付き合い初めの
どこまでどう進展させるのかが見ものな気もするのは少しだけで、早めにお付き合いを進めていこうとしている自分がいます。片思いとかすれ違いとか駆け引きとかはあまり描けそうにありません。素直要素の高いミノル君ですからご容赦ください。
先を進んでいるはずの立川たちが階下へと下りていくのを、鈴木とミノルは見送っていた。
ミノルは思った。
このまま立川たちと同じコースを巡って校内を回るのか、どうか。その場合、前方に先ほどのように立川たちの後ろ姿を見て、邪魔しないように過ごさなければならなかった。
友人のハレの日の舞台であるこの時間。ミノルは見守りたい気持ちもなくはないが、邪魔したくないという気持ちが勝った。それに鈴木の様子からして自分が友人の心配をしていて文化祭のこの当日というハレのイベントの休憩時間を好きな人と過ごすということを大事にしそうだ。
つまり別のコースを提案して立川たちと別れなければならない。
「どうしようか。立川たちと別にして校舎内から見て回り始める?」
恐る恐る尋ねるミノルに、
「私も立川君たちのことは気になるけれど、確かにそればかりじゃ・・・・・・そうね、そうしましょうか?」
そうしてミノルと鈴木は上の階を目指した。上の階へ辿り着く頃には、一度手を放していた。
「ミノル君。息切れしているじゃない」
「ご、ごめん。運動不足になっている上に緊張して。この階に上がると高確率で息切れするんだよ」
「そうなのね」
「そう。あまり授業以外に上の階まで上がったこと無くて」
「それもそうね。そうだった。あなた帰宅部だものね」
「そうです。晴れやかな帰宅部です」
「ふふふっ」
「さぁ、行こう」
「ええ」
一番上の階は専門の教室があり、音楽室・美術室・理科室・調理室が並んでいる。その教室に関係している部活に所属している生徒たちが学年入り混じって出し物を用意して活動していた。
音楽室では楽器の生音を近くで聞くことができたり、演奏体験も行うことができた。ミノルは試しに金管楽器の演奏を近くで聞く体験をさせてもらって、
「鈴木さん!すごいよ!想像以上だよ。家でテレビから聞く映画などの演奏の音と全然違う。音ってすごいんだね!」
と興奮気味に感動を伝えていた。先ほど手をつなぐのも恥ずかしがって耳を赤くしていたが、今はそのことも頭の中から吹き飛んで、鈴木さんの手を握ってぶんぶんと軽く振ってみたり、腕を組んでもう片側の腕で彼女のその組んだ腕を軽くパシパシと叩いている。
鈴木さんは耳を赤くして咳払いをした。
「あ、ごめん。これでも抑えてこうしたんだけれど。嫌だった?」
「えっ。じゃ、本当ならどうしてた?」
「家族にするように一度くらいは抱きついていた」
「そ、そう」
音楽の部活をしているメンバーで彼らに応対していた女子生徒と男子生徒は目くばせをして、存在をなるべく消すようにして静かに見守っていた。他のお客様へは他の部員が対応しているので少しくらいゆっくりさせても構わない状況だった。
彼らから見て、鈴木と呼ばれた女生徒は、例え抱きつかれてもまんざらじゃないんじゃないかと思えた。現に、口元が少し緩んでいるのか、弧を描いているように見える。
その様子に気が付いた上級生の生徒が、事情を把握すると、鈴木とミノルの前に出てきて、ミノルの肩を掴んでいった。
「そんなに感動してもらえてうれしいから、その喜びを素直に彼女へ表現してみて欲しいなぁ」
存在を消すようにして静かにしていた部員の男女二人は、心の中で、この先輩はこういう人だったと思いながらも、どうなるのか見てみたいと思いつつ、目の前のカップルにちょっと申しわけない気持ちにもなった。
すると、ミノルは先ほどの演奏を思い出したらしく感動を再びしている。そんな様子に先輩が楽器を演奏してくれた部員に再び演奏するように指示を出した。その指示通りに音が鳴り、ミノルの目は輝き始める。その眼差しを見た鈴木は苦笑して、両手を広げてみる。
ミノルは母が手を広げてくれて受け入れたのを発見して最上級の喜びを纏わせる子のように満面の笑顔で鈴木に抱きついた。そして、
「やっぱりすごい!演奏ってあまり生で聞いたこと無かったけれど、こんなに体に音が響いてくるものなんだね!」
