親としての、そして
菊池の身の上を描いておこうという気に薄っすらなって来て描き始めてみたら、なんだかアットホームなエピソードになりました。
文化祭が終わり秋の深まりと共に風邪をひく生徒が現れはじめ、学校から先生を通しての注意喚起が行われた。
そんな中、菊池が珍しく風邪をひいて学校を休んだ。
サクとミノルは菊池の居ない朝食の時間を過ごす。これはこれでごく自然な風景であるはずなのに、なにか物足りなさを感じさせた。
そのことをミノルがサクにいう。
「これだけ当たり前のようにいた相手が居ないとたとえ菊池と言う友人だだろうと寂しさを感じるな。休みの日は居ないの当たり前なのに、なんでだろうな」
「そうだね」
「あらあら。あの子はもううちの子でもあるんでしょ。家族だと思っているのよ。だから寂しいの」
「家族か」
「なるほど。しっくりくる。なんて言うのか、よく合う親戚みたいな」
「ああ、なるほど。確かにそれくらいには親しい間柄ではあるなぁ、たしかに」
「もう」
その週の休みの日。朝から思いもよらない相手が彼らの玄関のチャイムを鳴らした。
小春が応対すると、何と菊池の母親だった。後ろには気まずそうな菊池も居る。
「まぁ、これはこれは。ようこそおいで下さいました」
「そんなそんな。こちらこそうちの息子が世話になりまして」
とお互いがお互いを立て合ってのお礼を含めた挨拶がはじまり、様子を見に来た小春の夫の正美が「外ではなんですから、中へどうぞ」と場を家の中へと移した。
リビングに通された菊池の母親は、食事を終えてテレビを見ていた子供たち二人にも丁寧に頭を下げる。
菊池は後ろで恥ずかしそうにしている。
どういう事態なのかを詳しくは分からないもののミノルもサクも菊池の様子から危険だったり説得をしたりしなくても大丈夫であるということだろうと推測して安堵した。
客人をソファーに招く。
ミノルとサクがキッチンへ向かって、飲み物を用意する。すると、菊池が彼らの傍に来た。
「どういうことだ?」
「そのここで朝ご飯を食べていたりすることがバレて、どうしても挨拶に行くっていって聞かなくて」
「な、なるほど。それは納得」
「そう?」
「そうだよ」
「そうだぞ。で、日本茶で構わないかなぁ」
「ええ、それで。お茶好きなので」
「よし」
子供たちのやり取りの様子を親たちは静かに見守る。菊池の母・登喜子も彼らの様子を見ていて安堵したようで、ますます正美と小春夫妻に頭が下がる思いがした。
菊池の母・登喜子は、
「私、勝の母。菊池登喜子と申します。普段はこういう仕事をしておりまして」
と正美と小春に改めて自己紹介をして挨拶をする。
名刺を渡された二人はその名刺を見て、驚く。
「御商売されておられるのですね」
「ええ、以前は務めておりました。所謂、OLというものをしていたのですが、その徐々に性に合わなくなってきてしまって。資格を取得して、営業しては、仕事を得て、呼ばれるままに仕事をするためにあちこちに出向いて行っていまして。今は芸能事務所のようにマネージメントと経理関係を行ってもらえるところに所属しておりまして」
「はぁ」
「個人事業主ではあるのですが、事務所と申しますか事業所と申しますか。そう言ったところに属して居ります」
「な、なるほど。それで普段・・・・・・」
「ええ、そうです。息子にはわるいと思っているのですが、それでももう高校生ですので、大丈夫だろうと思って、その」
「ええ、わかります。そうでしたかそうでしたか」
「あの子なんて説明を」
「その仕事で忙しいとは伺っておりましたが、そうでしたか」
「本当だよ。仲良さげじゃないか」
「まぁ、そうです。仲は良いですが、まぁ、何と申しますか。夫のきっちりさと寂しがり屋なところが似てしまって、一応は心配していたのですが、まさかここまでの行動を起こすほどとは」
