入り口
戸田はその口を開いた。
「待て、その前に俺が言うのもなんだが、
戸田、ケガの手当てをした方がいい。
それに俺も手を止血したい。
近くのドラッグストアで一式買ってくるから待ってろ」
「...気遣いありがたいですが、それは下柳に行かせます。どちらが行ってもその傷が目立ちすぎます」
「それもそうか。じゃあ下柳、頼めるか?」
下柳は小さく頷き、廃墟を後にする。
「その間に話を進めましょう。
松下さんの状況についてはどこまで知っていますか?
というか、立川さんは松下さんとはどういう関係だったんですか?」
「松下と俺はただの幼馴染で、俺にとっては唯一の親友と言っていい。いや、親友はちょっと言い過ぎか。
何も考えず気軽に誘える仲だった。って感じだな。
松下の状況についてだが、さっきも言った通り、世の中が知っている情報ぐらいしか俺も知らない。
他に知ってることと言えば、何年か前に死んだ親父さんから会社を引き継いでからは色々と大変なんだとは聞いていた。情報はそれぐらいだ。
何かを知っていて教える側じゃない。俺は教えてもらう側だよ」
知りたいという感情があるということは、俺にとって松下は関心のある人間で、何か困っているなら、助けてやりたいと思う。
だからこそ何に困っているのか。
そもそも困ってはいないのか。
知りたい事は、
教えてもらいたい事は山程ある。
「なるほど。
松下さんが、親父さんから引き継いだ会社は破産寸前で
ウチからも金を借りていたことは知っていますか?」
確かに会社を引き継いで大変とは聞いていたが、
あいつも何が大変なのかは言わなかったし、あいつが自分から言わない以上は俺も聞かなかった。
「いや知らない、今知った」
「では、松下さんがウチの会社に所属していたことは?」
「は?」
脊髄反射で声が出た。
「松下はハッピーファイナンスで、つまりは闇金で働いてたって言いたいのか?」
「そうです。同じ会社に居た俺が言うんですから確かですよ。
松下さんがウチに入ってきたことと、引き継いだ会社がウチから金を借りていたことに繋がりがあります。
まずそもそもの松下さんが引き継いだ会社、つまり松下さんの親父さんがウチから金を借りていた訳ですが、その担当というのが、さっき立川さんが確認されたガリとデブの2人組です」
様々な情報のピースを与えられて組み合わせるのに追いつかない。
そんなこと一言も聞いたことがない。
それが事実なら、俺達は本当に話すべきことには触れず、うわべの関係でしかなかったのか。
あの時間は全て嘘だったのか。
「その様子だと本当に知らなかったんですね。
そのガリは細川、デブは狩屋と言います。
細川と狩屋は古株で、仕事のやり方も古いです。
個人的には先輩としても人間としても、好きではありません。
ですが、実績は半端ないです。社内でも彼らに意見できるのは社長ぐらいしかいないでしょう」
知っている。
そいつらのやり方は。
文字通り、痛いほど知っている。
「少し話が逸れましたね。
すいません。
松下さんが親父さんから会社を引き継いだ頃にウチに欠員が出まして、色々大きい案件も重なっている時期だったというのもあり、田沼社長直々に細川と狩屋に人員補充を早急に行うように依頼があったそうです。
2人は使えそうな松下さんに目をつけ、ウチに入る代わりに借金の減額をチラつかせ入社させたらしいです。
実際には1円も減額は行われなかったようですが。
その1年後に入ったのが俺と下柳です。
つまり、俺達は松下さんの後輩にあたります。
俺が知っているのはここまでで、あとは立川さんも世間もご存知の通り、遺体と同居していた行方不明者となった訳です」
「なぜ後から入社したお前が松下が入社する経緯を知っていて、逆になぜ入社後の松下の動きを知らない?おかしいだろう」
「それはウチのやり方による所が大きいです。
ウチの会社は2人1組が基本とお伝えしたと思いますが、他にも原則があります。
それは、互いの仕事を聞かない知らないようにするということです。聞いて手柄を横取りするような奴も居るし、知った情報を自分の利益の為に他所に売る奴も居るからです。
なので、同じ会社と言っても基本言葉は交わしません。
話すのはもっぱら自分の相方、もしくは田沼社長かの2択です」
