文化祭当日、その日はやってきた
いつもと違う雰囲気というものはいつもと違う自分を引き出すもので。ええ、いつもの印象と違う行動をとる方を見かけることがあるように、その人だけじゃなく、応援し始めて行動に移す人もいるようで。
自分たちの出し物はハロウィン感を出した喫茶店だ。メニューは簡単なもので、サツマイモを使ったスイーツと抹茶ラテミルク味と紅茶の飲み物との組み合わせが出てくる。スイーツも飲み物もいくつか三つずつ種類を用意した。サツマイモはチップスの物と大学芋、そしてスイートポテトだ。飲み物はさきほどの抹茶ラテミルク味と紅茶の種類を二種類。ダージリンとアールグレイを用意された。
アイテム作りの我々チームは、喫茶店の裏側、つまり厨房で注文の品を用意するメンバーに加えられている。客を呼び込むために陽気なメンバーが校舎を今頃練り歩いていることだろう。
体操着であるジャージ姿にマントを羽織り帽子をかぶって準備するのが、とてもイラついてくることにミノルは嘆いていた。
「せっかくのハロウィン使用で楽しんでいるというのに、イラつく自分が悲しい」
「まぁまぁまぁ」
と内田が宥めてくれる。
「はい、出来上がったよ」
「ありがとう」
「こっちもお待たせ」
ミノルはねばつく美味しそうな蜜に絡まった大学芋をさらに盛り付けることに苦戦していたのだった。
「なかなかだな。この蜜。マントに付かないように気を付けながら蜜をこぼさぬように盛り付ける。くっ。修行か?」
「か、変わろうか?」
「ありがたいが、もう少し頑張るから応援してくれ」
「わかった」
困った顔で笑って受け入れる内田に、もう一度「ありがとう」とミノルが言って、他のスイーツを注文しろと念じていた。
そこにやってきた鈴木と立川そして井岡が、お疲れ様と言って、校内で売られているジュースを購入してきてくれた。
「お疲れ様です。これ、どうぞ」
「有難い!」
「あはははは」
何を飲むのか事前に聞いてから買い出しに出ていたので、自分の注文の品を真っ先に探しに行くミノルの姿に、みなが驚いて、本当に美味しそうに飲む姿に、そうとうイライラしながら作っていたことを周囲の人は悟った。
「上手い。世の中本当に便利だよな」
とミノルが言うと、
「ま、そのためにも俺たち維持していこうぜって動くことになっているけれどな」
と立川がいい、
「まぁね、幾分かはね。そうだろうね」
と井岡が同意をした。
「そうそう。全てではございませんってね」
「そうそう」
と鈴木と内田が同意する。
「がんばるぞ」
と小さく意気込むミノルに鈴木と内田は苦笑した。
「そんなにマントが気になるなら、脱いだら」
と鈴木が提案すると、
「それじゃ、俺のハロウィン感が低下するだろう」
とミノルが反論する。
「仕方ないですね」
と衣装を準備したメンバーのひとりが現れて、マントを片側にかけるようにして、マントの端と端をとめて繋ぐ紐を付けて、マントが前に垂れてこないようにした。
「雰囲気を保たもちつつも物語の騎士か貴族のような装いを彷彿とさせる」
「素敵ですね」
と内田が褒めると、
まんざらでもないようで、あつらえたメンバーが嬉しそうに、
「コスプレする予定があるなら相談に乗らなくもないかなぁ」
と言って去って行った。
「どう?」
と鈴木が尋ねると、ミノルは。
「おう、これなら動きやすいし、他に気をあまり向けなくても済むし、いいね」
「それならよかった」
「そうだね。続き一緒に頑張ろう」
「俺たちも俺たちも帰ってきたから俺たちに任せろ」
「おう!ありがとう!」
ミノルはとても楽しそうだ。教室の前でいらっしゃいませという声とともに教室内でもいらっしゃいませと声がすると、
「いらっしゃいませ」
と声を出している。
立川がミノルに聞いた。
「バイト初めて?」
「そう、これが初めて」
「バイトって、学校の文化祭の出し物よ」
「そうなんだけれど、こういうことあまりしたこと無くって」
「そうなの?」
「俺の幼い頃は家に客人も来ている日もあったんだけれど、大きくなってからはあんまり。今は菊池くらいかな、うちに来るの」
鈴木はためらいがちに、訊いた。
「その菊池さんって」
「ああ、妹のサクの友人で母さんにあこがれを抱いている我らの一つ下の学年の男子生徒だよ」
「そ、そうなの?」
「そうなんだよ。朝起きて下に行くとたいていもう居て朝ごはん食べてる。今じゃ兄弟が三人になった気分だよ。しかも出来た弟で、成績が俺の一年の時よりもいい点数取っているんだ」
「そ、そう」
鈴木も立川もミノルのテストの点数を知っている。一年の時も似たような成績だったのろうだと想像していると、立川が、
「俺くらいか?」
と聞くと、ミノルは一瞬考えてから、
「立川と井岡の間くらいかも。そもそも百点のテスト用紙が必ずあるんだあいつ。すごいよね。ただ英語は立川くらいだった気が。あんまり覚える気になれないんだって言ってたかな」
「そ、そう」
内田が茶化して言う。
「ひとつ屋根の下。可愛い弟分を恋の相手と思い始めた自分の頭と心に戸惑い」
「なんだよ、それ。それは無いよ。そもそもあいつの頭の中には俺たち兄弟よりも母さんが一番だぞ。サクが二番目か、父さんの後の三番目で、その次くらいに俺じゃないかなぁ。もしかして猫より下だったら嫌だなぁ」
