ミノルに仲間が増えた!
青春。テレビのような青春は、自らが起こしていって行っていくことで成立する。もちろん賛同して一緒に行ってくれる友も大切な存在だ。
と青いこっぱずかしいことを書きました。そうです。そんな様子をお届けできていればと思います。
文化祭の準備も佳境に入ってきた中、立川とミノルは一緒に帰ろうとした教室を出た時。ちょうど後ろに鈴木と井岡も教室を出るところであった。
ミノルが立川に言う。
「一年の時よりも文化祭の準備積極的に参加できていると思う。ま、熱出して数日休んでしまったけれども」
「そうだな。たしかに。一年の頃は率先して進めてくれるメンバーが居たからその分言われたことをこなしていくって感じだったもんな」
「そうそう」
ミノルが立川に視線を向けようと少し振り返った時、自分たちの後ろに井岡の姿が見えて、井岡に声を掛ける。
「井岡だ」
「なんだ?」
「結局確認係だけじゃなくて、俺の分のアイテム作りにも参加してくれたみたいで。ありがとう」
「ああ。お礼は受け取っておくが、同じ立場になった者は大抵そうするんじゃないのか。遅れたらクラスの人間に怒られるのは俺たちだからな」
「ま、確かにそうなんだけれど。鈴木さんから聞いてさ」
「ああ。なるほど」
と井岡は斜め後ろを歩く鈴木の存在に気が付いていたらしく。そちらへ顔を向けた。井岡の視線に気が付いている鈴木が、目で「何よ」と訴えている。
そんな二人の訳知りのような関係性を感じ取ったミノルは、内心井岡と鈴木が付き合っているのではないのか、と勘違いをした。そうして自分もそういう相手ができて三年生の受験や就職に向けて活動するシーンで、なんとか両立させながら・・・・・・。
頭に忙しくして優しい声を掛けられない自分を想像したミノルは、相手に申し訳ないと感じ始めて、恋が始まっていないこの状況は神の思し召しかもしれないと。仏教の家だが、神へと感謝をしていた。
自分の試練で相手を巻き込まないのが一番だ。そう考えているミノルには、鈴木の想いに気づきそうになかった。
ミノルのこの考えが見えているわけじゃないにしろ、立川と井岡の視線が合った時、お互いがお互いにこれは俺たちがもう少しおぜん立てしなければ発展しないどころか気づいてもらえないという考えていることが通じ合った。
頷く二人。立川がミノルに言った。
「鈴木さんをエスコートして帰れ」
「えっ。エスコート?」
「そうだぞ。たまには鈴木をお姫様扱いしないと機嫌が悪くて、文化祭の準備に支障が出てくる。そこで熱を出して休んでいたお前の出番だ。疲れてストレスたまっている俺たちがエスコートするよりも、休んでリラックスしている君の方が適任。家までとは言わないから、途中まで労いながら一緒に帰ってあげて欲しい。鈴木も準備の時間なかなか忙しくてイライラして疲れていてな」
と井岡がすらすらとまことしやかにミノルに告げる。
「俺のせいで」
とミノルは鈴木に申し訳なさそうな表情を向ける。鈴木はにっこりと笑顔を向けて言う。
「井岡君そんなに気を使わなくてもいいのよ。私だってもう高校生なのだから、自分で対処していけるわ」
「どうだか。遠慮することはない。せっかくのこの機会ものにした方が身のためだと思うが」
「ん?」
ミノルも不思議そうに井岡を見て、言う。
「喧嘩してるのか?」
「ミノル」と井岡がミノルの肩に手を置いて首を横に振る。
「ああ、そうか。犬も食わないもんな」
「そう、犬も、・・・・・・って。おまえ」
立川がミノルが勘違いしていることに気が付いて、思わずミノルに呆れ、またそんな勘違いをされている鈴木を憐れんだ。
立川は井岡や鈴木にも聞こえるように言う。
「いいかミノル。この二人は仲は良いが、別に付き合っているわけじゃない」
「あ、ああ。そう。そうなんだ。てっきり」
「えっ?!」
「ああ、やっぱり」
鈴木は焦ったようにミノルに近づいて、訴える。
「私は井岡と何でもないから」
「そ、そうなんだ。ごめん、勘違いをして」
「う、うううん。分かってくれたのならそれで良いから」
「ああ。分かった」
