母の存在
こちらがエピソード22です。二つのエピソード書き上げていたのだった。忘れてました。
「ミノルお帰り。ちゃんと渡せた?」
「ん?・・・・・・あっ!?」
家に帰ったミノルは、母親からのひと言で、自分が三人へのお礼の粗品を購入してプレゼントすることを忘れていることに気が付いた。
小春の呆れた表情をしつつ、
「お礼の言葉くらい送っておきなさい」
「そうする」
と言って、ミノルは鞄を持って二階の自分の部屋へと向かった。
自分の部屋で鞄から携帯電話を取り出して、三人へとお礼の言葉を送る。そうして、三人へと贈るプレゼントに何を用意しようか、検索し始めた。
途中、妹のサクが現れて、女子に人気の物や男子にも受けがいいものを選んでくれた。サクと自分用にももうひとつ選んだ。
次の休みの日にそれを買い求めるために出かける。すると、珍しく朝から来ていた菊池とその菊池と携帯ゲームをしていたサクが一緒に付いてきた。ついでのように母親から買い物も頼まれた。
三人で大きな駅へ向かう。百貨店へと辿り着くと、観光客のように何階にどんな店舗があるのかが書かれた案内図の前で、目的の店舗の階数を確認する。
「サクと俺の分もひとつ買って一緒に食べようと思っているんだ。よかったら菊池も一緒に食べよう」
「ありがとうございます」
「ああ」
エレベーターで目的の階へと赴いた三人は、目的の店舗の名前をマップで探す。便利なもので、訪れた階の店舗名が、その階のフロアの様子がわかるようなマップが作成されており、店舗名も書かれていた。
「あっちだな」
「そっちからもいけますが、こっちからの方が結果、近いです」
と菊池が言うように、ついて歩くサクとミノル。
しばらくすると、菊池が、場所を開けるようにして、
「どうぞ、こちらです」
と二人を案内した。
「おお」
「わぁ」
「流石だ」
「朝飯前です」
「ああ」
ショーケースに視線を向けて目を輝かせているサクの横にミノルと菊池が歩いて近づくと、
「ああ、これこれ」
と兄のミノルの袖を掴んでサクが勧めていた品物を示した。
「ああ、本当だ」
明らかに学生である三人に、笑顔で、
「いらっしゃいませ」
と挨拶をする店員の女性の眼差しに、真心とお母さん根性を見た気がしたミノルは、品物の名前と箱の大きさを説明する。そして女性店員の方が、
「こちらですね」
と示すものに、頷き。
「それをふたつ。それから同じサイズで、桃色の箱の装丁のものをひとつ」
「桃色はこちらになりますが」
「確かにそれだ。これをひとつ。もうひとつ同じサイズのもので黄色い色の物をひとつ」
「それですと、こちらですね」
「ああ、それをひとつ頼みます」
「贈り物用にそれぞれ紙袋をお付けしましょうか?」
「お願いします。黄色い分は自分たち用なので、付けてもらえる紙袋三つ分で宜しくお願いします」
「はい、承知いたしました。少々お待ちください」
店員の女性がそれぞれの種類と数を取り出して用意してくれた。それらについての賞味期限や保存の仕方について説明をしてくれた。
頷いてミノルが、お会計を済ませられるように、鞄から財布を取り出す。女性定員が値段を確認していただきながら、レジで会計をしてくれた。
母親から預かっている現金を使用して支払いができた。お釣りをもらい、品物を受け取り、お礼を言って店を離れた。
「次は、小春さんに頼まれた買い物ですね」
「母さんへの尊敬のまなざしについて知っているが、名前呼びなのか?」
「さん付けしているくらいだもんね」
「サク。一応、ここは苦言というものを呈しておくべきじゃないか」
「なるほど。尊敬以外に想いがあるの?」
「親に求める母性や頼りになる、それこそ肝っ玉の据わったおっかさんとかそういうのじゃないのか」
