気持ちと行動
画面でさまざまな情報を得て、時には物語の主人公たちに感情移入して見ていると、まるで自分ができる人のように勘違いしそうです。しかし当然ながら動いてみると、己のへっぽこぶりがありありと目の当たりにさせられて凹みます。当然の結果なんですが、初めてだからとかこれくらいはできるだろうとか忘れていた李思い込んでいたりする、そんなことがあったりなかったり。
ミノルの反省会と小春と猫の気晴らしとサクがビックリする話しです。
翌日。朝の時間。ミノルはいつもよりもゆっくりと起きてきた。本日は、保険の先生や担任の先生が話をしてくれた通り、学校を休むためである。
階下に降りると、母小春が猫に餌を上げていた。
サクと菊池が一緒に家から学校に向かうタイミングだったようで廊下で出くわした。
「おはよう、今からか?」
「そうだよ」
「熱が出たそうで」と菊池。
「そうなんだよ。まいったよ、まったく」
「大人しくしてなよ」とサクが気遣う。
「そうですよ。文化祭当日までに治さないと」と前向きにと応援してくれる菊池の言葉に顔の表情を明るくするミノル。その姿にこの場にいる彼らはホッとした。
「そうだな」
「そうですよ」
「うんうん」
「あらあら、ミノルおはよう。サク、菊池君。ささ、行かないと」
後ろから小春が声を掛けに来た。
「あ、はい」
「ええ」
小春とミノルは玄関までついて行き妹たちを見送った。
「「いってらっしゃい」」
「「いってきます」」
不思議だ。いつもは自分もあちら側なのにとミノルは思った。親というものはこうして子を学校などへ見送っていくのだろうか。結婚話以前に彼女のひとりも作っていない男が思うことじゃない。自分でもそのことに気が付いて、頭をかいて、どうでもよいことを母親に尋ねる。
「今年初だっけ、風邪とかで学校休むの」
「何言ってんの?高校生になって初でしょう」
「わぁ、それじゃ俺の皆勤賞、今年は無しだぁ」
大げさにショックを受けていますという仕草に、小春も若者に理解のあるおばあさんやおばさんのような役柄を演じるように、
「まぁ、まぁ。いいじゃない。たまには」
と手振り身振りをしながら返事をしている。
二人顔を合わせて、笑いながらリビングに戻っていった。
母親とリビングへ戻ってキッチンへ辿り着く。風邪などひいた時ようのご飯が用意されていた。お粥だ。
「おかゆありがとう」
「そうそう。お礼言って、大人しく食べて、寝ていなさいね」
「どこか行くの?」
「それが、猫ちゃんの検査にね。定期的なものよ」
「そういえば忙しくしていて行ってなかったなぁ」
「なに勘違いしてんの。私がちゃんと行ってきていたわよ」
「流石の母さん。ありがとうございます」
「そうよ。そうでしょう。母の日や誕生日の記念の日の贈り物楽しみにしていますから」
あからさまな催促であるがミノルは楽しそうに笑った。
「あははははははは。さらっとしっかり要求するところが母さんらしいね」
「なにいってんの。主婦はこれくらい図太くなくちゃ」
「はい。心得ました」
「ふふふふふ」
「いただきます」
「どうぞ」
おかゆを食べていくミノルのそばで、小春はサクと菊池君が食べていった朝食を片づけにかかった。父親である正美はすでに食べて出かけているらしい。
食べ終わったミノルへ母親が、父親からの伝言があることを食器を片付けながら伝えた。ミノルは自分の部屋に戻って携帯電話を確認した。すると、”ゆっくりやすみなさい”という父親からのメッセージが届いていたのだった。
こういうところが父さんらしい。母さんと連携してこうして連絡してくれる。忙しく朝早くから家を出て仕事をしているが、必ずこう言った場面ではこうしてメッセージを送ってくれていたり、自分がしてみたいと思った活動に対してじっくりとこちらに確認をしてそれでも行いたい場合は、いくばくかの支援をしてくれる。少なくとも父親としてこれくらいなら応援をしてあげられるという具体的な言葉が帰ってくることに、ミノルは日々の折々で感謝して尊敬をしていた。
ミノルの心はほっこりし始める。温かいおかゆに優しい声かけをしてもらった家族と菊池の存在。受け入れられていること。まるで先ほどの猫がすり寄って来て抱っこしろとせがんでいる子供のような心が安心して眠り穏やかになっていく。
