煙と薬草の匂いが混ざっている。


良い匂いかと聞かれると困る。でも、不思議と落ち着く匂いだった。


「座んな」


婆さんが木椅子を足で押す。


エルクは濡れた外套を外し、薪を足した。火がぱちりと鳴る。細い煙が天井へ昇っていく。


「レヴァン灯院は、生きるための場所だ」


エルクがぽつりと言った。


「灯院?」


「記録したり、持ち寄りをまとめたりな」


「祈るだけじゃないんだ」


「祈るだけで冬越せたら楽だろうな」


エルクが少し笑う。


婆さんも鼻を鳴らした。


「結局、積んで、乾かして、残さなきゃ人は死ぬんだよ」


言い方は荒いが、声は静かだった。


アルノは炉を見る。


火は小さい。けれど、小屋の中に居る全員がその火の場所を自然に意識している。足先を向ける。濡れた袖を近づける。薬草を火から遠ざける。


この国では、灯りはただ明るいだけのものではないのだろう。


「レヴァンは近いのか」


「歩けば半日」


「半日……」


「ベルクレインじゃ近い方だ」


エルクは当たり前のように言った。


村の外に半日歩いた場所があり、そこからさらに王都グランツへ荷が運ばれていく。アルノにはまだ、その距離感が掴めない。


外から足音がした。


「アルノ兄!」


リナが小屋へ入ってきた。頬を赤くし、手には小さな布袋を抱えている。


「ミレナさんが、あとで寄りなさいって」


「なんで」


「知らない。たぶん食べ物」


リナの声が少しだけ明るい。


バルナ婆さんが笑う。


「ミレナは放っておけないからね」


セラが亡くなり、ローグも戻らず、アルノ家は村に支えられている。


その事実は、温かくもあり、少し苦しくもあった。


「リナ、寒かったろ」


エルクが小さな椀へ湯を注いで差し出す。


「ありがと、エルク兄」


リナは両手で受け取った。


エルクは何も言わない。ただ炉の火を見ている。


その沈黙が、妙に優しかった。


リナは湯を少しずつ飲みながら、炉の火を見ていた。


「灯院って、あったかいの?」


「場所による」


エルクが答える。


「でもレヴァンは火を絶やさない。旅人も荷運びも、あそこで息をつく」


「じゃあ、村よりすごいね」


「すごいというか、必要なんだよ」


必要。


その言葉が、アルノには引っかかった。


この国では、立派だから残っているのではない。必要だから残っている。灯院も、倉庫も、道も、火も。


冬がすべてを選んでいるようだった。


バルナ婆さんは薬草をかき混ぜながら言った。


「灯院はね、誰かが生きたことを忘れない場所でもある」


「忘れない?」


「生まれた子、死んだ者、越えた冬。そういうのを残すんだよ」


ローグの名も、どこかに残っているのだろうか。


アルノは炉の火から目を離せなかった。


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