と鈴木の眼差しにも臆さずに楽し気に、目を見て楽しくてうれしくてと感動をまっすぐに伝えてくるミノルに、内心鈴木はこんな急展開があるとはと舌を巻いていた。
ミノルは鈴木に感動したことを伝えられてある程度満足したのか、体を離す。それを鈴木は寂しいと思ったことで、先ほどよりも耳を真っ赤にしていた。
鈴木は思った。なんてことなんだ。これほど自分の中でミノルという同じクラスの男子生徒が大きい存在になるとは、と。
ミノルに対して覚悟していなさいと啖呵を切るようにして自分の好きになっているということを相手に伝えて強気に出ていた鈴木は、以前からミノルを観察して分かっていた”素直さ”に心動かされていた。
ミノルはというと、鈴木の顔や耳の赤みを見て、どういうことなのかようやくわかったようで、大胆な行動をした割に顔を赤くして、
「ご、ごめん。思わずはしゃいじゃった」
と鈴木に謝っていた。
「だ、大丈夫よ。問題ない、わ。その、今後もそうしてくれて構わないから」
と鈴木が勇気をもって伝えると、ミノルの眼差しは輝きそして顔を赤くして意ながらにして嬉しそうであった。
「ああ、そうする」
と鈴木の手を繋いでいた。
付き合いたての二人の様子に周りに居た部員やお客さんを含めて、内心よかったよかったと子を見守る保護者のような心持を抱いた。
先輩が言う。
「演奏も体験してみるかい?」
ミノルの顔が明るくなるのを見て、鈴木は促した。
「行ってきたら」
「本当?」
「ええ」
「でも、そうだ。一緒に体験しても良いですか?」
「ええ、木管楽器と金管楽器の音を鳴らしてもらおうと思うから二人一緒でも出来るよ。大丈夫」
と先輩も促す。
ミノルは、「じゃ、いこう」と言って鈴木を促して楽器の音を鳴らす体験をさせてもらう。一度鈴木に音を鳴らしてもらってその間に楽器に耳を寄せて音の響きを体で受けられるか試していたりと楽しんでいた。
「ありがとうございました~!」
ひと通り満足させてもらったミノルたちは音楽室を後にして廊下に出た。
ミノルは言う。
「今は俺が楽しませてもらったから、今度は鈴木さんが気になっているところに行こう」
「ええ、いいわ。ありがとう。じゃ、下の階に行ってみてもいいかしら」
「うん。大丈夫だよ」
「じゃ、行きましょう」
二人は自然に手を繋いで、階段を下りる。
階下に着くと、鈴木はミノルへ進行方向を指で示した。
「あっちょ、と・・・・・・」
「うん。どんなところ?」
「お腹空いたから軽食を提供いている場所で食べようかと思って」
「確かに。お昼食べるの忘れてた」
「ふふふっ。いいのよ」
鈴木の案内でとある教室の前に着くと、温められた軽食、ここでは仕入れて置いた食パンに業務用の二種類のサラダと野菜をその場でサンドイッチにして提供している喫茶店だった。サンドイッチの隣にじゃがいものチップス状のものが盛りつけてある。
飲み物はスティック状の袋に入った紅茶類と暖かいお茶が用意された。お茶は水出し用で、水で濃く出したものにポットのお湯を足して、ホットとアイス両方を提供できるようにしているみたいだった。
鈴木は二人分を注文した。するとあっという間に品物が出てきた。
「後でしっかり払うから金額覚えておかないと」
と言うミノルの様子をほほ笑んでみていると、ミノルは支払い金額を確認して、恐る恐る鈴木を見て聞いてきた。
「その、恥ずかしい話。俺バイトしていなくて。その、割り勘でも良いですか?」
「構わないわ」
「ありがとう。この機会にバイトしてみようかな」
「将来のためにもお金を稼ぐ練習をするのは賛成だけれども、それでおごってもらうのが目的っていうのが、自分としては負担かけているみたいで嫌だわ」
「そ、そうか。確かに素人の新人がアルバイトし始めるとメンタル的に厳しくなって君に愚痴を聞いてもらうようになりそうだ」
「多少の愚痴くらい大丈夫だけれども。どうせするなら自分の将来のために行いたいという目的意識で、自分の将来進みたい道に通じる職のアルバイトに就くとか、アルバイトするにしても目的意識を持って行った方が絶対良いわ」
「お、おう。・・・・・・将来か」
「その様子だと、まだ将来自分がどういう道に進みたいのか分からない様子ね」
「鈴木はもう分かってるの?」
「まぁ、大まかな方向は」
「おう、すごいじゃないか。それだと高校卒業して次どこに向かうのかいくつか候補をリストアップしてるんじゃ」
