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休日親心

自分の気合の入り方と実際の予定がずれた時、力有り余らせて部屋でそわそわすることありますよね?え、ない?

 翌日には作成といきたい買い出し組の学生たちも土曜日曜は、しっかり学校の方針で休日と相成っている。つまり自宅で何もやることがない。

 頭の中は文化祭の準備で回転していこうとしている思考回路だが、現実が受け入れてくれていない。そんなミスマッチに朝からもんもんと自分の部屋の中を歩いて解消しているミノル。

 そのミノルのようすをまたもサクは廊下から開いている扉の隙間から見ていて、ニマニマしていた。

 サクにはミノルの陥っている状況が想像できた。昨夜ミノル兄が言っていたのだ。食卓の席で、買い出しをして店主と暑い論議を交わしたと大げさに宣って楽しそうにしていた。

 そう、とても楽しそうにしていた。

2.5次元アイドル以来の楽しそうな姿だ。そんな兄のはしゃいでいる姿が見ていて楽しくないわけがない。

「おーおー準備できなくて悶々としておる」とどこかの老婆のようなセリフ回しで楽しそうに呟くと階下へ降りていって、母小春におはようの挨拶をする。

「おはよう」

「ああ、おはよう。なにニマニマして」

「いや、いつにもまして兄が兄らしくて」

「なに、それ?」不思議がる母小春の横を通ってコップを取り出して飲み物を注ぐとそれを持ってまた横を通ろうとする。その時、一瞬自然な流れでまた母小春と目線が合って、不思議がる小春の表情がサクの笑いのツボを刺激した。

「ふふふふふ」

「なぁにぃ?」

すこしむくれっつらの表情をした小春が言う。

「あんたがそんな風に兄で楽しんでどうするの?お兄ちゃんだってお年頃でいろいろあるのよ」

「いや、そうなんだけどさぁ」

と尚もほほ笑む彼女に小春は話しの矛先を娘に向けることにしたようで、

「それで、サク。あなたの方はどうなっているの?」

「どうって、何が?」

「学校生活。高校生になって二学期まで過ごしてきたわけじゃない?自分はこうしたいという理想と実際はどう?」

「そうだね。確かにこうだったらとかこうなのかなぁと思ったことはあったけれど、中学生の時に見ていた高校生の人って思ったよりも何か考えがあってこうしようというものが少ないけれど、何故か笑えて笑ってるんだね」

「そうな。そういう時期のある子もいるわね」

「それが一番の自分の中での衝撃で、それから自分も想像して思ったことを何度かこうじゃないかって考えている内に本当にそうなんだろうと思い込みそうになっていることに気が付いたら、あっという間にその魔法は溶けて、なんてことないって思えるようなったの。それからは通うのも気負うことなく通えてるよ。楽しいし」

少し照れ臭いのか、入れた飲み物のコップを眺めながら下を見ている。勇気を出してなのか、小春を見ると、笑顔だった。

「その笑みはなに?」

「何って、娘のあなたもあなたなりに高校生活考えて過ごしている事が分かってホッとしたの。好きに全力でもいいけれど、その後他の自分に既にある大切な物へも向き合うことになるんだから。そういうことを忘れずにこれからも楽しんでね」

