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等価交換

誰かいる。


暗闇から何者かが近づいてきた。


距離が縮まるにつれて

徐々にその何者かの外見が判明する。


服装はこいつと同じように

威圧感のある服装をしてはいるが、黒髪の短髪。

服装以外は正反対だ。

そしてなによりガタイがいい。


年齢は20代か、30代か。

年齢不詳の見た目だな。


「約束というのはこいつも含まれます...」


新たな登場人物を踏まえて説明をし始める。


「順番に説明します...まず俺は戸田って言います。

そんでこいつは俺の後輩の下柳って言います。」


「下柳です」


これ以上ないほど簡潔な自己紹介だ。


「後輩?」


「はい、下柳のことを俺が後輩と紹介したのは

プライベートの関係性のことではなく、俺達は仕事上の先輩と後輩になります...

あ、それで...あんたの名前は?なんて呼んだらいいですか?」


「それは情報を聞き取る為の質問か?」


「いえ、違います。もう情報は必要無くなりましたから...」


「必要無くなった?俺の情報を得る為に指示されて来たと言ったろ?」


「はい、その通りです。ただもうその役割は終わったんです」


「終わった?」

 

「厳密に言えば俺達はもう既に失敗したんです」


「どういう事だ」


「人ひとりから情報を引き出すのに時間をかけ過ぎた 

俺達の組織は厳しいんです...

この時間に完了報告が出来ていない時点で終わりです。

俺達があんたを甘くみてた。自業自得です」


少し驚いた。


「戸田?だったか

お前は話の通じない人種かと思っていたが、ある程度の会話はできそうだな。

おれは立川。立川浩司だ」


名前ぐらいは

名乗っても問題ないだろう。


「ありがとうございます...

立川さん...話を続けますが、立川さんはどこまで何を知っていますか?」


「どこまでも何も、ほぼ何も知らない。 

俺の情報量は松下に関して言えば、

ニュースの情報しか知らないから、そこら辺の人と変わらない。だからこそお前達に接触したんだ」


「それは...本当ですか?」


「本当だ。それに本当じゃなかったとしても、お前に疑われる筋合いはない」


「そうですね...

では、ほぼ何も知らない状態で電話をかけたと。

...それなら電話番号は何故知っていたんです?」

 

「知らない奴から番号が送られてきたから電話した」


言葉にするとやっぱり阿呆だな。


「?

その送り主に心当たりは?

それに他にはなんて連絡きたんです?」


「心当たりはまったくない。それにきたのは番号だけだ。他に文章なんかない。」


スマホを出して、該当のメッセージを見せる。


「というと...

誰が送ったかも分からない番号だけのメッセージを見て、その番号に電話をかけ、呼びつけて、俺を半殺しにしたと...?」



「まあそういう事になるが...省きすぎだろ。

それにお前が殴られたのはお前が先にナイフを出したからだろ」



「おれは刺す気なんかありませんでしたよ...

ちょっと脅して、凶器をチラつかせれば喋り出すだろうと。素人なんて大体そうだったんで...

凶器に向かって突っ込んで、掴んだ人間は

立川さんが最初で最後でしょうね」


「それは...まあ...悪かった」


「あ、いえ、すいません...

では、立川さんが本当に何も知らないと仮定して、前提の状況を説明します。

まずさっき紹介した下柳と俺は仕事であの公園に行きました」


「指示されたと言っていたな」


「はい、俺達の仕事は金貸しです。

まあもっと分かりやすく言うと闇金ですね。

立川さんが電話を掛けた相手は俺達の会社の社長です。

田沼っていうんですけど、本当に知らないんですよね?」


「知らない。

お前達が闇金というのも今知ったし、田沼という苗字も初めて聞いた」


「そうですよね。

田沼社長を知っていたら、あんな話し方はできないですもんね。

田沼社長は関東エリアで政界やヤクザ界までにも幅を利かせている超大物です。その業界で知らない人はいないでしょう。

頭が切れるのは当たり前ですが、有名なのは実行力と残虐性ですね。

やると言ったら必ずやる。

死んでもやる。

そしてその為なら邪魔する者、邪魔になる者、年齢、性別問わず排除される。邪魔となる本命はもちろん、

本命に少しでも関わりがあれば皆諸共。

そういう人です。

なので今回のミスで俺はたぶん、

罰として、手と足の指を数本は取られるでしょう。

それぐらいの事は日常的に行われています。

そして、

ここが約束に繋がります...

