実は初めての
勉強会の当日のお話しの前編です。勉強会自体はまた次回になります。
文化祭の日まであとわずかの休みの日。この日朝からミノルは丁寧に髪を整えて、何を着て行くのかを選び出して、鏡の前で入念にチェックをしていた。
「朝早くから出かけるの?」
「ああ、それが。立川が図書館行く前に店に立ち寄りたいから付き合ってって。その後にみんなと図書館で合流する予定」
「ああ、それで。何か奢るとでも言われたの?」
「いや。ただ友人として学校以外で会うなら、ショッピングとかお出掛けようそも加えたらいいかって」
「なに、それ。もう、まったく。お礼いいなよ、その相手の立川さんって人に」
「お礼って、おおげさな」
「言っておけばいいことあるのよ」
「子供か?でも、言っておくか」
「そうそう」
「ありがとう」
「そうそれ。私にじゃなく立川さんに言わないと。そうだ、休日に図書館で勉強会を行おうって言ってくれた、鈴木さんだっけ。その人にもお礼をって、何か粗品ですけどって渡したらいいよ。その立川さんがどこに行くのか分からないけれど、そういったお礼の粗品を購入できそうなら、買っておいて、勉強会終わって後日で良いから渡しなよ。ありがとうって」
「な、なんか。恥ずかしくなってきた」
「いいからいいから。私からも母さんに伝えておくから」
「えっ」
「こういう時のお礼の資金をお願いしたって怒られることはないよ」
「そうかなぁ」
「そうだよ」
「私行ってくる」
そう言うとサクは母親のもとへかけていった。
制止する手は宙をかき、口は開いたままになった。
「はぁ。何だか大ごとになってきたなぁ。どうしよう」
粗品を渡してお礼を言うことを想像してみるだけで緊張してきた。普通に会話もして帰った仲だ。普通に話せる。そう、普通に話せるのだ。
今日、会って教わるのだからしっかりしなければ。
「ああ、そうか。自分の成績の悪さ以上に、教科のどこで何に躓いてしまったのか苦手意識があるのかが相手に知られてしまうのが恥ずかしいだけかもしれない。だから、今日こんなに朝から緊張してるんだ」
そう考えが至ると、先生と生徒のような立場になって教わるのだから、ここはアルバイト大学生にでも教わる塾生の気持ちで挑むしかない。
うん、そうだ。そうしよう。
それにしても立川は店と行っていてどんな店とは具体的に伝えてこなかった。ショッピングと言っていたし、少しプラプラ歩いて何店舗か見て回るのかもしれない。
財布に多めにお金を入れておく。それでも飲食代と三千円程度だ。何か良いものを見つけたら金額関係なしに即買いするほどにお金持ちじゃない。故に、これくらいでこと足りるだろうと思った。まさかもう少しあった方が良いのか?
ちょっと悩んだ末に、勉強会の後の友人としてのお付き合いの時間があるならばと考えて、五千円札を追加して財布に入れた。
「万が一を考えてで、入れただけだから。使わないなら使わないでオッケーということで」
財布と携帯電話そしてハンカチを入れて、
「後何がって、勉強道具いるんだった。返ってきたテストと教科書とノートと。後筆箱。って、結構な量だなぁ。ダメだ。いつもの通学用のカバン使おう」
教科書などが多くて入りきらなかったし鞄が辛そうだった。
そうしていつもの通学用のカバンにしまい。身支度を整えていると、下から声がかかった。
部屋の時計を見て、
「あ、やばい!」
ミノルは鞄を持って、部屋を出た。
階下に降りていく。降りるとサクが話をしてくれたのか、母親の小春が手に財布を持っていた。
「話は聞いたわよ。お相手の方にお礼の品を渡しなさい。特に教えてくださった方に」
「今日?」
「それくらい自分で考えなさい」
「わかった」
「それで、一応、えーっと三名の方との勉強会でしょう」
「そうだよ」
「それなら、その三人に同じお菓子の粗品を購入して自分で渡すのよ」
「わかった」
「これはそのためのお金」
そう言って小春はミノルに一万円を渡した。
「こんなに?」
そうよ。これで三人に渡せるように買い物するのよ。お釣りもレシートと共に一緒にお母さんに渡してちょうだい」
「ああ、そういうことね。びっくりした。金額が大きいから」
「千円札の持ち合わせが今なくて」
「そういうことだったのか。わかった。ありがとう母さん」
「いいのよ」
「サクもありがとう」
「うん」
ミノルは朝ご飯を食べるのもそこそこに、
「じゃ、行ってくるよ」
と言って、鞄を背負って、家を出た。
いつもの道がいつもと違う。どこかそわそわする感じもまだあるが、それをワクワクしていると思うようにして、意識して景色を時折見てから歩く。すると落ち着きを取り戻してきた。
学校に近い駅前に着くと、立川が私服姿で立っていた。彼も教科書が多かったのか通学用の黒い大きなカバンを背負っていた。
安堵してミノルは立川に駆け寄る。
「おまたせ」
「ああ、それは付き合っている女子に言われたい」
「はははははは、なんだ、朝から。そんな身もふたもない。侘しくなるだろう。今日は自分たちの親睦のためにこうして待ち合わせたんだろう」
「そうだな。そうだ。それじゃ、買い物したい場所方面にとりあえず歩こう」
「わかった」
二人とも楽器を習っているわけでもないが、楽器店のショーウィンドウの前でまじまじと楽器を眺めて、
