久し振りなデートの二人
兄ミノルが楽しんでいる頃一方同じように出かけた両親は・・・・・・という何をしているのかの話しになります。
兄のミノルがイベント会場の熱気の中で自らも推しへのエールを届けようと声を張り上げて、イベントを盛り上げつつ青春の一ページを謳歌している間、ミノルの母小春と父正美は劇場に辿り着いていた。
当日券を購入できるところを移動の中調べて、手に入る当日券のあるところへやってきていた。
「ここね」
「ああ、そうだね」
当日券売り場に二人で赴き、大人二枚を購入する。
売り場係の女性から受け取ったチケットを胸元へ引き寄せ、ふふふと夫婦は笑い合った。
「いつぶりぐらいだろう?」
「そうね。母さんたちに子供たちを預けてデートして以来かしら」
「じゃ、だいぶ経つね」
「そう。そうなの」
「ママ」
「パパ」
二人は手を繋いで見つめ合い頭を下げながら伝え合った。
「お疲れ様」と。
「ええ、もう二人とも高校生で上の子は二年生で、下の子が一年生」
「なんだか決戦の前の演説のようにも聞こえるよ。気のせい?」
「うふふ。そうよ。子供たちの受験やら就職活動やら続いていく前に、しっかり私たちもこうして英気を養わないと」
「そうだね。もっとママとデートしたいよ」
「あら、子供たちが巣立てば、老後は二人なのよ」
「そうだった。そうなんだよ。ママと老後どうやって過ごしていこうか考えても決められなくて」
「あら、嬉しいこと言ってくれちゃって」
開場を知らせるまで時間があるので、一度この場を離れて、近くのカフェに移動する。
「お昼でもよかったけれど」
「さすがに十時前は早くない?」
「そうね」
「そうだよ」
妻の頼んだものはアイスカフェラテでシロップ入りになっている。自分のは同じものでシロップなしだ
「それでママはどう?」
「そうね。私も色々考えてはみているんだけれど」
「うん」
「ミノルが新しい環境に慣れて、やっていこうって思ったり、結婚・・・・・・そもそもお付き合いできるのか不安なの。全然いい子ではあるんだろうけれど。あの子を引っ張ってもいけて気づいてあげられる大人しくて強かな子って誰か居ないかしら?」
「ああ、お兄ちゃんたち子供たちのことを考えていたの?」
「そうよ。二人がひとり立ちするか家庭を持って親として立っていくのかっていうのが落ち着いて来てから私たちってものがあるような気がしちゃって」
「パパ思うんだけれど。二人とも思い切ってひとり暮らしさせてみない?」
「え?」
「進学するにしても就職するにしても。例え同じ都道府県の中での新しい生活だとしても」
「一応聞くけど、パパとしてどういう意図があるの?」
「ひとつはね。”習うより慣れろ”だと思うんだ」
「産むが易しみたいな?」
「そうそう。そういう環境下に置かれたら置かれたなりに自分たちで考えて決めて行っていけると思うんだよね。それは早いうちに進められるようになっておいた方がいいと思うんだ」
「確かに。私は家のそういったことについてあまり手伝わせていなかったかも」
「それはそれで、手を焼かせたくないとか愛情からでしょう?」
「そう、そうだけど」
「ママは、若い頃から家のことしてきたからこその願いだったからそうしてきたわけでしょう。それにだからと言ってあの子たちはあの子たちで、お腹がすいたら自分で何か作っているじゃない」
「そうか。そうよね」
「そうだよ」
「だからね、うちの子たち大丈夫だと思うんだよ」
下を向いてカフェラテをストローでかき混ぜる妻の表情は少し暗い。
「寂しいの?」
「いや、何だか不安で」
「その不安はひとり暮らしできる大人でも抱える不安なんじゃなくて?」
「えっ」
「例えば知らない人がいたりしないかなぁとか」
「それホラーじゃない」
「ああ、そうか。鍵してあるのに居たらもうそれホラーだよね。相手幽霊だけだよね」