「良かった」
「鈴木。ここは親睦を深めると思って」
「だから」
「これは個人的な問題だけじゃない。俺たちメンバーの中で数日休んでいたことによってミノルとの距離を感じている者も居よう。その違和感を払しょくするためにも我々が意識して親睦を深めた方が我々のためでもあるし、彼のためでもある」
「そこまで言うなら、この四人で途中まで一緒に帰りましょう」
「う」
「そうだな。それで良いならそうしよう」
と立川が鈴木を見ながら同意した。
「いいわ」
「よし、決まりだな」
と立川が楽しそうに、
「ファーストフード店寄ろうぜ」
とひとり鼻歌でも歌いそうにご機嫌だ。
そんな立川にミノルは思った。
もしかして自分が休んでいる間に、立川は立川の想い人との間に進展があったのだろうか、と。
それでこうして浮かれているのではなかろうか。こういった時、いつもなら静かにフェードアウトすることを考えそうなこの男が、一応乗り気である。
後でこっそりそのことを立川に聞こうとして、いや聞く前に自分がそのことに気が付いていると立川が気が付いていないことに気が付いた。
なんだかややこしいなぁ。今の文章。
たのしくなったミノルは立川と一緒に鼻歌を歌い始めた。
「何それ?」
と聞く鈴木に、ミノルは笑顔で言う。
「なんかたのしくてつい。歌についてはいつだったか見た番組の歌だったと思う」
「ああ、子供の頃の歌番組のオープニング曲だよ。出演者全員出てきて歌うんだ。毎回」
そう説明をする立川。懐かしくて嬉しそうにミノルが、
「そうそう、それ!」
と立川に言い、そして鈴木の手を取って、立川の手を取って、鈴木に伝える。
「こうして出演者がみんなで手を繋いでリズムをとりながら歌うんだ。マイクはスタンドマイクが数本彼らの横並びの前に等間隔で置かれていて。声量があって上手い人ほどマイクに音がのっていて」
「そ、そう」
「あれ、見てなかったか?」
「ええ、知らなかったわ」
「そうなんだ。みんな仲良さげにして笑顔でさ。いつも明るい笑顔なんだ、それが嬉しくてさ。楽しそうに見えて良いなぁって思ったもんだ」
井岡が後ろから言う。
「そういうのは、参加者全員がそうありたいと願って自らそうなるように行動しているから成り立つものなんだ。誰かがそうさせてくれるわけじゃない。もし誰かがしてくれるというのなら、それはそうしていける環境を整えてくれているんだろう」
井岡の言葉を聞いている内に、じょじょに立川と鈴木とつないでいる手が離れたミノルは、鞄の肩ひもを持って、
「はぁー。な、なるほど。やっぱり井岡はすごいなぁ」
と井岡を称賛し、そして今度は井岡と手を繋いで楽しそうに腕を振り始めたミノルに、立川も鈴木も笑っていた。
自分たちが休んだ彼へと意識して親睦を深めようとしている中、積極的にミノルが動いてくれている。そのことが有難く、そしてミノルの人の好さを感じる面々だった。
立川も井岡も思う。鈴木はおそらくこうした裏表がないところが好きなのかもしれないと。
立川と井岡は一緒に笑い出した。
「「はははははははははは」」
立川は井岡に言う。
「その出演者みたいに横並びになっていこうぜ」
「感心しないが、今は良いだろう。学校の廊下で人もまばらだからな」
間に鈴木とミノルが来るように動いた二人に、笑いながらその出演者みたいに笑顔で鼻歌を歌う。授業で習った歌だ。
鈴木は恥ずかしそうにしながらもその輪の中で大人しく一緒に歩いた。その横ではミノルがとても楽しそうにして、鈴木の手を掴んでくる。ミノルの肩に立川の腕が乗っかっているので、雰囲気的にミノルは手を掴むよりも肩を抱くのが筋かと思い、今度は手を放して、肩に腕を乗っけて楽しみだした。三人の男子に顔を凝視された鈴木は、どうしようもないわねと幾分嫌そうにしながらも、両腕を両側のメンバーの肩の後ろあたりに腕を回して、一緒に歌を歌いだした。
メインどころを歌い終わって、最後におのおのビブラートを響かせる。
一瞬の静かな間があった後に、四人共肩に回していた腕を解き、楽しそうに笑った。
