第20話 失敗した棚
翌朝、干し草は落ちていた。
床の上に、どさりと広がっている。
朝の空気は、いつもより少し重かった。
落ちた干し草から、湿った匂いがする。床に触れていた部分は冷たく、指先に水気が残った。
アルノは黙ってそれを見る。
リナも見る。
カインも見る。
「落ちたな」
カインが言った。
「見れば分かる」
「だから言ったじゃん」
リナが少し得意そうに言う。
「落ちないようにするって」
「……したつもりだった」
縄が一本ほどけていた。結び目が甘かったのだ。
干し草は思ったより重くなっている。夜の間に湿気を吸ったらしい。触ると、昨日より冷たい。
リナは困った顔で、干し草を一束ずつ拾い上げる。
「せっかく吊るしたのに」
「悪い」
「アルノ兄だけが悪いんじゃないよ」
リナはそう言ったが、少し残念そうだった。
カインは縄を拾って、結び目を見ている。
「これ、ほどける結び方だな」
「分かるのか」
「親父にほどけるって怒られるやつ」
「先に言えよ」
「見てなかった」
カインは悪びれずに言う。
そこへガルドが来て、落ちた干し草を一目見るなり鼻を鳴らした。
「軽い物だと思って甘く見たな」
「はい」
「乾いてる時じゃなく、湿った時で考えろ」
その言葉は、昨日の雪囲いと同じだった。
乾いた時ではなく、湿った時。うまくいっている時ではなく、駄目になりかけた時。
ベルクレインでは、そう考えないと持たないのだ。
ガルドは縄を三本へ増やし、重さを分けて結び直した。カインは今度こそ真面目に見ている。リナも干し草を小さく分けて渡した。
「欲張ると落ちる」
ガルドが言う。
「アルノ兄みたい」
リナが小さく言った。
「言うなぁ」
カインが吹き出す。
アルノも少し笑った。
失敗は恥ずかしい。けれど、誰も怒鳴らなかった。ガルドは直し方を教え、カインは縄を結び、リナは干し草を運ぶ。
この村では、失敗しても直せるうちは終わりではないのだろう。
干し草は今度こそ、三か所に分けて吊るされた。
床にはまだ少し湿りが残っている。アルノはそれを布で拭いた。
「次は落ちないかな」
リナが見上げる。
「たぶん」
「たぶん?」
「今度は前より持つ」
ガルドが短く言った。
その一言で、リナは安心したように笑った。
アルノは吊るされた干し草を見上げる。
失敗した分だけ、少しだけ分かった。
たぶん、こういうことを何度も繰り返して、この村は冬を越してきたのだ。




