進路希望について菊池君
高校などに通っている間に衝撃を受けた出会いはありましたか?今回はそんな出会いをした菊池君の独白のようなお話しです。ランキングに入っていて嬉しいです。ありがとうございます。
楽しいと思う時間がまた増えてきていて嬉しくって、ついついこの家に朝からお邪魔してしまう。家族と顔を合わす前に、朝早く起きてこうしてやってくる自分をこの家族は受け入れてくれている。しかも「食べる?あるけれど」と朝食を与えてくれるし、「座って待っていなさい」と慮ってくださる。
それが嬉しくて楽しい。猫まで俺に優しい。暗いと称された俺の評価などどこ吹く風と言わんばかりに「それがどうしたの?」と言って会話を継続させて自分の用件を済ませてきた彼女のことが気になったので、こうして会いに来てしまっていた。そんな自分を朝、自分の家で発見して目が合っても「ああ、びっくりした」というものの、その言葉は朝起きてきて台所へと向かう道すがら言葉が口から出てくるだけでその移動スピードは変わらない。
食器棚からコップを取り出して飲み物を注いで飲む姿が勇ましかった。俺に無いものをこの子は持っている。そうだ、あれは勇ましかったんだと改めて感じた。そんなことを感じている俺と共に並んで同じテーブルで朝食を食べ始める彼女は、やはり豪胆な存在なのだろう。
自分の中にある女子高校生の普段の言葉やリアクションでは計り知れない存在としてこの時認識された。俺の中にふと納得する心持がした。と同時に、懐かしいアニメの女性の上官の姿が思い出された。アルトの声音で心のしっかりとした女性でありながら部下に指揮を執る姿が勇ましかったあの女性の上官のキャラクター。そのキャラクターに引けを取らない負けん気の強さで、単機で遊撃してみせる髪の長い女性のパイロット。彼らを彷彿とさせるものがある。そう自分の中で感じてしまったその瞬間から、たちどころに隣で朝食を摂る彼女に対する思いも定まった。
これは恋というにはあまりにも自分が情けない。そう、感じさせる存在なのだ。その存在にこうも容易くお近づきになれるこの家の人間も少々どうなのかと思う。チャイムを鳴らして扉を開けてくれたこのご婦人と目を合わせて、説明する自分のことを断るわけでもなく会わせてくれた。家の中でだ。
この親にしてこの子在り。その言葉が似あう親子に思えた。
昔そのアニメを見て彼らに真似るようにして敬礼をしたこともあったが、今は心の中で彼ら親子に敬意を表したい。
そしてその中で異質にも見えてしまう普通の反応を見せる兄の姿は、不思議と安堵させられる。
初めてのそんな日も、学校へ向かうために玄関で靴を履く俺を慮って、カバンを持ってくれた兄。驚く割には面倒見がいいのか、相手が俺であろうとその姿は変わらなかった。
学校に向かう道すがら、兄の方に自己紹介をすると「今なのか」と言いつつも「兄のミノルです」と簡素な自己紹介で返してくれた。
この妹にしてこの兄在り。
感銘を受けている自分に気が付いた。すると、
「あのな。そんな時代劇の登場人物みたいなしゃべり方して、おっさんか?」
「いえ、あなたより学年が下の高校生です」
「だよなぁ。そう言うジャンルの話しが好きなのか?」
「ええ、好きですね」
「なるほど」
「お兄さんはちなみにどんなジャンルが好きですか?」
「今は2.5次元アイドルかな」
「拙者には分からない世界です」
「拙者って。今ワザと拙いって漢字を用いて、お笑いも好きとか」
「物語が好きなので」
「ああ、なるほど」
と言って、笑顔で宜しくなと握手を交わすこととなった。なかなか豪胆な振る舞いに思える。せきほど家で初めて会った時には、「何で居るんだ?!」と驚いていた姿とは想像がつきにくい。
それでこのまま一緒に歩くのか、いいのかと思っていると。歩道を歩く際に、「そこ気を付けろ」と注意をして守っていただいた。
このときめき。この兄在りてこの妹在る、では。とこの兄弟のことが好きになった。この家には可愛い飼い猫が居るが、その子が懐くようにして自らも懐いていけれたらと妄想が膨らんで恥ずかしくなった。