その後は教室を出た時のような並びで歩いて下駄箱へ向かう。下駄箱では他の学年や他のクラスの生徒が数名居た。
一緒に帰る中立川の機転で、四人ともが連絡先を交換することになった。鈴木もそれに応じて、連絡先を交換してくれたことでミノルは舞い上がった。
「おお、初の女子の連絡先ゲットだ」
「よかったなぁ」
「私で悪いけれど」
「そんなことないよ。有難いくらいだ」
「ははははは。まるで後利益でもあるかのように君は言うなぁ」
「ああ、頭の良い人との交流は有難いことだからね。しかも二人も同時に」
「おい、俺はおまえよりも成績は良いぞ」
と立川が言う。
「ああ、だから立川にいつも感謝している。テスト前にどこがでるだろうとか予測してくれるだろう。けっこう助かってるんだぞ」
「そうか。それならいいが」
「ちょっと」
「えっ」
鈴木がミノルの肩に手をのせて、ミノルを呼び止めた。ミノルが鈴木の顔を見ると、両手で両肩に手を置いた。
「夏休み明けのテストの成績どうだったの?」
「あ、あぁ。その、そこそこ自分にしては」
「自分にしては?」
「そ、そう。自分にしてはまずまずだったような」
「一番良い点数で八十点台」
と立川が鈴木に伝える。
「あ、言うなよ」
「で」
「え」
「一番悪い点数は?」
「そ、その。六十点手前」
「な、なるほど。ええ、なるほど。確かに予想していたけれども。ええ。そう」
鈴木がミノルの顔を見て、いや、目を凝視して、顔を近づけて告げる。
「いいこと。そのテストのプリント全教科分とノートと筆記具を持参して」
「え、いつ?」
「もちろん次の休みの日にでも図書館で」
「え。学校の近くの?」
「そうよ。他にどこがあるの?」
「え。振り返りするの?」
「そうよ。何が間違っていたのか。何につまずいているのか見ないと」
「ミノル諦めろ。どうやら鈴木の本気になったらしい」
「あ、え。立川おまえも」
「いや、俺は自分で出来るからなぁ」
「いいのよ。参加いただいても」
と挑発的な笑顔を向ける鈴木に立川は嫌そうにしながらも、
「わかったよ。これも親睦だろう」
「そうだな。俺も勉強会に参加しよう」
と井岡は立川と共に同意した。
「決まりね」
鈴木が乗り気になっている。この機会を生かさない手はない。何をしているのやらと思わなくもない井岡だったが、これも青春の一ページだろうと自らこの状況を楽しむことにした。
ファーストフード店に向かう前に近くの本屋に赴いて、お互いの興味のあるものを教え合う。
井岡が購入したかった本を見て、頷いている。
「買わないのか」
「買うのは今度休みの日にしようと思ってな」
「そういうもの?」
「今持ち合わせがない。この後食べに行くのだろう」
「ああ、そうだった」
一同は本屋からファーストフード店へ入って、飲み物とポテトもしくは他のサイドメニューを頼んでいく。
店内でミノルが休んでいた時の文化祭の準備の時間がどういうものだったのか、三人で語って聞かせた。
完成イメージや実際の当日の動線について、そのイメージ図が一緒になっているかどうか確認している面々の、なんども「だからー」と説明している姿がクラスの一同を笑いに誘ったこと。
説明を受けている者たちよりも先に、その説明が耳に届いている状態で自分たちの担当の作業をしている面々に伝わって大いにみんなが笑って、伝えられてもイメージが頭に思い浮かびにくかった生徒がひとり拗ねていたこと。
自分たちメンバーも素材を購入している時に、店主と図案の説明や話しをしているのを聞いていたことによって、誰かのを手伝う時に分かってもらえるまでの時間が早かったことに感動していたこと。
ミノルの案についても話を聞いていた人がサクサクとまるで自分の案を作成するかのようにスピーディーに進めていたこと。
ミノルは夢のような時間を過ごした。
私は誰が誰を好きだとかいう機微には疎い方でしたので、後で友人から「彼女は」「彼は」と話を聞いて、「ほう、なるほど。そうなんだ」と報告されて感心しては、すっかり忘れるタイプでした。
懐かしい学生生活を思い出すなぁ。