「そうでしたか」
「ええ、本当にうちの勝がご迷惑をおかけしたようで」
「いえいえ。最初はまぁ、驚きましたが今では朝に顔を見ないなら見ないで寂しいものだと話をしていたんですよ」
「まぁ、そうでしたか」
ミノルとサクは間髪入れずに、「いつも居るのに居ないからだぞ」や「そうそう」と言って恥ずかしさをごまかしていた。
勝と母親に呼ばれた菊池は嬉しそうだ。
「それにしても勝っていう名前だったんだね」
とサクが言う。
「今ですか?」
と菊池が呆れる。
しかしミノルも、
「俺もそう思った。名前聞くの忘れてたな」
「ほんと気にしてなかったからさぁ」
「まったく。本当に聞いてくださらないので呆れて私もこの事を忘れていましたよ」
三人がキッチンで笑った。
お茶が入り、人数分淹れて給仕していく。
自分の息子の勝まで彼ら側に立って一緒に客をもてなしている姿に登喜子は、感涙して、
「私、子供の今後をどうしようかと自分の仕事をこなしつつ悩んでおりましたが、こちらの暖かいご家族様の温情のおかげで、あのように心配している以上の成長振りのようで安心いたしました。感謝いたします」
そして手に持ってきたつまらないものですがと菓子折りを渡してくれた。
「ありがたく。みなでいただこう」
と正美が言い、
「そうね」
と小春も同意する。
「一緒に食べましょう」
と正美が登喜子を誘う。そして、この町の有名どころのお菓子のパッケージを広げて、みなでせんべいをバリボリと食べて、お茶を飲んだ。
小春が言う。
「先ほども申しました通り、居ないなら居ないで寂しいものだと思うほどに我が家の朝食の席にも馴染んでいる次第でありまして、その今後も彼が望むのなら、このまま今まで通りお付き合いさせていただきたいと考えている次第なのですが、よろしいでしょうか?」
「まぁ、願ってもいない申し出です。有難き言葉。では、せめて朝食代だけでも」
「そんな、そんな」
「いえ、こういうことはしっかりしておかないと」
登喜子が勝に聞く。
「あなたあののように大まかな計算はできているんじゃないの?」
「はい。それでしたらこちらに」
そう言って、携帯電話を取り出して、画面を見せる。
「ちょ、ちょっと見せてもらっても良いかい?」
と正美が申し出ると、勝は快く承諾してくれて、
「ではファイルを送ります」
と伝えて、操作して、「只今送信いたしました」と告げて、再び画面表示をさせて母親に見せる。
確かに小春の携帯電話がなった。小春が失礼と言って確認すると、添付ファイルが送られてきていた。ファイルを開くとワードでの大まかな計算がなされていた。今までの食べてきた日数と回数が記されていて、仮にとして一食の値段を想定して、今まで掛かっているであろう合計金額が計算されていた。
「ど、どう。これくらい?」
と正美は小春に尋ねる。正直なところ。もう少し安くても大丈夫であるし、そもそも菊池の分も月計算で捻出できるように支出項目の金額を考えて行動していた小春は、戸惑う。
菊池親子を見る。すると息子の勝と目が合った。
「受け取ってください」
「でも」
「親孝行と思って」
「親孝行って」
と驚く正美に対して、登喜子は、
「立派な心掛けです勝」
と褒めていた。
口を開けて驚く正美を振り返ってみた小春が正美のわき腹を優しくこつく。
「あ、ごめん。あまりにも驚いてしまって」
「そ、そうね。気持ちは分かるけれど」
「その君は親孝行だと思ってって言って受け取って欲しいって思っているってことで良いのかい?」
「はい!是非!今まで心苦しかったので、この際母に支払っていただければ。その分俺が母へその支払い分を将来返していきます」
「まぁ、立派ですけれど。それには及びません。これは私の義務ですから」