とミノルは先ほどの店員の女性の眼差しを思い出して言った。
すると、菊池は、
「憧れはあります」
と照れて言う。
「菊池は良い奴で好きだが、俺の父親は、今の父親ひとりで十分だ」
「私も菊池は一緒に居ても苦にならないし、楽しい時もある。だけれど、菊池は大切な友人であって、新たな父親にとは考えていないから」
「そこまで言われると、嬉しいやら、寂しいやら」
「なぜ寂しがる」
「いや、距離を感じて」
「今まで通り、俺たちの家に訪れて母さんに相談とか報告とかしたらいいし、ご飯も食べたらいい。それにサクや俺とも遊んで帰ったらいい」
「そうだよ。時々泊まったりしてるんだし」
ミノルはリビングのソファで猫と一緒に横になって休んでいる菊池の姿を見たことがある。その時は、ミノルの新しく買っておいたパジャマ等の服の中のものから選んでそれを使わせた。それから母さんはお泊り用ともしも用で菊池と一緒に服とパジャマを購入して、それを使っている。
一度使われた上下の服も菊池用として家に置いてある。
「菊池がうちに来るようになってから、もうかれこれ一学期も過ぎて二学期のあと一週間くらいしたら半ばだぞ。気にすることはない」
「わ、わかった。あまり歓迎されているようにも感じないけれど」
「何言ってるの。すごい歓迎しているって」
「そうかい?」
「そうよ」
「ああ、間違いない」
菊池は、お礼を言いつつ、マップを見て、次に目指す店舗へと二人の兄妹を案内して満足げにしていた。
母親に頼まれた買い物も普段お世話になっている動物病院の先生へのお土産と友人のための檸檬を使った洋菓子を購入するというものだった。
それらも難なく進められていく。
菊池の手にひとつ。サクの手にもひとつ。ミノルの手にもひとつ。それぞれ紙袋をひとつずつ持って移動する。
「この後どうするんですか?」
ミノルは時間を確認する。時計は十一時を示そうとしていた。
「お腹すいたね」
というサクの言葉に、ミノルも、
「少し早いけれど、お昼にしようか」
と提案し、サクは賛成した。すかさずミノルが言う。
「菊池の分もあるから」
そう言って、鞄を示した。
「えっ?」
驚く菊池に、
「母さんから菊池の分のお昼ご飯代もらい受けておると申しておる」
と何故か殿さまのようなセリフ回しで菊池に告げると、菊池もその流れにのってくれて、
「ははぁ。ありがたき幸せ」
「母さんに後で礼を言うと良いよ」
「ええ、そうします」
「じゃ、どこで食べる?」
というサクの問いを、ミノルは、「菊池はどうしたい?」と菊池にゆだねた。
菊池はびっくりしつつ、頭に思い浮かんだ店舗の話しをする。百貨店の上階にあるレストランだった。
「理由を聞いても?」
「たまたま見かけたテレビで紹介されていたんです。そこで紹介されていたクリームシチューが美味しそうで」
「まだ十月の半ば過ぎだから、クリームシチュー置いているか分からないけれど。一度そこにいってみようか」
「うん!」
「やった。付いてきてみるものですね」
「ああ、行こう」
三人は住所を頼りにレストランが入っている百貨店をまずは目指した。歩いて十分とすこしくらい離れたところにあった。
その店舗に入ってすぐ、出入り口の傍に、店舗の案内図が書いてあった。そこでまた何階にレストランが入っているのか確認して、上階へと向かった。
「何故かドキドキします」
「ははは。そんなに楽しみなら良かった。菊池に聞いて」
「そうだね。私も食べてみたいと思っていたところだから嬉しい」
「そうなのか。楽しみだなぁ」
上階に辿り着いた三人は、店舗の場所まで移動する。乗って来たエレベーターからすこし歩いて移動した場所にそのレストランはあった。