「いや、生きている人でも可能性としてはあるだろうけれど。って、なるほど。こういう心配事じゃないかってことね」
「そうそう。それだったら、僕らと一緒に過ごしていても一応そう言うことに遭いませんようにって祈っていることじゃない?」
「ああ、確かに」
妻が頷いて同意し始める。
「そう、確かにそうね」
「そうだろう。まぁ、後はどれくらいの費用が掛かってきてそれを僕たちがどれくらい支払ってサポートできるかだと思うけれど」
「パパ」
妻の顔を見ると、真剣身を帯びた目をしている。
「な、なに?」
「なんか縁起でもないこと考えていない?」
「違うよ。どのみちママと一緒に何かするにしても先立つものが居るしね。どれくらいのお金をとか目安がとか考えるとさぁ」
「そうね。あの子たちにもそろそろそういった社会で学ぶようになってもいい頃だものね」
「そう。必ずしなきゃいけない物じゃないけれど。経験は嘘をつかないだろう」
「確かに。あの子たちのためになるか」
「ああ、あの子らの糧になるだろうから」
「そうね。そうしないと私たちも身動きとりずらくなったら嫌だし」
「そう、そうだろう」
妻小春の左手を夫正美は右手で触れて、手を軽く握った。
「僕たちまだ一緒に居られるよね」
「そりゃ、そうよ。嫌よ、あなた以外なんて」
「僕も君以外なんて嫌さ」
そういって見つめ合う夫婦の隣の席の若い女性がニコニコしてひとりが「ふふふ」と笑っている。二組は目が合った。女性は両手を振って「お気になさらず」とでも伝えているのかのよう。
小春と正美は笑い合って、伝票を手に取り、会計を済ませて店を出る。
「少し散歩しようよ」
と言って当てもなく歩く。小春は行き交う人の中でも若い女性の服装が気になるようで目で追っている。
「今の人はスタイルも良くてきれいね」
「ははははは。どうしたの?」
「いや、この分だと演劇の舞台で見かけたあの素敵な方々も普通に町を歩いているくらいにみんなすてきな装いをしているわね」
「そうかい?」
「ええ、もっとこう私たちの若い頃。もう少し上の世代は、着たい物着れる物を着るにしても喧嘩してたじゃない。誰とけんかしているのか分からないけれど、私はこのファッションが良いと思って着ているのって喧嘩腰の勢いで」
「そうだったね」
「そうよ」
「確かに今の子たちのほうがそう言った面では受け入れられているのかなぁ?」
「周りを余り気にしなくなったかもしれないけれど。たしかにそうね」
「僕たち大人もそこまで目くじら立てなくなってきているともいえるね」
「そうね。大人な私たちもあっち見たりこっち見たりしなくて自分のしたいことを見たいものを見ている感じだしね」
「そう。そうだよ」
話しをしながら歩いている内に、商業施設が密集する場所を通り過ぎてしまったようだ。周りが企業の店舗が増えてきた。
「戻るかい?」
「それなら、向こう側を歩きましょう」
「確かに、いいね。そうしよう」
信号を待ってから渡り、反対側の歩道を逆向きに歩き始める。徐々に、商業施設が見えてきた。
「ここに○〇会社の支店があるよ」
「まぁ、知らなかったわ。やっぱりこう言った栄えたところに置いておきたかったのね」
「そうだね。うちの会社もそうだよ」
「ふふふ」
「なに?」
「ええ、なんだか新鮮で。私は大学出てアルバイトしている時にあなたと結婚したでしょう。そういう会社だとか企業だとかのお話しするのは新鮮なの」
「そういえばまだ会社に勤め始めの頃も新鮮だって言ってたね」
「そうそう」
二人は若い頃の自分たちを思い出し、手を繋いで、ほほ笑み合った。
「久し振りに会社関係の話しをしたね」
「そうね。連絡事項以外久し振りじゃないかしら」
「確かに。僕たち結構日々必死だったんだね」
「そうよ」
「ありがとう」
「こちらこそ。ありがとう」