「わ、わかった」

調理器具の片づけをし始めた小春のようすにサクは幾ばくかホッとして、いつもの席に就いた。

 いつも座る席なのに、今日は何故かいつものようにしっくりこない。幾ばくかの居心地の悪さを感じながらも、いただきますをして食べ始める。

 頭の片隅で、兄の姿を笑ってしまっていた罰なのだろうかという考えが頭に浮かんだが、それはないなと考え直して忘れて、食べ進めていくことにした。

「あー」と体の凝りでも解している社会人の声のような息子の発する声に、驚いた小春がいう。

「うちの子供たちはすっかり大人へと移行していってるんだわ」

「かあさんおはよう」

とミノルは気づいていないようで、そのままサクと同じように飲み物を用意して席に就いて朝食を摂り始める。

「わーお」

「サク、おはよう」

「おはよう、お兄ちゃん」

「で、サク」

「ん、なに?」

「母さんが口を開けてこっちを見ているけど今日何かあったの?」

「朝のこの時間に何かあるなら、夜のうちに何か起こっていて、それを引きずっているんじゃないの?」

「そんなことじゃないのよ」

「じゃ、なに?」

「それは気にせずに食べなさい」

「父さんは?」

「父さんなら、もう起きてるわ」

「そう」と答えていただきますと言ってこちらも食べ始めた。

「ん、うまい」とか「おいしいね」と言って食べている自分の子供たちの姿に、この姿をみるのも後数年かもしれないという思いが去来してきた小春は、涙ぐみそうになりながら、それを隠して猫の餌を用意するために移動した。

 猫に餌を上げて頭を撫でてやる。食べている時や餌を前にしている時は猫も食べていいよの号令を待っていてそわそわしているので、頭を撫でられるのが苦手だ。普段のゆったりしている時にはむしろ撫でてと手に頭を擦りつけてくることもある。

 その猫の様子に小春はほほ笑みながら食べている子供たちに尋ねた。親として大事な問題があった。

「ところで我が家の子供たちは将来どうしていこうとお考えかしら?」

「えっ。俺はともかくサクはまだ一年だよ」

「こういうことは早いうちに決められたらその道に進むための努力を今のうちからしておくとおいおい役に立つのよ」

「お兄ちゃん決まってる?」

「いや、決めてない」

「まぁ。せめて進学するか就職を考えているかは?」

「それでいうなら、今のところこの道って決めてないから就職かな。専門で力付けれないなら俺大学進んでも苦労しそうだし。それなら親と一緒に就職に向けて考えた方が決められそうな気がする」

「私たちに考えて欲しいの?」

「なんて言うのか、上手く説明できなくて」

サクがいう。

「就職の前に言語化の練習をした方がいいんじゃない?」

「言語化?」

「そう。自分の考えを伝えられるようになってさらに相手から伝えられた場合に返せるようにしておくと生涯で役に立つと思うと」

「ああ、俺は頭の中にある自分の考えを言語化できてないのか?」

「すくなくとも整理できてなくて、一緒に考えて欲しいって思ってるんじゃない?」

「ああ、なるほど。なるほどな。いいこというなぁ」

「あ、ああ。貶されたとか思わないんだ」

「なんでだ。困りごとのどうしたらいいのか答えが出たようなものだろう。その答えに従って、考えていることを整理できるように考えてみる必要があるってことだろう。だから文化祭が終わってからでも進めようかな」

「いや、今日休みの日じゃん。家でしてみたら?」

「え、いいの?」

「いいわよ」

ミノルはサクの顔も見た。

「わかった。付き合う」

「よし、じゃ宜しく頼む」

「なにそれ」

「ドラマのオフィスの上司や先輩じゃあるまいし」

「お願いしますじゃないの?」

手に持っている物を置いて、両手を腿の上に置いて、頭を下げた。

「宜しくお願いします」

「相賜った」

「それも誰になってみた言葉だよ」

「サクもでしょ」

「はははははは」と笑い声が響いている中、いつのまにか猫は朝食を済ませている。

 それに気が付いた母小春が「あらまぁ、お早いことで。お腹空いてたの?」と尋ねると、「ミャー」と鳴いたので、「あんたは賢い猫様だよ」とお道化てみせた。

「そういえば母さんって高校卒業してからはどうしたの?」

「あら、話しの矛先が私に向いたわ」

「いや、どうなのかと思って、参考程度に」

「そうね。高校卒業してからは演劇しながら食べてたわね」

「なにそれ、劇団にでも入ったの?」

「あなたたち知らないの?今時劇団に入るのさえ難しいところもあるのよ」

「へぇ、そうなんだ」

「もう、憧れたところはまさにそう言ったところだったし、父さんとも知り合ってて家庭を築きたかったからその道とは両立できないってことで、いつも家のことを済ませながら自分なりに楽しむってことを選んだわね」

