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菊池君

お父さんの視点から入ります。家長としての対応や大人としての想像力を働かせて答えを本人から聞けるようになるまで焦らない姿がお届けできればと思います。


「高い高い」と生まれて一年経ったあの日、確かにこの家の大黒柱である父親は、第一子である長男を抱きあげた。そしてその一年後、第二子の長女にも高い高いをしてあげた。

 その子供たちが朝からおしゃべりしながら朝食を食べている。微笑ましい。もう少しで出かけなくてはいけないのが惜しいくらいだ。出社を遅らせられないところが哀しい。

 それはさておき、その第二子の長女と同じ学年の菊池君という少年も、彼らと共に朝食を摂っている。よくよく見ると、箸とお茶碗は彼専用のものだろうか。茶碗も人数分のはずなのに彼の分がある。

 愛する妻の方を見ると、三人を慈悲の眼差しで見つめにっこりしている。猫の鳴き声を聞いて猫にご飯の用意をしていた。

 妻に近づき隙あらば口づけようとしているのがばれて躱された。残念。

「あの少年はそのサクの事が好きなのかい?」

「ふふふ」

肯定も否定もしない妻の様子。容認しているのかこの家に朝からご飯を食べるということを。でもいやまて。

 この家に朝から来て、朝食を摂るだけの余裕がお腹にあって、彼のご両親もそれを知らないのか連絡は来ていないようだ。

「ご両親からは」

 妻は寂しげな表情をして首を横に振った。

「それは」

 万が一、彼の一日の食事の手助けをしているのならば、この家の主として、もっと彼に食べさせる機会を与えた方がいいだろう。それが大人の役割というものだ。

 思い切って菊池君へ近づき話しかける。

「お腹いっぱい食べていきなね」

「ありがとうございます」

「それじゃ、行ってくるから」

「はーい」

「おう!」

「いってらっしゃいませ」

 妻のもとへ移動して猫に挨拶をしてから妻と一緒に玄関まで赴く。ふふふ。この短い距離だとしても二人で歩く。こんな素敵なことはない。

「愛しい僕の奥さん。行ってくるね」

「ええ、気を付けてね。私の愛する旦那様」

「ああ、いつまでも一緒がいい」

「そういう訳にはいかないのよ」

 奥さんは玄関扉を指さして、「行ってこい」と旦那様を見送った。旦那様は玄関の扉が閉まる瞬間のその時まで投げキッスをしていた。それを猫が後ろで観ていた。

 旦那様が玄関から姿が見えなくなると猫がすかさず、奥様へ鳴いて訴えた。

「どうしたの?」

と聞く奥様を見ながら家の中へと進み餌の前に止まって、前足で床をとんとんした。すると奥様は直ぐに気がついた。

「ああ、ごめんなさい。トッピングを忘れていたわね」

「ミャー」

と猫は嬉しそうに鳴いた。

 トッピングを無事得られた猫は、体の周りに春のワルツでも流れていそうな軽やかな雰囲気を纏いながら餌を嬉しそうに食べている。

 子供たちがご飯を食べ終わったようで、「ごちそうさまでした」と言っていた。男勝りのところのあるサクが一番に自分の使っていた食器を流しに移動させて、水に浸けていた。

「ありがとう」

「うん、ママ」

 サクの次に菊池君もサクと同じように使用していた食器を流しに移動させて水につけた。最後に長男のミノルも食べ終わったようだ。

 三人は投降するまでの間に、歯を磨いてうがいまでしている。この家の家長である父親は気づいていなかったが、菊池君の物は箸などの食器以外にもあった。そう、歯ブラシである。ちなみに歯ブラシの好みを聞いておいたこの家の妻小春が買ってきたものだ。

 トイレにも行って用を済ませてきたようで、すっきした顔をしながら、前髪のセットを気にしていた。

 いつもサクにくっついているという訳でもなく。気が合うらしい。妻の調べでは、菊池君にとってサクは、心地よい存在ということになるらしく。クラスの他の女子生徒のように突っ込んで聞いてこないから好きだと言っていた。それを聞いたミノルが「男子のようだってことだよな」と茶化していたが、母親である小春もそのことについては賛同していた。娘だが男気を感じる言動を時々するサクにほれぼれする時もあるほどだったので、菊池君は異性とか同性とかいう前に友人を作りたかったのかもしれないと小春なりに考えた。もし菊池君にとって娘のサクが恋愛対象だとしてもきっと小さなつぼみくらいの気持ちに違いない。小春にとって菊池君は兄ミノルについて甘える小さい妹のサクの姿が重なって見えたからである。