「その説明だと、お前達が入社した後に松下の動きを
知らない理由の説明にはなっているが、松下の入社の経緯をなぜ知っているかの説明にはなっていないぞ」
「その通りです。
今の説明した事情が故に俺達はその後のことを知らないし、その他の2人組の動きはまったく知りません。
ただ、こんな業界でも一応、入社当日にだけ懇親会というのが開かれるんです。
ただ親睦を深めようなんて会じゃありません。
それぞれの2人組にそれぞれ管轄があるので、そこに勝手に踏み入ったらどんな奴等が出てくるか、それを知らしめる為の会です。
まあ新人に舐めたマネをさせないように
釘を刺す会といえばわかりやすいでしょうか。
その会の時に、松下さんが俺達に話しかけにきてくれて、今言った内容を教えてくれたんです」
「なぜ松下がそんなことをお前達に話す必要があるんだ?」
「話した理由については松下さん曰く、ただ自分のような被害者をこれ以上出さない為に。と」
...松下が言いそうなことだ。
「俺から立川さんに聞きたいこともいくつかあるんですが、いいですか?」
「ああ、答えれる事なら」
「なんで細川と狩屋を知っているんですか?」
そうか。
こいつらは互いの業務内容を知らないのか。
だから俺が、あいつらに何をされたのか知らない訳か。
俺の身に起きた一連の流れを戸田に説明する。
「なるほど...だから知っていたんですね。
でもその立川さんは書いた覚えがないのに、自分の筆跡で署名されていたというのが気になりますね。
それに細川と狩屋は法律にも詳しいですから、中途半端な偽装とか、そういうのはしないと思うんですよね。
まあ予想でしかないですが。
それと別の質問になりますが、公園でのあの動き。明らかに素人じゃないですよね?
立川さん、何者ですか?」
俺にもそれなりの事情がある。
それを戸田に説明する義理はないし、意味もない。
そんなことを話しても事態は変わらない。
「たまたまだよ」
ぎりぎり会話の繋がりを持った回答に甘んじる。
「なるほど...話す気になったらまた教えてください。
とりあえず俺達が持ってる情報はさっきまでの話が全てです」
戸田が締めの言葉を言ったと同時に、暗闇から下柳がドラッグストアで購入した治療セットを持ってきた。
下柳にお礼を伝えて、戸田と俺はそれぞれセルフで治療しながら次の話題に移る。
「お前達の持ってる情報はわかった。
だが情報との引き換えの条件にも言っていた行動を一緒というのはどういう意味だ?
有事の際はお互いに助け合うみたいなことか?」
「...いいえ、違います。
短時間のような、点での行動を共にすることではないです。
奴らは寝ていようが起きていようが関係なく狙ってくる筈です。
なので、行動を一緒にというのは24時間一緒にと同義だと思ってください」
「それ最初に言えよ...」
「言ったら約束してくれなかったでしょう...
こちらの情報はもう開示してしまったのですから、やっぱ無しは無しでお願いします」
戸田の言うことを無視することもできるが、確かに情報を聞いた以上、こちらとしても誠意で応えるのが筋だろう。
それに考え方によってはアリだ。
こいつらに接触してくる人間のとりこぼしは無くなる訳だ。
「...とりあえず分かった。
だが、24時間一緒にというのは具体的にどうするつもりなんだ?」
「居住を共にし、共に生活を送るということです」
「勘弁してくれよ...なんで、野郎とシェアハウスみたいなことをこの年になってしないといけないんだよ。もっと別の方法はないのか?」
「...そうですね...あるとしたら...24時間カメラで俺達を監視して、異常があればきてもらっ...」
「もういい」
「...ありがとうございます」
こいつ...
「だが、俺も自分のアパートの所在はバレてるし、お前らもそうだろう。となると、別の拠点を用意する必要がある訳だ。それに、俺もお前達も既に働き口が無い。つまり、俺達には活動資金が足りていない。
今後なにをするにも金がいる。そこについては考えか用意はあるのか?」
「もちろんです。拠点と金、両方の問題を解決し、
さらに、俺達の条件もクリアになる方法があります」
ろくな案じゃなさそうだ。