「じゃ、仕事面ではどういう風に決めて仕事してみたの?」

「そうだね。どんな仕事をしていたの?」

「母さんは、高校を卒業してからはアルバイトをしてたわね」

「一人生活?」

「そう」

「それで?」

「ごちそうさましてから続き訊きなさい」

「ああ、もう」

続きが気になるのか、急いで食べている。それで、むせそうになると、「母さんはどこにも逃げないわよ」と諭すと、「わかった」と落ち着いて食べ始めた。

言葉通り小春は猫の傍で、猫を可愛がって巣がしている間に子供たちは食事を済ませて、ごちそうさまでしたと言った。

「それで?」

というので、

「それでという前に、その皿を流しに運んでちょうだい」

「わかった」

ミノルは楽しそうに小皿まで運んで飲み物のコップも片づけていく。サクも落ち着いた動作で片づけ始めた。

「流しに置いたら、二人とも手伝い合いながらそれらの食器類を洗ってちょうだい」

「えっ。洗うのまでするの?」

「そ、するの」

と小春は譲らない気で告げる。

「わかったよ。これにも意味があるの?」

「あるのよ。ひとり暮らしの練習。そうじゃなくても母さんが何かあった時にもう少し動けるようにしておかないと」

「私なら動けるよ」

「そうね。だから兄を手伝って」

「わかった」

サクの主導してミノルが動く。

「サク。相手の方を重んじるように伝えるのよ」

「え、お兄ちゃんでも」

「そう、お兄ちゃんでも。練習ならなおのことそうしなくちゃ」

「わ、わかった」

サクはこっそり兄に告げた。

「今日母さん、いつもと違うね」

「な、何かあったのかな」

子供たちの小声話はもちろん母小春の耳にも届いていた。

 小春は大げさに、身振り手振りを付けて役者のように、告げた。

「決めたわ。我が子たちよ。母さん、あなたたちに自立を促す行動をこれからしていくから、しっかりとついてくるのよ」

「・・・・・・」

兄のミノルは言葉を失ったようで、無言で在る。その姿をサクに気づかれて、「手伝ってって言ったからああ言っているのかなぁ」というサクの声にミノルの頭の中でも同じ考えが一瞬浮かぶが、これも昨日の買い出しでもわかったがこれが試練なんだ。大人への試練。と、ミノルは考えた。そう考えると、子供の時の保育園や幼稚園児の嬉しくて楽しくてはしゃぐこころが自らの心に蘇って来たかのようで、わくわくしてきた。

「わかった。楽しみにしてる」

と答える我が子の様子に母小春も思った通りうちの息子はそんじょそこらのドラマで表現される息子の像と違うぞとはっきりと認識した。

 嫌だとも言わない、恥ずかしがらない、むしろ楽しみにしていると伝えてきた。豪胆なのだろうか。ば、いや、馬鹿ではないと母親として言っておこう。もし馬鹿であるなら、みなを良い方向へと導くための突破口を開いていくようなお馬鹿さ加減なのだろう。そう願おう。

 サクは飲食店のアルバイトもやっていけそうなくらい、兄に指示を出してはっきりと物を言う。

 母小春は安堵した。よし、我が家の子たちのひとり立ちの土台は揃っている。サクもアルバイトなどさせてみるか。

 ミノルは日頃の生活の過ごし方から見直した方が良いだろう。学校ですがしたり趣味を楽しんだりする以外の時間を過ごすということをさせていかなければ。

「よし、父さんに報告だ」

と小春は猫にじゃねぇと伝えると、夫正美のもとへと向かった。

 その嬉しそうな足取りを見ていた二人は、くすくすと笑って洗い物を済ませていった。

 猫も自分で遊ぶことができるようで、尻尾を追いかけたり、前足で尻尾を抱きしめている。



自立に向けた親の子供への教育の動きについて、我が家では幼い頃から手伝えそうなことはやってみろ派でしたね。幼少時みそ汁を台所からテーブルまで運ぶ手伝いやあの当時まだ我が家は二層式の洗濯機ですすぎあらいをした後の脱水機ににかけるために二層式のかた方の層へと濡れた洗濯物を移す作業を手伝っていました。みそ汁を運ぶのは汁がこぼれないように手元を気にしていたら、転びそうになるなどして、家族から「お前はみそ汁運ぶな」と評価を受けたものです。

みなさんは、どんな自立への訓練をしましたか。

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