二人の頭の中では優しい口づけの様子が浮かんだ。ハニカム笑顔が二つ。向いから歩いている大きなヘッドフォンを付けている若い女性が二人の様子をちらりとみて移動して行った。二人には見えないが、通り過ぎてからその若い女性の表情は少し笑顔になっていた。
「じゃ、ランチにでもしようか」
「そうね。軽くでもいいわ」
「そうだね。ランチは軽めにして、開場する前に、しっかりディナーといこうか」
「まぁ、すてき」
二人はどのお店にするのか楽しそうに計画を練って歩いていた。
兄のミノルはファーストフード店で早めのランチを摂っていて、午後推しのアイドルのアイテムが売っている店を見て回って帰るつもりである。
妹のサクは家に置いてある袋麺でラーメンを作り食べていた。携帯電話が傍に置いてあり、祖母と連絡を取ってあるようで、画面には遊びに向かう旨が祖母に伝えられていた。
夫婦も蕎麦屋さんに入り、ざるそばと温かい傍を頼む。小粋な音を立てて食べる二人はとても楽しそうだ。
「美味しいね」
「そうだね。お客さんが並んでたからここにしたけれど。当たりだね」
「そうね」
嬉しそうに蕎麦を食べる二人。
「思わずお代わりしたくなるけれど、これくらいにしておかないと」
「そうね。またここに来て食べましょうよ」
「そうだね。覚えておこう」
夫の正美が携帯電話を取り出して操作している。記録を取っているようだ。
蕎麦のランチの後はショッピングをして楽しんだ。早めにディナーで牛肉を食べる。そうして待ちに待った演劇を観に行った。開場の時間までこうして楽しんだ二人は、幾分疲れた様子を見せるものの、目は輝いていた。
開場のランプの明かりが目に移って輝いて見えたのかもしれない。
チケットを取り出して入場する二人。ショッピングして購入した荷物はロッカーに預けてある。そのことを忘れないようにリマインダーを使っている。
観劇に対しての案内のアナウンスが劇場内に響く。落ち着いた女性の声だ。正美は子供たちや娘が合っているだろう親に連絡をしておいた。
観劇を見ている間に携帯電話をマナーモードにすること振動もしないようにすることを告げておいたのだ。見終わったら再び連絡することも合わせて伝えた。
「ふふふ、楽しみね」
パンフレットをもう買って手にしながら嬉しそうに笑う妻の顔がなによりも今日みたいものだった。見終わってからの表情も楽しもうと正美は思う。
入場している他のお客様の囁き声による会話で開場の中が響いている。音が反響するこの場所に、非日常感を感じ始めた正美はわくわくしながらステージの方を見た。えんじ色の布地に金糸の意匠が施してある。他の色で刺繍もされているようで、なかなかにおしゃれだ。
もう一度アナウンスが流れた。開演の合図のアナウンスだ。すーっと、照明が暗くなりステージを照らすライトが煌々と照らされている。
お客たちの騒めき声もすーっと音を潜めていき聞こえなくなった。誰しもがステージを見ていた。
演者の声がマイクを通して聞こえてくる。役になりきって語りかけてくるのだ。
まるで魔法のように金色に輝く光りが妻の表情を照らし出し、正美はじーっとそれを見ていた。
「さぁ、行くよー!」
演者による一層大きい掛け声にハッとなった正美はステージに目をやった。耳の傍で声を掛けられたかと思った。
正美も照れた表情を浮かべながら観劇を楽しもうと表情に幼さが混じる。その顔を今度は妻の小春がちらりと見ていた。
いかがでしたか。自分の将来についてその進学なり就職の時なり両親や後見人がそのことやその時期のことそして将来子供たちがどうしていってくれたらという願いや希望を話しているのを耳にしたことがありますか?私は直接どうしたらいいのか聞いてみたことがありますが、お母さんがするんじゃないんだから自分で考えなさいときっぱり言われてしまいました。あの頃が懐かしいです。




