第24話 レヴァンの倉庫
レヴァン灯院の倉庫は、前に来た時よりも忙しそうだった。
外には荷ソリが二つ。濡れた縄。雪を払われた木箱。入口近くには炭袋が積まれている。人が出入りするたび、冷たい空気と一緒に、燻製肉と薬草の匂いが流れ出した。
「今日、多いな」
アルノが呟くと、エルクが頷いた。
「北の道が怪しいらしい。閉じる前に入れてる」
倉庫番の男が、奥で声を張っていた。
「粗塩は壁際に置くな! 固まるぞ!」
その言葉に、アルノは少しだけ反応した。
灰色がかった粗塩の袋が、床板の上に並んでいる。白い塩ではない。粒は不揃いで、袋の口から見える表面は少し湿って固まりかけていた。
塩でさえ、湿気には勝てないのだ。
エルクは籠を下ろし、小袋を倉庫番へ渡した。
「霜根草。婆ちゃんから」
「助かる。こっちの棚だ」
倉庫番は中を確認し、少しだけ表情を緩めた。
「今年は熱が多い。これがないと夜が怖いんだ」
薬草倉庫へ入ると、空気はさらに重かった。
乾いた草の匂い。湿った木の匂い。少しだけ黒くなった葉の匂い。棚には草束が並んでいるが、奥の方は風が通っていない。
アルノは思わず眉をひそめた。
「ここ、前より湿ってないか」
「雪続きだからな」
倉庫番は肩をすくめる。
「こっちも分かっちゃいるんだ。けど、置き場が足りん」
正しいやり方を知らないわけではない。
場所がない。人手がない。時間がない。だから、分かっていてもできない。
アルノは棚の間を歩く。草束が詰まりすぎている場所があった。下の棚は暗く、触ると少し柔らかい。
「これ、下だけ悪くなりやすい?」
「なる。下は加護が離れやすい」
倉庫番が当然みたいに言う。
「上は?」
「上は乾きやすい。けど落ちる」
「間を空けたら」
「置ける量が減る」
アルノは黙った。
全部、どこかで繋がっている。保存を良くすると、量が減る。量を優先すると、見放される物が増える。どちらを取るかは簡単ではない。
エルクが横から小声で言う。
「変な顔してるぞ」
「気になるだけだ」
「最近そればっかだな」
倉庫番が笑った。
「気にしてくれる奴がいるだけましだ。こっちは見放されてから数える事が多い」
その言い方が、妙に引っかかった。
見放されてから数える。
悪くなってから、捨てる数を数える。足りなくなってから、足りない分を記録する。
アルノは棚を見る。
「見放される前に数えられないのか」
倉庫番は少し驚いた顔をした。
「変なこと言うな」
「よく言われる」
「だが……まあ、分からなくはない」
男は草束を一つ持ち上げ、少しだけ間を空けた。
「今日はここだけやってみる。全部は無理だ」
「はい」
「全部やろうとする奴は、冬前に倒れる」
その言葉は冗談のようで、冗談ではなかった。
アルノは小さく頷いた。
全部は無理だ。でも、一棚だけならできる。
この国で何かを変えるなら、たぶんそこから始めるしかない。
エルクはその様子を黙って見ていた。口を出さない。ただ、アルノが草束を見る時だけ、少しだけ歩く速度を落とす。急かさないのが、エルクなりの面倒見なのだろう。