「ははは、そうなんだ。ご両親のことが好きなんですね」
「ああ、うちの雰囲気が好きらしい」
「そ、そう」
「私たちもお邪魔しても怒られないかしら?」
と内田が言うと、ミノルが、
「なにしに来るんだよ。もてなすにも映画鑑賞か携帯ゲーム機くらいしかないぞうちには」
「ははは。行ってみたら今度」
と内田は鈴木に言った。
「えっ。私?」
「そ。勉強教えているんじゃないの?自分の家とか彼の家とかでもいいわけでしょ」
「それはそうなんだけれど」
「それもいいけれど、明るい内に終わるようにしないと、俺終わった後に鈴木さんを家まで送るの良いけれど、あんまり遅くなるといけないから。そこらへん気を付けないと。第一図書館よりも鈴木さんが気を使って疲れてしまいそうだし」
「つ、疲れないわよ」
「そう?」
「そう」
「ふふふ」
「内田それくらいにして、この注文頼む」
と井岡が内田に言った。
「ごめんね。わかった」
と内田が注文の品を用意し始めた。
それをきっかけにすずきもミノルも注文を用意することに集中し始めた。
客足は上々で、それなりに忙しく準備をする彼らに、別のメンバーから声がかかった。
「順番に、一時間の休憩取って来て。その間こっちからもメンバー参加させるから」
「わかった」
「じゃ、鈴木。ミノルを案内してやってくれ」
「なぜ私が」
「何故って、どこに何があるのかお前がこの中で一番知っている上に、保護者出来るのは立川とお前くらいだろう」
「あなたもできるでしょう」
「俺は、立川と回らせてもらうよ」
「立川はあの子と回ったらいいんじゃないのか」
とまたミノルは立川のことを言ってしまった。
「おまえをほっぺをつねってやりたい」
と立川が言うと、
「そういう反応だから、そういう存在が居ることバレてるよ」
と内田に言われて、立川のみみが真っ赤になった
以外にも井岡が「作戦立ててみるか?」と言った。メンバー全員が頷いた。こちらに声を掛けてくれた他のメンバーも一緒に頷いている。
「相手はこの事を知らないんだぞ」
と焦ったように立川が言うと、
「一緒に回ってくれませんか?とか途中まででいいので一緒にいいですか?とかアピールしてみたら」
という内田の声に、「なるほど」とミノルが良い、「内田さんいい案だ」と褒めた。
「確かに青春の一ページにはなりそうね」
「成就じゃないのかよ」
「それはアピールもしてない段階の者が望むものじゃない」
「うっ、い、痛い」
「確かにね」
「そうだね」
「よし、それなら。こっちのメンバーと交代してもらって、一緒に休憩行ってこいって俺が言おう」
と他のメンバーが買って出てくれた。
今日一番の「よっしゃー!」という声が内田とミノルから聞こえた。鈴木も立川の肩に手を置いて「頑張れ」と応援すると、「お前もな」と立川は返した。
立川の意中の相手は接客をしていた。その彼女の傍に立川を連れて現れて、
「こいつと一時間の休憩行ってきてくれ。うちのメンバーひとりここに追加するから」
「えっ」
「嫌でなければ」
と立川が言うと、顔を赤らめた女子生徒が「は、はい」と言う。近くに居た女子生徒が、彼女からお盆を受け取ると、「さぁ、行った行った」と二人を送り出した。
立川は意を決しているのか、早速彼女と手を繋いで歩き始めた。
ミノルと井岡が後ろから見送る。二人して、「おお」と感心していた。
すると、鈴木がミノルの手を掴み、
「私たちも休憩しに行こう」
と歩き始めた。
「あ、さ、財布」
「立て替えておいてあげる」
と鈴木は言って前を向いて歩き始めた。ミノルは少し不思議そうにしながらも、鈴木を自分の保護者としてと言ってからかった井岡がそういうのもきっとテスト用紙を見て勉強を教えてもらう自分たちの関係性から来るものだろうと思った。
しかし、鈴木の耳もほんのり赤いことに気が付いた。
ミノルの足が止まった。
それにつられて振り返って止まった鈴木はミノルを見て、目を見開いた。ミノルの顔が真っ赤になっている。そういう意味で意識しているに違いないと鈴木は思った。
「あ、あの。もしかしてなんだけれども」
「そ、そうよ。悪い?」
「悪いって言ったら俺が俺を卑下したことになるじゃないか」
ハッとした鈴木は、楽し気に笑った。
「そういう切り返しをされるとは思わなかったわ」
「本当に?」
「そうよ」
「どこが?」
「どこって」
「それはおいおい教えていくから覚悟しておきなさい」
「えっ」
「さ、行くわよ。一時間しかないんだから」
再び歩き始めた二人は、ほのかに耳を赤くして、ちらちらと相手を見ながらおしゃべりをして歩いていく。
その姿を目撃した井岡は、自分が思い描いていたよりも恋が成就しているようでビックリしつつ、これもそういう場面に出くわした幸運のような気がして、幸せをありがとうと心の中でしっかりと自分の青春の一ページに刻んだ。
男立川も後に引けずに勝負に出たようで。鈴木の気持ちを知ったミノルも意識をし始めたようで。だんだんそんな彼らを見守るような立場となった井岡が本当に先生や大人のような立場になってきてしまっているようで。自分の中では行動の内容がオッサン化してきてます。すくなくとも実用書とかの紹介動画見ている学生に思えるからなぁ。




