第98話 雪閉じ前の持ち寄り
雪が深くなる前、最後の大きな持ち寄りが行われた。
木材、炭、燻した肉、干し茸、薬草、毛皮。ラーデ村から出すものが灯院の前に並ぶ。
受け取るものは、粗塩、穀物、針金、油、壺の蓋、布。
どれも多くはない。
けれど、今年は一つ一つに札がついていた。
湿りに弱いもの。
火に近づけないもの。
先に使うもの。
奥に置かないもの。
ミレナは札を見て笑った。
「こうしておくと、誰が見ても分かるね」
「リナも分かる」
リナは胸を張る。
「壺は壺。火はだめ。子供の手もだめ」
「子供の手は自分のことだぞ」
カインが言うと、リナはむっとした。
「分かってるもん」
隣村から来た男は、蔵守りの紙を受け取っていた。
「うちでもやってみた。火入れで一つ、湿った布を見つけた。危なかった」
ガルドがうなずく。
「見つけたならよかった」
「ああ。見つけるのも守るうちだな」
フィアナはその言葉も帳面に書いた。
見つけるのも守るうち。
アルノは、その言葉が気に入った。
昼過ぎ、グランツ大灯院からの小さな返事も届いた。
ミレヴァールの水蔵係が、ベルクレインの蔵守りの舞に興味を持っていること。
水蔵では、壺を動かす順番を歌で覚えること。
青き石の欠片は、冬明けの道が開いてから送ること。
そして、可能なら春に、ベルクレイン側の記録を持つ者に来てほしいこと。
カインは目を丸くした。
「来てほしいって、誰を?」
フィアナは少し困ったように笑った。
「まだ決まっていません。ただ、記録を分かる者と、蔵守りを見た者が望ましいと」
リナはすぐにアルノを見た。
「アルノ兄、行くの?」
「まだ分からない」
そう答えたが、胸の奥は少しざわついた。
ラーデ村の外。
水の多い国。
魚をしまう水蔵。
青き石。
知らないものばかりだった。
けれど、それはもう、ただ遠いだけのものではなかった。
こちらから送った紙が、向こうで読まれている。
向こうの返事が、こちらの灯院に挟まれている。
持ち寄りは物だけではない。
知恵も、少しずつ雪の前に集まり始めていた。
持ち寄りの終わりに、ガルドは橋の方角を見た。
「今年は、道が切れなかった」
ダレスがうなずく。
「切れかけた。だが、戻した」
その違いは大きい。
最初から安全だったわけではない。何も起きなかったわけでもない。
危ないと分かった時に、止めて、見て、直した。
それが今年の村だった。
アルノは粗塩の袋に触れた。
少しざらついた灰色の塩が、遠い道を越えてここにある。




