にんまりとあの日
続きが書きたくなって書いてみました。
今日は待ちに待った漫画の単行本の発売日だったので、立川に付き合ってもらって本屋によって購入してきたミノルは、部屋でさっそくその単行本を読んでいた。表情は徐々に真剣さからにんまりしたような表情になっていっていた。ミノルが購入した単行本は男子学生向けの恋愛もの漫画だった。ギャグ要素も強い内容となっているので、微笑ましいシーンとともに笑える部分に対して笑いたくても声を出さないで読み続けようとしたらにんまりしてくるのだった。
帰宅した妹が、ミノルの部屋の扉の隙間から兄のそんなようすが伺えたので、こちらもなんだか楽しい気持ちになりにんまりとして口元を軽く右手で押さえて自分の部屋へと移動して行った。そんな風に妹に目撃されていると気づいていない兄ミノルは、一時間後、満足げに頷いて、閉じた単行本を両手で持ち、表紙を見て大きくまた頷いた。
「間違いない」
そう言って、本棚にしまう。
立川は漫画も読むが実用書や小説の方が好きで、ミノルとは趣味がすこし被る程度だったが、それでもお互いの好きだと感じたものを教え合った。ミノルは文字ばかりだと読めないというので、立川が映像作品になっている物語そう小説を紹介してお互いがお互いの情報を刺激に楽しんでいた。
立川にミノルは連絡して、読破したことと今回も間違いない内容だったということを知らせた。
立川に明日学校に持ってくるよう言われて、ミノルは了承した。
立川もミノルのこの本を読むのが好きだった。恋する男子の話しだ。立川も好きな女子が居るので、ついついこの話の主人公の気持ちが分かると共感できる場面に出会うとキュンキュンしていた。本人はその心の動きがキュンキュンと表現される類のものだとは断固認めないだろう。恥ずかしいのか少し捻った正確だからか、立川を知る人物に訊いたらまた違った評価をするだろう。
夕食の準備が整ったことを階下のミノルの母親が告げる。
返事をするミノル。ミノルは妹の部屋へと移動する。ノックをする前に扉が少し空いていた。そこの隙間から見える妹は、楽しそうにテレビを見て、メークをしていた。
「おーい、飯だって」
と声を掛けると、
「はーい」と言って、テレビの電源を消してやってきた。
「それなにメーク?」
「ああ、韓国の動画の人のメークを真似してみた?」
「どう?」
「自分でするのと人にするのどっちも慣れてるならその道に進むのか?」
「もうただ楽しんでるだけだから」
「なんだ。上手いからそっちの道に進むのかと思った」
「違う違う」
「そうか?」
「そうだって」
一緒に階下に下りてきた二人に母親はにんまりして「今日はあまあまカボチャのシチューよ」と告げた。
「母さん、色は?」
「白よ」
「夏でも白いシチュー。最高だと思います」
「あはははは。そうミノルは好きでしょ」
「ええ。ごはんとパンも選べるとベストです」
「ありがとう」
「ずるい」
「そう思って、デザートを用意しました」
「あんたの好きな杏仁豆腐大盛バージョンよ」
と言って母親は三人が座る席のテーブルの真ん中にどでーんと杏仁豆腐を置いた。そのサイズたるや。
「母さん。この皿家族全員分のラザニア作る時の耐熱ガラスの四角い皿じゃないのか」
「そうよ。盛り付けてみたの」
「あははははは。この豪快さたまんないね」
「おれはおまえのその豪胆な女傑のような反応に恐れ入るよ」
「さぁ、さっそく食べましょう」
席に就いて「いただきます」をした三人は食べ始める。何故か妹はシチューの上にスプーン一杯の杏仁豆腐をかけて一緒に食している。
「なにやってるんだ」
「試しに」
母親も注目している。
「そういえば父さんは?」と妹は聞きながら、白いシチューと米と杏仁豆腐の白いぷるぷるしたものをスプーンにのせて食べ始めた。
「うーん。思ったよりイケる!」
「えっ?!」
ミノルはビックリした。母親は豪快に笑って言った。
「昔からあんたたちってそういうところあるよね。父さんなら今日は早めに帰れそうだって」
「じゃ」
「そうよ。一緒に映画でも見ようって言ってたわよ」
「ラジャッ」と妹が敬礼を真似て了解をする。
「ご飯食べたら早めにお風呂入っておきなさい」
「はい」
「ああ」
ミノルは母親があんたたちとミノルのこともひとくくりにして考えているという言葉に気が付かづに、妹のそんな姿に「ありえない」と驚きながら、自分の好きなシチューを堪能していた。ミノルは混ぜない派で、カレーライスでも混ぜずに食べる。これに関しては妹も混ぜない派で。混ぜても一部だけにとどめている。父親と母親は混ぜる派で分かれているのだ。
そ、そんな情報を伝手ている間に夕食を食べ終えた三人は気が付いた。
「ミャー」
「ああ、起きたの。ごはん用意するね」
と母親が猫のごはんを用意し始めた。
妹は杏仁豆腐を多めに食べれて満足しているようだ。
「俺先風呂入る」
「お代官様か。妹に譲れ」
「おまえはその腹を落ち着かせておけ」
「ちっ。譲ってやるよ」
「誰だ。舌打ちするような奴は」
ミノルが先にお風呂に向かった。妹は母親の食器の後片付けの手伝いをして過ごし始める。母親に飲み物を用意して、父親に連絡をしたご飯を食べたこと。お風呂入って待っているからさっさと帰ってこいということを。
そんな娘からの連絡を確認した父親は嬉しくなり、帰りの電車の中でにんまりしていた。
両手で鞄を抱えてご満悦である。
足取り軽く家路を歩く父親は、お土産をと考えてコンビニに依った。たまにこうして家族に食べ物を買って帰る。今日はそんなご褒美の日だ。