「母さん」
サクの口から、「義務って言ってるよ」と呟く声が聞こえた。ミノルの口からも「これが自立ってこと?」と言っている。
「そこ、ちょっと母さんの思っているのとはまた違うから、後でお話をしましょう」
「わかった」
「わかった」
小春の指摘と申し出にこどもたちは納得したようで、もう一枚せんべいを食べ始めた。
「菊池君もあの子たちと食べていなさい」
と小春が言うと、嬉しそうに菊池は二人の元へ行って、隣に座ってせんべいを食べ始める。
小春がそれを見届けると、菊池登喜子へと歩み寄り、母親同士の話し合いが行われ始めた。正美は、自分が菊池の身の上が思うよりも温かいご家庭の中にある子供であると知って安堵していた。
「よかった。せんべい美味しいかい?」
「うん」
「とっても」
「ええ」
子供たち三人の答えに満足した正美は心も満たされる思いだ。
その間に母親同士で話が付いたようで、小春が説明し始めた。
「このお金は確かに登喜子さんから頂戴する形にいたします。我が家での食事代をこれからもご用意していただきます。そのお金は、登喜子さんにお願いして菊池君。勝君の名義の通帳を作って、そこにさきほどの食事代のお金の分を振り込んでいただきます」
「え、でも。それって」
と菊池勝は戸惑った。
「あなたの将来進学や就職などの活動のためのお金として貯めていきます」
「すごいじゃん」
「やったな」
とサクとミノルは大喜びでお祝いムードだ。勝は申しわけないと思っているようで戸惑う表情を見せている。
「そうしておきなさい。ここに居る全員、それで文句はないのだから」
と正美が説得すると、照れたように頷き感謝する正美と、涙目になりながらお礼を言う登喜子。
登喜子も今日の予定がここへ来て話をすること以外ないと知ると、少し早めの昼食を出前を取って楽しんだ。テレビでは小春が登喜子へと選んだ働く女性を応援するような内容の映画を流した。
登喜子も楽し気にうきうきと映画の主人公の女性を応援して、食事をしていた。
登喜子も正美や小春らと連絡先を交換してから、勝と共に帰っていった。
先ほどのお金の準備が出来次第聯絡が来ることになっている。通帳とカード自体は作成された暁には名義となる本人に管理してもらうことになった。
彼ら親子が去った後に、
「これで菊池君も自立の一歩を踏み出したわね」
「なるほど」
「いただいたお金で?」
というサクの言葉に、正美が諭す。
「誰でも自立へ向けて少額でも支援を得てそれを糧にして、なんとか自立へと歩み始めるものなんだよ」
「そうよ」
「父さんもそうだった?」
「そうだね。こっちへ出てきて働き始めるにあたって、内定をもらうための活動の資金もこっちに家を探す資金や、部屋を借りるにあたっての保証人は親がしてくれた。部屋を借りる諸月の諸費用も親に出してもらったからね」
「そうだったんだ」
「お前たちの自立していく時にもお金かかるだろうから、今のうちから貯めているのよ」
「そうなの?」
「あんまり期待するんじゃないぞ」
「分かってる」
「その貯めているお金は進学を選んだ時も、役立てられるようにしようと思っているから」
「そうか」
ミノルとサクは顔を見合わせて、「そうなんだって」と言い合って笑った。少し寂しさがある笑顔だった。
子が生まれたと同時に学校に通うのに必要な経費が支払えるように積み立てて、その時期にその積み立てたお金を使用できるような金融のサービスがあります。それを思い出したので、まだ高校一年生の彼にはちょうどよい形で話が収まったかと思います。新たに用意しなくてもこれで良くなりましたからね。親としても親の気持ちになっている彼らにしても将来必要になるだろう纏まったお金がこれで用意できると思えば、安心と安堵な気持ちになったでしょう。




