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腐敗は神罰ではありません 〜保存と冬支度から始める、寒村の生活改善〜  作者: 高山 墨人
第一章 ラーデ村の冬越し

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第2話 カインの家

翌朝。


熱は少し下がっていた。


外へ出ると、雪混じりの風が頬を撫でる。村道は踏み固められた雪と泥でぐしゃぐしゃだった。雪の白さの下に、黒い土がにじんでいる。


「アルノ!」


振り向くと、カインが走ってきた。


泥だらけの靴。跳ねた髪。寒そうなのに妙に元気だ。走るたびに、外套の裾から雪が飛んでいる。


「起きたんだな!」


「まあな」


「三日寝てたぞ」


「そんなにか」


カインは笑いながら肩を叩いてくる。力が強い。


「リナ、すげぇ心配してた」


胸の奥が少し痛んだ。


「……悪いことしたな」


「お前、起きてからなんか変だよな」


「変?」


「前より難しい顔する」


カインは顔をしかめる真似をした。あまり似ていない。


「そんな顔してない」


「してるって。さっきも家の壁見てた」


「湿ってたから」


「ほら、そういうとこ」


カインは笑う。からかっているのに嫌味がない。幼馴染というのは、こういう距離なのかもしれない。


カインはそのまま歩き出した。


「親父が呼んでる」


「ガルドさんが?」


「おう。立てるなら板運べって」


「病み上がりなんだけど」


「立てるんだろ?」


「……言うなぁ」


カインは満足そうに笑った。


カインの家は、村の木工や修繕を担っている。雪囲い。荷車。屋根修理。ラーデ村の家々の多くに、ガルドの手が入っていた。


家へ着くと、木の匂いがした。


削った板。乾いた木屑。炉の煙。湿ったアルノの家とは、少し空気が違う。


「来たか」


ガルドは板を削りながら顔を上げた。大きな手が、木の表面を撫でる。節を避け、反りを見て、削る場所を決めている。


「立てるなら手伝え」


「……はい」


短いやり取りだった。


でも嫌な感じはしない。


ガルドの仕事は静かだった。黙々と板を削り、釘を打ち、木を組む。無駄が無い。木屑が足元へ落ちても、踏む場所には散らばらない。


「今年は雪重いからな」


ガルドが空を見る。


「また屋根割れる家出るぞ」


「毎年あるんですか」


「ある」


当然みたいに返ってくる。


この国では、壊れる前提で皆生きているらしい。


ガルドは板を二枚並べ、少し隙間を空けた。


「ぴったりじゃないんですね」


「こっちの方が加護が寄る」


アルノは一瞬、意味が分からず黙った。


「……加護?」


「詰めすぎると離れる。木も息が詰まる」


カインが横から口を出す。


「親父の言うことは半分感覚だからな」


「感覚じゃねぇ。こうした方が持つ」


ガルドは短く言った。


アルノは板の隙間を見る。


風が通るからだろうか。湿りにくいからかもしれない。


でも、ガルドはそう説明しない。


加護が寄る。


この村の人間は、そう言うのだ。


理由は違っても、見ているものは同じなのかもしれない。


「アルノ、手止まってる」


カインが肘でつつく。


「分かってる」


「絶対分かってなかった」


「うるさい」


カインが笑う。


その笑い声の横で、ガルドは黙って板を削り続けていた。


しばらくして、奥からミレナが顔を出した。


「あら、アルノ。顔色はまだ悪いね」


「大丈夫です」


「大丈夫って顔じゃないよ。帰る時、これを持っていきな」


そう言って、ミレナは布に包んだ黒麦パンの端を机へ置いた。


カインがすぐ手を伸ばそうとして、軽く叩かれる。


「あんたのじゃない」


「分かってるって」


そのやり取りが、妙に普通で、少しだけ胸が緩んだ。


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