 まぁ、勝手な私の憶測も交じっているから、見守ろうということに代わりわないけれど。と小春は、菊池君に対して親心を抱いていた。

「はい、三人共、学校に遅れるよ」

とゆっくりしている三人に時間を知らしめる小春。

「ええ、もう?」とサクは口をとがらせている。

「そうだよー」

「わかりました」と菊池君。

「マジか。行かなきゃ」とミノルが鞄を持って一番先に玄関に向かった。菊池君はサクを待って一緒に玄関へ向かった。

 三人が靴を履いて、小春へ向き直る。

「行ってきます」と三人声を合わせ手挨拶すると、順々に玄関扉を潜っていった。振り返らずに学校へ向かう三人に巣立って行く姿を重ね合わせた小春は、鳴きそうになっている気持ちによしよしと内心で宥め、部屋の中から猫の鳴き声が聞こえると、「はいはい」と猫の方へ意識を向けた。

 玄関には名残惜しさが残った。

 彼らは誰からともなく、週末の過ごし方や今日の授業後の予定を報告し合っていた。そしてそれぞれの教師からの予定を知らせる。すると、兄ミノルから先輩としての先生についてのアドバイスがあった。

 菊池君は普段サクがミノルを接する姿を参考に丁寧に接しているが、どこか年上然とした態度をとって、からかうこともあったが、こういう時彼は静かにミノルからの情報を聞く。

 サクがミノルの肩に腕を回し言った。

「お姫様抱っこしてこの上り坂を超えて見せろ」

「どういうお姫様設定だそんなセリフを吐く女性は!?」

「あはははははは」

「私めが」と菊池君がサクに近づいて言った。恐らく冗談に乗ってくれたのだろう。が、サクは楽しそうに、今度は菊池君の肩に腕を回して言った。

「よかろう。そなたにその役目任せてみよう。みごと果たして見せよ」

「はは」というと、菊池は本気でサクを腕に抱き始めた。驚いたことに、菊池君は腕っぷしがあるのか、サクを抱きあげて、お姫様抱っことは違う抱きあげ方だったが、それでも抱きあげて坂を上ってみせた。驚きながらミノルが、

「菊池やるな!」と笑いながら駆け寄ってきた。

「それだったら、サクを安心してまかせられる」と冗談半分にミノルがいうと、菊池君は顔を真っ赤にしていた。

「いやいや、おまえ。今おまえもこの波に乗っておいて、何今更恥ずかしがっているんだよ」

「身に余る光栄」

と言って、サクを抱きしめていた。

 さすがのサクも頬を少し赤らめて、菊池君に抱きつかれて困っていた。

「クスクス」という声が聞こえてきて、後ろを見ると、同じ学校の他の生徒が投降しているところに遭遇していた。

 それでも菊池君はサクを放さずに、むしろ顔をサクの肩にうずめて耳を真っ赤にしていた。

「いつまでやっているんだ。恥ずかしいなら、さっさと学校へ行くぞ」

とミノルの声に、やっと菊池君はサクを降ろして、それでも手をつないだまま学校へサッサと向かう。

「おいおいおい」

とミノルは二人の後をついていき、

「あーもー」と言ってサクもついていった。

 キャーワーする女子生徒と男子生徒の声を聞いて、菊池君は慣れていき、サクはなんても思っていないのかそれとも楽しんでいるのか。自分から菊池君にくっついて歩き始めた。ただし女のそれではなく、肩に腕を回して男同士のように歩いている。菊池君はサクと同じくらいの背丈なので、サクも無理なく菊池君の肩に腕をまわせれた。

 サクのことを知る女子生徒や男子生徒は微笑ましそうに眺めるだけではやし立てることもない。

 そのころミノルはまるで自分がワーキャー女子から騒がれているイケメン男性アイドルのような黄色い声援を浴びた気分になってご満悦だった。

「ふふふふ」

と謎の自信に溢れた微笑みをこぼしていた。

 キンコンカンコーンという音と共に彼ら三人も教室で席についた。

 今日も一日が始まる。


菊池君の青春の一項。友愛の範囲なのかどうか私にも分かりません。ただ、ああした恋愛のような異性との行動はしてみたかったのかと思います。

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