ちいさなシュークリームが入ったものとスナック菓子の袋をひとつづつ購入して帰る。すると妻が待っていて、出迎えてくれた。手にはご機嫌な猫が抱かれている。なんて幸せなんだと想いながらリビングに入ると、子供たちがお風呂上がりの姿で待っていた。
「おかえり、早く飯を食え」と長男が言う。
「おかえり、杏仁豆腐いらないなら私が食べるから」と長女で第二子の子が言う。
逞しい二人の子供の様子にいくつか気圧されながらも、にんまりとした父親は告げた。
「ここにお菓子があります」
すると、ミノルはのそのそと来て、「そういうことは早く言ってくれ」と言って買い物袋を受け取って、中身を妹と確認している。
「ふふふふ」と妻とにんまりと笑う。子供の頃と変わらないその姿勢。父親として心配もあるが嬉しくもある。
服を着替えて、鞄も部屋に置いてくる。
すると夕食が用意されていた。
「いだたきます」
そういってご飯を食べる父親。向いに座る母親は晩酌をしている。猫を可愛がり悦に入っているのだ。
「いいなぁ」
「あら、あなたもいただく?」
「ああ、少しくれるかい?」
「ええ」
妻が用意したお酒を飲みながら、夕食をいただく。もうその頃にはテレビで放送されている映画は始まっていた。
「お父さん途中参加するから」と伝えて、ご飯を堪能する。
妻とのひと時を過ごしながら、後ろからテレビで放送されている映画の音を訊く。子供たちの声も聞こえてきて何よりの癒しとなる。
結婚して子供もできて、今こうして癒されて。よかった。本当に諦めずに今目の前にいる女性に声を掛けて妻になってもらってよかった。
当時の自分にも感謝して「ミノル嬉しがったでしょ」と今日の料理についての話題を奥さんにすると、「ふふふ。恥ずかしがって昔ほど表に喜びを現わさないことも増えたけれど。しっかり私には分かるわ。喜んでいるのを」
「昔はガッツポーズして騒いでいたもんね」
「あはははははは」
と夫婦が笑う。ミノルが振り返って直ぐにテレビの方を向く。
「お菓子開けて食べていい?」
「いいわよ。ね?」
「ああ。その変わり少し残しておいて」
「わかった」
子供たちが袋を開ける音がする。幼い頃を思い出した父親は、涙ぐみそうになった。父親や一気にお酒をあおる。とても少ない量とはいえ、奥さんである妻は驚いた。
「どうしたの?」
「はぁ。なんか感極まりそうになって、つい」
「まぁ、あなた。ひとりでこっそりずるいわよ」
「ああ、ごめん。そうだね。共有したいもんね」
「そうよ」
妻は立ちあがって父親の隣に移動して耳を近づけた。父親は笑いながらこっそり奥さんに今の胸中や頭に浮かんだことを伝えた。すると、奥さんもビックリした後に目に涙を浮かべてにっこりして相手を見つめてから、猫を降ろして、旦那さんと抱きしめ合った。
長男の幼い頃の体調の変化に涙した日もあった。そのころ長女で二番目の子供は立つことができるようになった時期で、兄にも両親にも頭を撫でて「よちよち」と言いたかったようで家族を慰めようとしてくれた。大きな病気をしたわけではないが、良く風邪をひいたりしていたことにより少しずつ体が弱っていく長男に、心が張り裂けそうになった両親には忘れられない出来事だった。
その思い出がふと蘇ったのだった。
「今じゃ、信じられないわね」
「ねぇー、本当に」
笑い同意しながら父親と母親は涙していた。
母親はそのころの居ても経ってもいられなくなって会社から早退して慌てて帰ってきたこともあった目の前で涙する旦那様の様子を思い出して、さらに涙が溢れてきた。
ビックリした彼女は旦那様を宥めるのに精いっぱいで、涙が溢れてきたものだった。
「はぁー」再び気持ちが溢れてきている両親の様子に、気が付いた長男のミノルが移動してきて二人の傍に来た。
立派に逞しく長男が言う。
「大丈夫?」と。
「うわーん。大丈夫ー!」と両親は抱き合って、長男に返事をした。
「どういうこと?」という長男に「嬉しそうだからいいんじゃない?」という妹に「そっか」と言って、「もう合流しないと映画の話し後半に入ってきちゃうよ」と言った。「わかった。今から参加する」と二人で手を繋いで両親は子供たちが座っていたソファに座る。その横に子供たちが座る。
「感動するね」
という父親に、「感動ってスパイ大作戦ってタイトルの映画だよ」と言われて、「そうだね」と返すので精いっぱいで、下の子がティッシュを渡してくれたので、涙を拭いて鼻をかんだ。
妻を抱きしめて、キスを贈る。
「はぁ」と息をはき、映画に集中する。それも子供とおしゃべるするためだ。
家族で久し振りにこうして映画を見ていることに感謝をして、そして子供もこれほどに成長してきているのだと実感していた父親は、この時間を誰よりも楽しんでいた。
にんまりを家族全員にさせることで、遺伝的にも親子でそして一緒に居るからこそ移る行動を描けたかなと思います。思い出したあの日のこと。成長していく中で必ず病気やケガで心配になる一瞬はあるもの。この家族にもそんな時があったことそして子供たちの成長を実感する父親と共有していただいた母親が感極まって涙があふれる回となりました。転んでばかりいた幼い私。腕にひびが入った家族の幼い頃。父と母にもおはない頃に負った怪我や病気のエピソードを知っています。
今在ることへ感謝して、優しい言動ですくってくれた方に愛を贈ります。
ありがとうございます。お世話になっております。
それでは、また。