「すごいなぁ」
「弾いたことあるか?」
「ないよ」
「俺も。触ったこともない」
「ははは、右に同じ」
そう言っては店の前を通り過ぎて、ショッピングを楽しんだ。
ファンシーショップ店もあったが、ふたりともそちらにはあまり興味がない。ただ立川は妹が居て、
「妹にせがまれた物があるから付き合って」
と言って、ミノルの手を掴んで店内に入っていく。男二人が店内に入ることに戸惑いを覚えるものの、幼い時に母親が購入して与えていたカップなどに描かれていたキャラクターを見て、
「懐かしい」
と喜ぶミノルに、構わず頼まれた物を探し出して会計を素早く済ませて、またミノルの手を掴んで、
「終わったから出よう」
と店の前の道に出た。懐かしんでいるミノルの顔は、どこか幸せそうな目の輝きをしているようで、立川は思わず、
「お兄さんが、その懐かしいキャラクター物のアイテムを購入してあげようかなぁ」
と妹に対するように声を掛けると、ミノルの輝いた眼差しがさらに輝いて、個を描く。
「恥ずかしいから要らない」
いつも以上に正直に幼さを見せるミノルに、鈴木よ今この笑顔と眼差しをお前に見せてやりたいと思った。
兄心のようなそんな気持ちを落ち着かせる。
「次行こう!」
ミノルの掛け声に、
「ああ」
と言って、移動する。
洋服店に入って、立川が、
「靴下買いたいんだよ」
「そうだったんだ。でもなぜ今靴下?」
「それが、夏休みに買っておこうって考えていたんだけれど」
「忘れたと?」
「そうなんだよ」
「立川もそうやって忘れることあるんだな、俺安心した」
「安心するな。この後お前へ勉強を教えるって話しなのに」
「まぁ、それをいうとそうなんだけれども。そう、けれども、なんだよ」
「ああ」
生返事のような答えに唇を尖らせる。立川は靴下を見て選んでいる。他の商品を見て回る。サッと眺めたのちに、立川のところへ向かい靴下を見た。
「いつものあった?」
「いつものと違うのも取り入れようかと」
「寒くなるから?」
「そういうことでもある」
「そう、俺もこのセットの買おうかなぁ」
「そうか」
「うん、そうする」
他のをまた見てからミノルは会計を済ませる。立川もその頃には五足分持っていて、会計を済ませていく。
「そんなに買うの?」
「ああ、去年の秋冬用だいぶ痛みが来てて」
「それで」
店員の方の「ありがとうございました」という満面な笑みで送り出された二人は、時計を見て確認をする。
「まだお昼には少し早いか?」
「うーん。でも今のうちからどこでお昼食べるのか決めておいて」
「ああ、席の確保して間に合うようにってことか」
「そうそう」
「なるほど。では少し早めだけれど、飲食店が多く並ぶ方に向かって歩こう」
「おう」
飲食店はファーストフード店や下町中華店や喫茶店、そしてカフェもあった。どんな店があるのか確認している間にけっこうな時間が経っていた。
「もうあれから三十分も過ぎてる」
「はやいな」
「うん。どうする?おれはファースト店が良い」
「じゃ、そこにしよう」
「オッケー」
ファーストフード店に入ると、このシーズンの一押しメニューが大きくレジカウンター上に表示されていた。それを目で確認した後、注文するレジに並ぶ。もう他のお客さんが列を作っていたのだ。長さは男性の背丈くらいには長いだろうか。
「もうこんなに人が居る」
「こんなもんだろう、休日だし」
「確かに」
どれにするのか大まかに決めて並ぶ列の前の人に会わせて少しずつ移動した。五分くらいしてからだろうか、自分たちの番になった。
「立川、先に買えよ」
「分かった」
立川が注文している間に、メニュー表を確認する。
確認している間はあっという間で、レジの人と目が合う。まるで”じゃ、予定通り次は君の番”と思いを伝えられているようだった。
決めていた商品を伝える。パテ二つのバーガーとポテトと飲み物はいつものものだ。バニラのアイスも付けた。
「バニラはご一緒に?」
「はい、一緒で」
「はい、バニラはバーガーと一緒で」
「ええ、それで」
「承りました」
会計を済ませて、注文番号が書かれた札を持ち、出来上がるのを待つ。ファーストフード店という名前を冠するだけあって、とても早く出てくる。自分たちよりも前に注文していた人たちが受け取っているのを見て、次は自分たちの番だ。近づいていると思うとミノルはわくわくした。
番号札の番号が呼ばれた。初めは立川の、次にミノルのものも出来上がって番号が呼ばれた。
購入した商品がのっているトレーを受け取り、立川と一緒に席を探す。ちょうど二人の席が空いているところがあった。
「あそこにしよう」
「オッケー」
学校よりも嬉しそうに感情を表すミノルの姿に、これは今日ここに鈴木を連れて来ればよかったと立川は思った。
そして、店内で楽しそうに嬉しそうにバーガーを頬張るミノルを鈴木の代わりに堪能し、自身も楽しかった立川だった。
素早く立川は携帯電話を取り出して連絡先を聞いていた鈴木へと、送った。
”ミノルと早めに待ち合わせてショッピングしている。ランチはファーストフード店で。時折幼い子供みたいに笑っているぞ。鈴木の代わりに堪能しておく”
と。
学校だけで会ってしゃべる相手との初の休日一緒にショッピングでした。