自分の中にしまっておこう。こうして学校のある日。この家へと朝早くに赴くことが日課となった。
一応知らせておくと、この家の父上に会った時に、「え、誰?」と小さな声で言われたが、結局その父上が出かける時には、「いっぱい食べなね」とこちらを慮った声かけをして出かけて行った。違う日には、「好きな物や食べられない物を奥さんに伝えておいたら出てくるかもしれないから、伝えるんだよ」と優しくフォローをしてくれる。「で、何が好き?」とすぐに聴いて、答えるとすぐに奥さんに伝えてくれる。
そうしていく日々の中で緊張が徐々にほどけて、「水羊羹」と言って手土産を渡してほっこりされるとこちらもほっこりした。
家族への報告も相談の仕方も相談に乗ってくれて、あの兄妹が居ない時でも学校が終わってから、彼らの家でくつろいで宿題を終わらせてから帰ったりしている。
事業参観の報告も出来、来ていただいた。今度は進路について希望を用紙に書くように言われているので、どうしたらいいのかと思案しているところである。お茶を出してくれるこの家の母君こと小春殿。
「なんかあったでしょう。言ってごらんなさい」
「はい。さすがこの家を取り仕切る母君であらせられる」
「今日は一段と乗ってくるわね」
「いえ、これが素です」
「あははははは。そういうことにしておきましょうか。で」
「はい。実は」
と鞄の中から進路希望を記入する用紙を出して渡した。
「簡単なことじゃないの」
「と言いますと」
「あなたの希望している進路先を記入すればいいのよ」
「しかし」
「しかしと自分で自分を止めるその心は?」
「はい。自分といたしましては、工業系の中でも落研があるような専門校か職場に」
「お勤めと考えているの?いえ、それ以上に専門校?」
「はい」
「何か具体的に進みたい仕事の世界があるの?」
「それがこちらです」
会社のパンフレットが出てきた。会社の外観が載っている。
「ここ」
「はい、隣町にある会社です。町工場よりはすこし規模が大きいかと」
「何かきっかけでも」
「そうです。その町工場の人を舞台にしたお話しがありました」
「舞台?」
「ステージの方です」
「ああ」
「そういえば落研って」
「そうです。私はお話し好き」
「それならお話し好きが集まる出版や本屋やそれこそ寄席やその周りのお店なんかでコツコツ働いてみては?」
「私の暗さをご存じでしょう」
「ええ、まあ」
「否定されないのですね」
「暗いというか今時の女子高校生の垢ぬけたノリをする子としっかりと会話してこなかっただけじゃ」
「うっ。それを言われると苦しい処」
「そうでしょう」
下を向く少年にこの家の台所を任されている妻小春は胸を張って言った。
「話し好きならそれなりに色々職業があるのだから、まずはそれを探してみてはいかが?おほほほほほほ」
「はっ。誠におっしゃる通りでございます。ただどうやって検索したものか」
「検索?何言ってるの?道行く人に聞いてみたり、デジタルな掲示板にのせてみたりするものじゃないの」
「およよよよ。そうでした。あなた様の世代はそういう方法を取られていらっしゃった方」
「まぁ、年だと言いたいの」
「いえ、滅相もとんでもございません」
「では、早速自分なりに調べてみます」
「健闘を祈るわ」
「ありがとうございます」
「私も色々考えてみるわ。分かったら連絡したいから連絡先教えてもらえる?」
「はい、喜んで」
こうして連絡先を伝えた。
後に放送学校というところの話しを聞いた。パンフレットを取り寄せてくれた。初めに話しをしていた工業の世界の話しのことも改めてして相談すると、ビックリしたことに、その二つを正直に思ったまま伝えたらいいと言われた。
「そこからは自分の中の自分にどうしていきたいのかということを自分で尋ねて聞くしかない」
と言って、「よく考えなさい」と応援をしてくれた。
お話しが好きな自分ですが、学がない上に記憶力もいささか乏しい。故にそちらの道にまっすぐにストレートに進んでこなかったのでありますが。やっぱり学生の頃に好きになった物を時折触れてみたくなって、またあの頃とは少し違う形でこうしてお話しの世界に関わって生活している自分が居ます。