実際に猫を抱っこして、まるで自分のその幼子をあやすようにしてやると、部屋の扉の向こうから母親が入室してきた。
「メッセージ見た?」
「うん、見た。ありがとう」
「うううん。今日は仕方がないからあなたの好物とあの人の好物を買っておかなきゃね」
「それなら母さんとサクの好物も買っておきなよ」
「ふふふ。好物の日にするつもり?」
「そうだよ」
「じゃ、あなたも好物買ってあげなきゃね」
ミノルの腕の中の猫を撫でてから、ミノルから猫を渡してもらって、抱っこを変わってもらう母親は、もう気が済んだのか、
「時間になったら声かけずに出かけるから」
「わかった」
「昼前には戻るわ」
「いいよ。おかゆくらい自分で作れるよ」
「そう?」
「そうだよ。お米はあるんでしょう?」
「ええ。じゃ、お願いね」
「ああ」
猫を抱えて階下に降りていく母親の姿を見送ったミノルは部屋に戻り、ベッドへ寝転ぶ。
そういえば、昨日の保健室に向かう途中の廊下で感じたことが頭に浮かぶ。何も怖いことじゃないんだと頭を振って頭の中から追い出す。
文化祭の準備の時でも自分も負けじと張り切らなければと張り切った。それがこうして無理をしたことで熱を出したのだ。
「小学生か」
と自分でも思う。クラスに少しでも貢献しよう。自分というものを具体的に表そうとした結果だ。
恥ずかしくも情けない。けれど、とミノルは思う。
高校生になってこうして自分なりに頑張ってみるという行動をしていたはずだが、二年目の文化祭準備でも一年の時にできていなかったことを成し遂げようと張り切った。
一年の時は大人しく他人の案に賛成して、その案通りに出来上がるようにと必死だった。けれど今年は自分も案を出して少しでもあの時の彼らのように今年の文化祭を盛り上げていければ。そう、あの時の彼らは今同じクラスじゃない。同じクラスだったのは立川一人だけだ。自分も頑張らないと。
それから男子高校生として、あわよくば恋心に近いものでも生まれて距離が近くなることもあるんじゃないかと夢を見てもいる。ま、本当にそうなったら本当にどうしたらいいのか分からないが。それはそれとして誠実に真剣に相手に向き合わないとと想像した。
とにもかくにもクラスの一員として頑張りたかったからだったとミノルは今回のことについて自分なりに振り返って考えた。
それにしたってなぁ、これじゃ知恵熱みたいじゃないか。
そのことに気が付いて、ますます恥ずかしくなった。
張り切り過ぎたのだろうか。いつもしないことをしていこうとして熱が出た。この事実は帰ることなどできず、ベッドの上で右に左に寝ながら転がり忘れようとしていた。
二年になり立川と再び同じクラスになって、休み時間の間に隠れようとしないで話しができるようになった。
学校に向かって入るだろう立川に、頭を下げる勢いで、日頃の感謝を念じて送る。手に携帯電話を持っていることに気が付いていないミノル。
ミノルの中で立川がいかに自分にとってありがたい存在なのかを、熱弁し始めていて、ガッツポーズの姿勢までしている。楽しくなってしょうがない様子だ。
窓の外の烏も見ていられないと言わんばかりに、飛び立った。
ボーっとして寝転んでいる内に眠ってしまったのか、ミノルが起きた頃には動物病院の診察の時間も始めっていて、階下に降りると母親と猫が出かけていて誰も居なかった。
かつてこんなことがあっただろうか、とミノルは感動している。
「俺がこうして家族が出かけていて、家で一人で居るとかいう機会がやってこようとは」
小学生の頃にも中学生の頃にもこういうことはあったきがするが、今のミノルには関係なかった。
「さぁ、満喫しよう」
そう言って、ポップコーンと飲み物を持って、リビングに移動して、お気に入りの映画を取り出して、鑑賞し始める。
座っていたり横になったり、床に座ってソファを背もたれにしたり。姿勢をあれこれ変え位置も変えていきながら見ている。
「いつ見ても楽しい」
そう言って目が輝いている。
その頃母小春は、猫の診察が終わりホッとして、猫との買い物、特に猫の餌などの商品を買い求めるために店の方へと移動して行った。
猫も幾分楽しいのか、ミノルのように目が輝いている。そんな猫と一緒に風を感じる小春も「あはははは」と楽しそうだ。