俺と下柳、俺達を

一緒に行動させてください」


「いや、なんでそうなる?」


突拍子もないとはこの事だ。


「さっき言った通り、今回の件で俺達に居場所は無くなりました。戻れば罰は免れない。

俺達の仕事は2人1組となって動きます。

成功も失敗も2人が享受することによって、

お互いに監視し合う為です。

俺が失敗した時の為に近くに下柳を配置してましたが、

あの状況に下柳が加わっても状況が悪化するだけだと俺は判断し、立川さんにバレない様に合図を出し、

ついてくるように指示を出していました。

それでこいつも廃墟まで後をついてきた訳です。

この世界は弱肉強食でしょう。

それは学校、会社、そして闇金でも同じです。

弱者は強者と共存することで生存率が高まる。

戻れば罰せられる。 

それなら弱者の俺達は立川さんについた方が生存率がぐっと高くなる。

だから、俺達も一緒に行動させてほしい。

もっと簡単に言うなら...

情報は全て渡す代わりに俺達を守ってほしい。

もちろん一方的に守られるほど、俺達もそこまで弱くはない。

助けになれる時もあるはずです。

それが許されるなら、知っている事は全て話します」


「なあ、戸田」


「はい」


「そうやって取り入るのが目的か?」


「断じて違います」


「それをどう証明する?」


「...俺と下柳は今まで大きなミスなく仕事をこなしてきましたが、それはたまたまです。

いつミスが起き、いつ罰せられるか日々怯え、ただ言われる仕事をこなしてきました。

...ずっと前から俺達は限界だったんです。

正直、キッカケが欲しかっただけです。

現状から抜け出すキッカケが。

...理由は証明になりませんか?」


「ならないな。全て口だけだ。誰でもできる証明だ」


「分かりました」


戸田がおもむろに近くにあった年季の入ったテーブルを持ってきた。

左の手のひらを上に向けて置き、人差し指のみをテーブルからはみ出させている。


「何してる」


「証明です」


次の瞬間、反対の手で拳をつくり、テーブルからはみ出た己の人差し指を本来曲がる方向とは逆に衝撃を与えた。


[ゴキッ]


小さく鈍い音が静かに鳴り、戸田の指がありえない方向に曲がっていた。


「...っ!これで...どうでしょう...?誰でもできる証明では...ないでしょう?」


「なぜそこまでする」


「...言ったでしょう。現状から抜け出したい。...俺達はもう限界なんです。

そのキッカケが目の前にあるなら、可能性の糸があるなら...掴みたい」


戸田も下柳も真剣な眼差しでこちらを見ている。

もう後がないと言わんばかりに。


公園でのような威勢はなく、

今はもう捨てられた犬のように弱々しく見える。


正直、真偽は分からない。

だが、これ以上はお互いに埒が明かないだろう。


信用する以外に前に進む道はなさそうだ。


それに情報は欲しい。

情報がなければ戦う相手すら分からない。


たが、戸田の言うことを信じるとなると、

こいつらと組むことでさらに敵を増やすことになる。


こういう奴等はミスった身内を放っておくわけがない。


過去の経験からもそうだ。


戸田や下柳を処罰する為の人間が現れる。

つまり追手が出てくる可能性が高いだろう。


共に行動している時に追手が来たとなれば、俺も否応なしに対処しなければなるまい。


俺を嵌めた奴も判明していない中で、こいつらの追手が新たな敵として増えることになる。


だが情報は必要だ。


どうするか。



新たな敵...


新たな...?



「戸田、お前言ったよな?

自分たちは金貸しで、2人1組で動くと。」


「はい」


「お前のいるその闇金に身長が高い奴とデブの2人組がいないか?」


「いますね、なんで知ってるんです?」


そういうことか。


「お前のその闇金の名前は?」



「ハッピーファイナンスです」



やっぱりそうだよな。


なら、最初から敵じゃないか。


それなら悩む必要はない。

最初から敵だったのだから。


理不尽な暴力で俺を蹂躙した2人組。

そいつらが持ってきた借用書。


そこに書いてあった実態の無い法人名。

忘れる訳がない。


「OK、その話に乗ろう。

その代わり知っていることは全部話せ。嘘や誤情報があれば俺達の関係は解消だ。それでいいな?」


「分かりました。ありがとうございます。

ではまず、松下さんについて

俺の知っている情報を話します」



戸田の目に真剣さが宿る。



そして、

ゆっくり口を開いた。

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