「そうね。一応簡単に調べはしたわ」
「そうか。そうだよね。鈴木もそうして先に進む道を見据えていてこの学校での生活を送っているんだよね」
「そうね。私には進む道の方向は分かって来たけれど、務めてみて初めて分かってくることもあるだろうし、結局どうなるのかどうしていけるのかは自分次第でもあると思うの。だから今時点で決まってなくても。また、大きな目標から導き出した企業じゃなくても何かのご縁で勤め始めて信頼性を築き上げて自分の居場所を作っていくのもひとつの生き方だと思うわ」
「ありがとう」
「ええ、いただきましょう」
飲み物を先に頂いていた二人は、ようやくサンドイッチに手を伸ばした。
ミノルは卵のサンドイッチを、鈴木はポテトのサンドイッチを手に取りひと口食べた。
「うん、美味しいね」
「ええ、悪くないわ」
「パン生地もふわふわで通常売りに出されているサンドイッチよりもパン生地が厚めで食べ応えあるね」
「確かに」
口の中の物を飲み込んでからお茶を飲んで鈴木は、ゆっくりとミノルに聞いた。
「その今まで感動しても立川君にはあまりああして嬉しさを表現していなかったように思うのだけれど。その、何でって聞いていい?」
「えっ。嫌だった?」
「嫌ではないの。驚きはしたけれど」
「なんだろう。俺もすごく嬉しくなってそうしたくなったというのが正直なところで。家族に昔はああして喜びを表現していたように思う。うーん、それをなんで鈴木さんにできたというかそうやって伝えたくなったかは俺にも分からない。その答えになっているかな」
「ええ。つまり自然とそうしてしまったってことよね」
「そうだね。そうしたくなったし、そうしても良いって許してもらえてすごく嬉しかった」
「ま、まぁ。そ、そうなの」
「そうだよ。一時期は立川に恋愛のことで俺にもそういった相手が居るだろうかってこの学校の人気の女子生徒を紹介してもらって。もちろん本人を紹介してもらったのではなくて、遠くから彼女がうわさの可愛い女子生徒のって教えてもらうくらいで結局誰に恋するとかなかったんだけれど」
「そ、そうなの?」
「そう。いや、一応。何て言うのか高校生として欠かせない青春を飾る分野が恋愛のことでしょう。だから俺にもと思って考えてはみた物の、かといってどうしていったらいいのか分からないし、勇気もいるし、付き合い始めたらそれはそれで持続していくにはどうしていったらいいのかとか考えちゃって」
「考えるだけ考えてみて、頭が疲れちゃったっていうの?」
「そう。たとえ話で心まで疲労感味わったから、当分良いかと思ってたんだけれど。勉強会が嬉しかったのか。今年の文化祭でも休んだとわいえ去年よりも積極的に参加できたと思うし。自分なりに充実していた中で、仲良くさせていただくようになったことで、きっと自分は舞い上がってて」
「それでもいいわ。今日から私とあなたは彼女と彼氏でお付き合いしている仲だということは変わらないもの」
「なんか恥ずかしいね」
「嫌な感じはする?」
「うううん。全然、嬉しいくらい」
「そ、そう!」
ポテトのチップスも食べるミノルは、
「この塩気が堪らないよ」
と鈴木に勧める。すると、鈴木もひと口食べて「本当だ」と言った。
ミノルが記念にと言って、携帯電話を取り出して、鈴木とのツーショット写真を撮り、その後に、鈴木がお茶を飲む姿を写真に収めた。
「どうするの」
「え、どうって。付き合っている相手の写真やその人との写真を撮ってこうして時折眺めたりするものじゃないの?」
「そ、そう。じゃ、私もあなたの写真を、いいかしら」
「ど、どうぞ。どんな写真が良い?」
「そうねそれ食べるように口を開けて」
「そんな瞬間にするの?」
「そう、さあ。お願い」
「分かった」
ミノルは鈴木の要望どおりに食べ物を持って、口を開けて食べようとしている姿でポーズを取ってくれている。それを鈴木は自らの携帯電話で撮影した。
二人笑って楽しんでいる。周囲の客も気にしてないようで、楽しそうに食事をして談笑をしていた。
思いのほかミノル君が鈴木と言う存在を飼い主を求める気持ちを全身で表現するようなわんこな男子になりました。立川には恥ずかしくて抱きつきはしなくても楽しいと訴えてくる姿が目に浮かびます。