一方、サクは久しぶりの質問をクラスの女子に会いによく来ている子に投げかけられた。
「菊池君と仲いいの?」
「そうだね。一応」
「付き合ってるの?」
「告白劇はないよ」
「待ってるの?」
「ぐいぐい来るね」
「待ってるわけじゃないよ」
「じゃ、・・・・・・」
と言って相手が間を開けてきた。その先に待っているセリフについてサクは菊池もモテるっていうことが証明されるものだと思っていた。が、事態は違う方向へ向かった。
「付き合っている人居ないのなら」
「確かに菊池には付き合っている人は居ないよ」
「そう、じゃフリーね」
「そうだね」
「じゃ、私と付き合って」
「え、どこに?って、へっ?」
分からなくなってきたサクに相手は言う。
「自己紹介が遅れたわね。私はあなたのクラスメートの友人であり上の階のクラスの向坂よ」
「ど、どうも」
「ええ。名前は存じているわ」
「ぞ、存じて、ね」
「そう。それで私とというのは少し語弊があるけれども、正確には、ちょっとまって」
そう言って制服のポケットから携帯電話を取り出して、操作し始めた。
そうして画面表示して見せたいところが出てきたのだろう。サクの方へ画面を向けて見せてきた。そこに映っているのはひとりの男子生徒だった。
向坂さんが指でスライドさせて写真が何枚か別の日にでも撮影したのか映っている。の、だが。
「あの、これはいったい」
「どう?好み?」
「え」
「カッコいいわよね。しかも可愛い」
確かにサクの目から見ても可愛いとカッコいいが両立している人相だろう。
「どうか付き合って」
「え」
サクの目が見開く。
「私が、その写真の人と」
「そうよ。これ私の双子の弟。可愛いでしょ」
「あ、あ・・・・・・」
あまりの衝撃にサクは言葉を失って固まりかけていた。教室に現れた菊池はそんなサクを発見して、どうしたのかと近づいて行った。
「どうしたんですか?」
サクは、自分の指で写真を示しながら、
「この写真の人と付き合ってって、言われて」
菊池は素早く眉間にしわを寄せると、「どこの骨ともわからない人と付き合わせるわけにはいきません。このような形で縁談を進めるなどと」というセリフを菊池が大き目な声でいうものだから、ただでさえ少し目立っていたのに、クラス中の注目が集まってしまった。
サクは泣きたくなった。話が大きくなっている。
「あいつのメイドが何か言っているぞ」
という声もあれば、それに対して、
「メイドじゃなくて執事だろ」
と茶化している者たちもいた。
サクの心はますます泣きたくなっていた。
ここは憧れのキャラクターのようにスパッと解決して見せて飄々と一度席を立って教室を出てトイレにでも行った方がいいのでは。
できる人間のように思われているサクの内情はこんな感じに色々と考えて行動しているのだった。
このことを兄もあまり気づいていないことに対して、妹として寂しくもあり心配でもあり、哀しくもあった。
ついついからかってしまったりするのは御愛嬌様と思っている妹は、すっと席を立って、
「そういう話しでしたら、お断りをしたします」
と言ってお辞儀をして、菊池を連れて廊下に出た。
菊池はサクについて移動し、廊下の窓辺で待てと言われて待っている間にサクはトイレを済ませ、再び二人して違う階へ移動するのであった。
姿が見えなくなるまで見送っていた面々が、「はぁ、行っちゃった」と言って、再び自分たちの会話に夢中になっている。
向坂もため息をついて、携帯電話をしまって、整えて、友に別れを告げて、教室に帰っていった。教室を出る直前、「想定内だわ」と呟いていた。ちょうどその時近くに居た人間の耳にその言葉が届いて、ゾッとしつつ、再びあの一幕のような場面が己のいるこの教室で起こるのかとワクワクとする気持ちを宥めた。
ある一人は目礼をしてサクを労う気持ちを抱いた。その労いは、この生徒などが思うよりも、クラスで数名いた。その面々はみんな心の中で労っていた。
振り返りって大事ですよね。
ということと、サクはサクで、お見合い相手を探す家族に認められるくらいに優秀だと思われているともとらえられなくもないです。が、本人の内心はいたって普通の女子高校生です。




