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邂逅

「あと15分」



公園外の道路脇の歩道を歩きながら、

公園内を見渡す。


今の所、指定したベンチ付近に

それらしい人物はいない。


別の目的地がある人間のように装う。

同じ道を行き来するような怪しい行動は控え、

進んだ道を戻ることがないように

ひたすら前進しながら、ゆっくりと辺りを歩く。


スマホを確認する。

18時25分



あと5分



思えば、この辺りを歩くのは久しぶりだな。


数年前だったか、

松下と、近くの馴染みの居酒屋で飲んで、

いつものようにくだらない話で盛り上がり、

次は俺のアパートで飲み直そうと。


道中のコンビニで、

それぞれ安い酒と安いつまみを買って、

この公園の前をスキップなんかして、

子供みたいに笑いながらふざけて帰った。


懐かしく楽しい思い出だ。


取り返しのつかない思い出を脳内で再生する時

脳が焼かれるような感覚になる。



お金が無いことも

孤独であることも、

日常への不満も

全て忘れて、

生の喜びを味わっていた。


生まれて良かったなんて言ったら大袈裟だが、

ああいう友人との何気ない出来事の積み重ねが

生きている時間の密度を高めてくれる。


自分は恵まれていると感じることができる。

総じて、それは今日まで生きている自分を

肯定することに繋がっていた。



と俺は思っていた。


松下、お前はどうなんだ。


俺との時間が終わって、

お前は家に帰って何を思ってたんだ。


何を思って、

死体を置いていた。

何を思って、

死体と暮らしていた。


理由を知らないと。

お前の気持ちを聞かないと。


俺はこれから先、

自分を肯定する日が来る事はない。


自分の生を肯定できるその日を迎える為に


今日を迎え撃つ。



18時29分

あと1分


まだそれらしい姿はない。


このまま現れない可能性も十分有り得る。

その場合次の一手はどうす...




来た。



マスクも帽子もしていない。

変装する気なんてまるで無い。


明るい髪色。

背丈は170cm前後、

年齢は20代後半といったところだろうか。


それにしても服装と態度だ。


何だあれは。


ガラの悪い服装に派手なネックレス。


右手はポケットに突っ込み、

左手でタバコを吸っている。


明らかに場違いで、異質だ。


公園で遊んでいた子供達や

見守っている親達も明らかに怪訝な顔をしている。


あんな奴に話しかければ、

俺も注目を浴びるのは必至だ。

あいつは何を考えてるんだ?


何かの意図があってのことか?

意図がないとすれば、ただの低脳だ。


人を威嚇するような見た目と態度は、

それに比例して、知性のなさの象徴だ。


あんな奴とまともに会話ができるのか?


だが、この際仕方がない。

ここで接触できずに終われば2度目は無いだろう。


何か意図や罠があるなら、

受けて立つしか方法はない。


覚悟を決め、奴に向かう。



残り数メートルまで近づいたところで

俺に気づく。


「あんたか?

松下の名前を使って電話してきたのは。

あんたはどこの誰で、何が目的だ?」


「それはこっちのセリフだ」


「質問に答えろ。

お前は誰で、目的は何だ?」


「こっちのセリフだと言っている」


「質問してんのはこっちなんだよ。

脳みそが入ってないのか?

てめえは誰だ?目的は?」


「お前こそ脳みそ入ってないのか?

同じ事を何度も言わせるな」


「聞き方を変えるか」


ポケットに突っ込んでいた右手から

バタフライナイフが出てくる。



こいつ、正気か?

公園の中で

しかもこれだけの人の目がある中で。



「次、質問に答えなければ刺す。

答えない度に刺す。

お前に拒否権は無い。

もう一度聞く。

お前は誰だ?

お前の目的は?」



暴力と恐怖をチラつかせて

強制的に服従させようとする。


典型的な敵。

あいつらと同類。


先に仕掛けたのはお前だ。


お前達だ。



「壊れろ」


「は?」


目の前の敵に向かって走り出す。



自分の想定と違う反応だったのか

明らかに狼狽えている。


立ち姿と発声からさっきまでの態度は虚勢であったことは明白だ。


「急になんだよ、気色わりい...!」


焦り出したその表情で

ナイフを闇雲に振り回しだす。


そんな素人丸出しの動きをされては

逆に厄介で、かわすのは至難の業だ。



どうする。


そうだな。



構わず突っ込む。


さらに足の回転を早めて、懐に入る。


明らかに動揺を増して、

速度を上げて振り回すナイフの刃を

構わず左手で掴んで止める。


皮膚が裂ける感触。


指が落ちようが、

手首が落ちようが関係ない。


情報を聞き出す為に。



掴んだナイフを離さないように

さらに力を入れる。


手の平から血が溢れてこぼれる。

不思議と痛みはない。


神経の痛みより、

決意の精神が上回る。


「...離せ!」


せわしなかった動きが緩まった瞬間、

右の拳を顔に振り下ろす。


「...!」


その衝撃でナイフを落とし、

これ以上殴られないようにと

怯える子供の様に

自分の両手で顔を庇っている。


さらに拳を振り下ろす。


その拳の勢いに負けて、

後ろに倒れ込んだ体に馬乗りになり、

何度も拳を振り下ろす。


何度も。



これか。

この風景か。


これが蹂躙する側の視界。


何も笑えない。



「やめっ...!もう...!」


まだ喋れるか。


拳が腫れてきた。


庇っている手が邪魔だ。


大きく肘を上げて、振りをつける。


「やめろ...!もうやめろ...!」


「命令形しか使えないのか?」


一度ブレーキを踏み掛けた肘を

再度スタート地点に戻す。


「やめっ

やめて...ください。

し...質問なら...

答え...答えます。

だから...もう、やめてください...」


腫れて怯えた顔で喋り出す。


「お、俺は18時半に...

こ、この場所に。

そしてそこに来た奴の素性を

情報を

と、取ってこい。

そう指示されて来ただけです...」


「何?

電話に出たのはお前じゃないのか?」


「はい、俺じゃありません...」


「じゃあ、お前にここに行くように指示したのは

だ...れ...」



ハッとする。


周りを見渡すといくつものスマホが

こちらにレンズを向けている。


普段なら許されない行為を

己の好奇心が許可している異様な光景。


この場を離れなくては。


警察でも来ようものなら

こいつを横取りされてしまう。


「ついてこい。

逃げたら、分かるよな?」


すぐさま立ち上がり、目で移動を合図する。


こいつもこの場にいてはまずいということは

分かるのだろう。

しぶしぶの様子でついてくる。


2人で駆け足に公園を出る。



このあたりは

アパートの近所なのである程度詳しい。


勝手口のガラスが割れ

そこが玄関となっている廃墟と化した古い家屋に

身を潜める。


とりあえずはここでいいだろう。



「さっさと話せ。誰の指示で来たのか。

お前は誰なのか。

そして松下を知っているのか。

知っている事は全部話せ。

さっきの続きがしたくないならな」


一瞬でも早く知りたい。

知らなければならない。



「...」


「おい。聞こえなかったのか。

そんなに続きがしたいのか?」


「い、いえっ...分かりました...

言います、言いますが...

ただ一つだけ...

約束して欲しい事があります...」


「もったいぶるな、早く言え」




ん?


何だ?

俺達以外に人の気配がする。


周囲を見渡す。


微かな月明かりしかない状況では

肉眼では見えづらい...

 

...だが、いる。



暗闇から足音がする。


ゆっくりと

こちらに近づいてくる。




誰かいる。





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