"人生"
「拠点と金、両方の問題を解決し、さらに俺達の条件もクリアになる方法があります」
「大人3人分の拠点と金だぞ?それに俺達は追われてる。まともな仕事にありつけたとしても、いずれ特定され迷惑をかけるのは明白だろう。
拠点だってそうだ。それらを踏まえても解決できる案なのか?」
「はい。それは"人生"です。」
何言ってんだこいつは。
殴られすぎて気でも触れたか。
「やっぱり会話ができない人種だったんだな」
「...早まらないでください。
簡潔に言うと"人生"というのは、基本3人1チームで行うギャンブルの為のギャンブルの名前です」
「ギャンブルの為のギャンブル?」
「そうです。金に困った人間が集まり、指定されたゲームを元にギャンブルを行います。もちろん勝てば天国、負ければ地獄。
その勝敗の行く末をさらに賭けることで、ギャンブルに対してギャンブルをする。
ギャンブルの為のギャンブル。
そのゲームの名を"人生"と言います。
"人生"は俺らみたいな闇金の共同出資によって成り立っています。発案者は田沼社長との噂ですが。
出場者となる為には出資元の俺達闇金からの紹介というルートしかありません。
ですが、基本的には慢性的な出場者不足なので、紹介と言いつつも特に厳しい審査はありません。俺達は代理エントリーをするだけの役割と言った方が正しいでしょう」
「それで、拠点や金の話となんの関係があるんだ?」
「順を追って説明します。
まずは拠点との関係についてですが、
"人生"では出場チームに1つクラブハウスが与えられます。ゲーム会場に直結する豪華な控え室って感じです。
それだけ聞くと好待遇に思われるかも知れませんが、単純にゲーム期間中に逃さない為です。テイの良い檻ですね」
「ゲーム期間中っていうことは、長期間にわたって開催されるのか?」
「内容にもよりますが1週間程度ですかね」
「思ったより短いな」
「メインの狙いは拠点ではなく、金です。勝てば大金を得れる。その大金があれば当面の活動資金としても、最悪の場合は借金の返済原資としての使用も可能です。
そしてなおかつ、立川さんと行動を共にすることができ、身を隠すこともできる」
「なるほどな、それでその肝心の内容は?」
「まず"人生"にはゲームテーマが5つあります。
1 家族
2 時間
3 知識
4 信頼
5 才能
これらのテーマから3つランダムに選ばれ、そのテーマに沿ったゲームを1対1のタイマン勝負で行い、計3回の勝負で勝敗を決める。なので3人1組が基本のチーム構成になります」
「思ったより平和なテーマだな」
「確かにそう聞こえるかもしれないですね。ですが、これはただの皮肉です」
「皮肉?」
「人が生きていく中で金で買えない5つのテーマ。金で買えないなら、金に変える。
人が生きる中で手にするものはすべて金に変えられる。
金に変えられないものはない。それは人の生も例外では無い。故に"人生"です」
「悪趣味だな」
「まあ闇金が運営していますからね。以上が俺の案です。どうでしょう?」
「その前にいくつか聞きたい。まず、紹介元はどうするんだ?お前らはもうできないだろう?」
「それなら大丈夫です。別の闇金の知り合いに紹介元となってくれるように依頼します。
そいつは友人でもあるので、問題ないかと思います」
「仮にそれで出場者になれたとして、お前ら闇金が共同出資なら、出た時点で身バレして終わりじゃないのか?」
「それも大丈夫です。大丈夫というか、負けた時のデメリットの話にもなります」
「どういう意味だ?負けたら借金地獄って事だろ?」
「もちろんそれもありますがそれよりやばいのは、出場する時に取られる指紋です」
「指紋?」
「出場する際には指紋を提出しなければなりません。拠点となるその部屋に入室するには指紋認証が必要となるからです。
そしてこの指紋は二つの意味でセキュリティとして機能します。
一つは入室する為のセキュリティ。
もう一つは逃さない為のセキュリティです」
「別の犯罪に使われるのか」
「その通りです。逃げた時の落とし前として、別の犯罪の犯人に仕立て上げられ、物的証拠として使用されます。そしてそこが身バレの話と繋がります。
指紋がある以上、それ以上の情報は必要ないんです。
なのでエントリー時に必要な個人情報は指紋のみです。
運営側は誰でもいいんですよ。何かあればその指紋を利用するだけなので。生年月日や住所、名前だっていりません。そもそも偽造してる奴だっていますからね。
それに、外見による有利不利を分からなくする為にも、出場者は仮面をつけることがルールとして決められています。なので身バレの心配ありません。その方が出場者も集まりやすいですから」
「悪質なセキュリティだな。その"人生"ってのは年中しているのか?」
「基本的には年中無休です。いろんなチームと人が
入れ替わり立ち替わりですね。ただ、出場者が足りない場合はその限りではありません」
「"人生"の抜け方はどうなんだ。1回でも勝ったら抜けれるのか?それとも別の条件でもあるのか?」
「それは自由です」
「自由?」
「はい。抜けるタイミングは自由です。ただエントリーすれば、1回は必ず対戦しなければなりません。そのルールを違反した場合も先ほどのセキュリティ機能が発動します」
「案外良心的だな」
「それがそんなとこに出てくる人間というのは理性の効かない欲深い奴ばかりです。
負ければ勝つまで。勝てば負けるまで。そう思って続けてる奴らばかりです。パチンコとかと一緒ですね。勝っても負けても自由にやめれるのにどっちにも深追いして、結局は負けるんです。
運営が縛りを与えないことが、彼らに欲という縛りを与えているんです。だから特別な条件は必要ないんですよ」
「なるほどな。それで?肝心なところを伏せてるだろう。賭け金はいくらだ?」
「メインは最後かなと...賭け金は1勝負1億です。1勝で+1億、1負で-1億の計算です。なので、3回勝負の合計3億が動きます。2勝1敗なら+2億-1億で最終+1億。3戦全勝なら3億総取りです」
「最大+3億、最悪-3億ってことか......ふざけた金額だな。それでその勝負を見てる奴らがさらにその勝敗にベットすることで、ギャンブルがギャンブルを生むって訳か。大体理解できた。早速それに参加できるように動こう」
「...この話の証拠は聞かないんですか?」
「そんなに骨を折りたいのか?」
「いえ、そういうことでは...」
「これ以上疑っても無駄だと思ってな」
「無駄...ですか?」
「それが嘘だったなら、俺には次の一手がない。お前の言葉を借りるなら、可能性の糸があるなら掴むしかない。それに、また目の前で自傷行為を見るのは目覚めが悪い」
「...ありがとうございます。信じてもらえたとして、
俺が言うのもおかしいんですけど..."人生"の参加自体に否定はないのですか...?」
「何が良くて何が悪いなんてのは、ただの多数意見の塊だろ」
「多数意見の塊?」
「善悪の判断や常識なんてのは多数意見の塊なだけで、多い方が正しく見られてるだけだ。本当の良し悪しは自分で決める。そうするようにしてる。聞いただけでは、良いも悪いも分からない。だから参加してみるしかない」
「...立川さんって良い人ですか?悪い人ですか?」
「自分で決めろよ」
お互いに少し笑みが出た。
思えば口角が上がったのは久しぶりかもしれない。
「...ただ、立川さん。参加するにあたって、今の俺達には致命的な問題がひとつあります」