ごはん時だからか、もう既に何名かの客が並んで待っている。並んでいる先頭の客のそばに名前と何名の客か記入するものが設置してあった。そこにミノルが書き込んでいった。
菊池はサクと一緒に居てもらった。書き終わってから後ろに並ぶ。一応並んでおこうと並んでいるのか、列が出来ていた。
メニューのサンプル食品を眺めるふたりの眼差しは輝いていた。ショーケースのサンプル食品を綺麗に見せるために照らされている照明の明かりが眼差しを輝かせても居たが、きっとそれが無くても二人の目は輝いていただろう。
「決まったか?」
「クリームシチューあるみたいです」
「おお、俺は何にしようかなぁ。サクは?」
「私は、これか、これ」
と大きなエビフライの乗ったグラタンと蟹クリームコロッケのセットと迷っているようだった。
「じゃ、俺はビーフシチューにしてみようかなぁ」
「洋食の王道ですね」
「そう、一番肝心なもの」
「ははははは。誰が決めたの?」
「でも、ここの店初めてだし、定番で王道いっておかないと」
「なんのために?」
「そりゃ、王道のビーフシチューというものを学ぶためだよ」
「家のビーフシチューは牛肉の小間切れだったり、豚肉の小間切れだったりとバリエーション豊かだもんね」
「わるいわけじゃないむしろそれはそれで美味しいんだけれど、一般的に言われているものを味わっておきたくてさ」
「なるほど。その心分かる気がします」
と菊池の賛同を得た。
「ははははは。母さんが聞いたら”悪かったわね”って言われるよ」
「うん。ごめん。母さん」
レストランで名前を呼ばれた頃には、サクもどのメニューにするのか決めたようで、席に着くなり、
「注文していくよ」
と率先して進めてくれた。
注文した物は、十分も経たないうちにやってきた。どれも美味しそうだ。サクが選んだメニューはエビフライのグラタンだった。
それぞれ、「いただきます」と言って、食べ始める。
いつも以上に目の前の食事に集中して嬉しそうに食べている。母親の小春の料理ももちろん美味しいのだが、あまり家族で積極的に外食をする方ではなかったこともあって、兄妹は特に楽しそうだ。そして菊池はというと、金銭的な面からもこういったレストランでの食事を控えている家で、極たまにの頻度ということもあり、菊池もとても嬉しそうだ。
ミノルはサクはもとより菊池がとても嬉しそうな姿を見て、連れてきてよかったと。朝、菊池が家に居るのが分かった時点で、サクと共に買い物に誘ってよかったと思った。
母親の金銭的な協力にも心の中で感謝しつつ、ビーフシチューを頬張る。
「うーん!う、美味い。いえ、美味しゅうございます」
「ふふふ。ええ、美味しいです」
「そうですね。あとは、美味でございます」
三人は楽しそうに笑って食事を済ませて、会計はミノルが行った。そして会計が終わると、三人で、
「母さんありがとう」
「母さんありがとう」
「小春さんありがとう」
「うん、やっぱりそこは、おばさんとかの方が俺的にはしっくりくるね」
「そうだね。小春おばさんとかそういう呼び方でどう?」
「いえ、ここはあえて小春先輩で」
「先輩付いた!」
「冗談ですよ」
「ははははは」
「もう、冗談だったのかよ」
一頻り笑った後に、ミノルが言った。
「じゃ、家に帰るか」
「うん」
「ええ」
三人は帰路に着いた。
後日。平日の学校のある日にミノルは鞄と紙袋を持って学校へ行って、無事に勉強会を一緒に行った三名にお礼の粗品を渡しました。
「母親からのお礼でもある」
と言って、受け取ってもらったミノルも鈴木も井岡も立川も照れて受け取って、
「くれぐれもお母さまにありがとうございますとお礼をお伝えください」
と宜しくと言っていた。
お礼の礼儀作法を学んだミノルだった。




